加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

0

別件逮捕・勾留の適法性

別件逮捕・勾留の適法性の判断基準について実態喪失説を採用する場合、①別件・逮捕勾留の適法性については、㋐別件について逮捕・勾留の要件を満たすか、㋑満たすとして「別件を被疑事実とする逮捕・勾留の期間が主として本件の捜査のために利用されているため、逮捕・勾留が別件による身体拘束としての実体を失うに至っているか」、という流れで検討する、②仮に㋑により別件逮捕・勾留が違法と判断された場合には、余罪取調べの限界に関する論点に言及するまでもなく、実体喪失後の取調べは違法な身体拘束下で行われたものとして違法になる、という理解でよろしいでしょうか。

上記の理解で問題ありません。

まず、別件逮捕・勾留の適法性については、本件基準説・別件基準説・実体喪失説のいずれを採用する場合であっても、別件について逮捕・勾留の要件を満たすかどうかから検討することになります。本件基準説・実体喪失説も、別件について逮捕・勾留の要件を満たしていることが適法性の十分条件ではないとするだけであり、別件について逮捕・勾留の要件を満たすことは適法性の必要条件です。別件について逮捕・勾留の要件を満たす場合に初めて、本件基準説・実体喪失説に固有の判断基準が発動することになります。令和1年司法試験設問1の採点実感でも、本件基準説について「本件基準説の考え方は、逮捕・勾留の要件が満たされている別件による身体拘束であっても、請求時の捜査官の意図や、あるいは逮捕・勾留後の捜査・取調べ状況の実質に鑑み、本件の身体拘束と評価される場合には違法とするものであ・・る」とされています。

次に、本件基準説や実体喪失説から別件逮捕・勾留が違法と評価される場合には、余罪の取調べの問題は逮捕・勾留の適否の問題に埋没し、余罪取調べ自体の適否を論じる実益はなくなると思われる、と理解されています(宇藤崇ほか「リーガルクエスト刑事訴訟法」第2版113~114頁)。酒巻匡「刑事訴訟法」初版98~99頁でも、逮捕・勾留の違法がこれを利用して行われた取調べの違法に直結することを前提にしていると思われる記述があります。したがって、実体喪失説を適用し、「別件を被疑事実とする逮捕・勾留の期間が主として本件の捜査のために利用されているため、逮捕・勾留が別件による身体拘束としての実体を失うに至っている」として別件逮捕勾留が違法と判断された場合には、余罪取調べの限界に関する論点に言及するまでもなく、実体喪失後の取調べは違法な身体拘束下で行われたものとして違法になることになります。逆に、余罪取調べの限界という論点が顕在化するのは、別件逮捕・勾留が適法であると判断された場合です(古江賴隆「事例演習刑事訴訟法」第2版94~95頁、川出敏裕「判例講座刑事訴訟法  捜査・証拠篇」初版98頁)。

2020年09月14日
講義のご紹介
もっと見る

コメントする

コメントを残す

コメントをするには会員登録(無料)が必要です
※スパムコメントを防ぐため、コメントの掲載には管理者の承認が行われます。
※記事が削除された場合も、投稿したコメントは削除されます。ご了承ください。

加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

kato portrait
加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
質問コーナーのカテゴリ
ブログ記事のカテゴリ