加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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消極目的に基づく財産権者に対する不利益処分について、侵害行為の個別性を根拠として特別の犠牲を肯定することの可否

平成27年司法試験・採点実感には、消防法12条2項に基づく危険物の一般取扱所を対象とする移転命令に応じて移転に要した費用について損失補償請求することの可否が問われている設問3について、「損失補償の要否について、形式的基準と実質的基準の二つを示しながら、それらを必ずしも正確に理解しないまま本件に当てはめて損失補償の要否を判断している答案が相当数見られた。特に、「侵害行為の対象が一般的か個別的か」という形式的基準を前提として、「本件では消防法上の移転命令がXという特定人に対して適用されるから損失補償が必要」と論じる答案が相当数見られた。しかし,この論理を適用すれば、およそあらゆる不利益処分に対して損失補償が必要になってしまうのであって、本件では、侵害行為の対象が一般的か個別的かという基準は全く決め手とはならない。」とあります。この記述は、付近に保安物件が建築されれば移転等の措置をしなくてはいけなくなるという意味で一般的に規制をしたものということなのでしょうか。それとも、形式的基準による安易な損失補肯定を批判していた記述なのでしょうか。

損失補償の要件である特別の犠牲については、現在は、形式・実質二要件説ではなく、実質要件説により判断されます。実質要件説の下では、形式・実質二要件説における形式的基準は、独立の要件から、実質的要件を判断する上で必要な限度で考慮される一要素に格下げされることになります。なので、事案によっては、「侵害行為の対象が一般的か個別的か」という形式的基準が「財産権の内在的制約として受忍すべき限度を超え・・る」(中原茂樹「基本行政法」第3版442頁)かという実質的要件の該当性を判断する際に意味を持たないこともあります。

消極目的に基づく財産権者に対する不利益処分は、本来的には、特定の財産の保有者全般が公共の福祉を保持するために負担している内在的制約が、一部の規制違反者との関係で現実化したものにとどまります(最小判昭和58・2・18・百Ⅱ247参照)。特定の財産の保有者全般に対して消極目的に基づく法律により内在的制約が課せられている場合においては、そのうちの誰かが法律に違反したときには規制目的を担保するために不利益処分がなされるという仕組みになっていることが多いです。そして、規制違反を理由として一部の人達が不利益処分を受けるに至ったのは、その人達が規制に違反したからです。そこを捉えて、侵害行為の個別性があるとして内在的制約を超える侵害行為であるというのでは、消極目的規制違反を理由とする不利益処分についてことごとく特別の犠牲が認められる(しかも、その一方で、規制を遵守している者との関係では特別の犠牲が認められない)という、不合理なことになります。そのため、消極目的規制違反を理由とする不利益処分については、よほど特殊な事情がない限り、その名宛人が当該特定の財産の保有者の一部であることに着目する形で侵害行為の個別性ありとして特別の犠牲を認めることはできない、と理解することになります。

2020年09月07日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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