加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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表現の自由とプライバシーの権利との調整について論じる場面

平成23年司法試験の出題趣旨・採点実感では、「公道から当該地域の風景を撮影したZ機能画像をインターネットで見ることができる機能に基づくサービス」を規制する法令の憲法21条1項適合性が問われた事案において、「本問における表現の自由の制約の合憲性をめぐって問われているのは、表現の自由とプライバシーの権利の調整である」(出題趣旨)、「本件における表現の自由と本件におけるプライバシーの権利の調整という、事案に即した検討を行って、事案を解決するという意識が足りない」(採点実感)という指摘がなされています。平成23年司法試験のように、プライバシー保護を目的とした表現規制の憲法21条1項適合性が問題となる事案では、「表現の自由とプライバシーの権利の調整」という視点は違憲審査のどの段階で示せばいいのでしょうか。

被制約権利(表現の自由)と反対利益(プライバシー)の衝突を、「保護法益であるプライバシーは重要であるから、違憲審査基準を引き下げるべきである」といった形で、違憲審査基準を定立過程で取り上げるのは避けるべきです。例えば、平成30年司法試験採点実感では、「立法目的が重要だから審査基準が緩和されるのかについては十分な議論が必要であり、その点を意識した論述が必要である。」とされています。

そこで、違憲審査基準の定立ではなく、適用(当てはめ)に属する目的審査で言及するべきです。中間審査の基準における「重要な利益」とは、制約されている憲法上の権利との比較による相対的な重要性を意味します(曽我部ほか「憲法論点教室」第2版16頁)。平成30年司法試験出題趣旨でも、「審査基準の・・当てはめにおいて、・・本条例の目的についての検討、すなわち、青少年の健全育成の目的や、一般市民がむやみに卑わいな画像等に触れないようにするという目的が、憲法上の権利を制約する目的としてふさわしいものであるかどうかを意識した議論をすることが考えられよう。」とされているため、司法試験委員会も「重要な利益」について「制約されている憲法上の権利との比較による相対的な重要性」と理解しているといえます。このように、中間審査の基準を採用すれば、目的審査において、制約されている表現の自由の価値(「表現の自由」一般の価値ではなく、Z機能画像をインターネット上で提供するサービスの価値)とこれにより侵害され得るプライバシーの価値(「プライバシー」一般の価値ではなく、Z機能画像をインターネット上で提供することにより侵害され得るプライバシーの価値)とを比較較量することで、目的の合憲性を検討することができます。
なお、厳格審査の基準の目的審査の内容である「やむにやまれぬ利益」については、制約されている憲法上の権利との比較によることなく、当該利益自体に着目して絶対的に判断されるため、「重大な利益」と異なり、衝突する憲法上の権利ごとにその肯否(やむにやまれぬ利益といえるかどうか)が変わる余地はありません。そのため、厳格審査の基準を採用した場合には、目的審査において制約されている表現の自由の価値とこれにより侵害され得るプライバシーの価値とを比較較量するということは、避けたほうがいいです。目的審査で表現の自由とプライバシーの比較較量をすることが求められていると思われる事案では、中間審査の基準を採用するのが無難だと思います。

2020年09月07日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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