加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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職業規制に関する違憲審査基準の定立過程では人権の重要性も考慮するのか

お世話になっております。憲法の基礎問題演習講座を受講している者です。
先生は講義において、職業選択の自由の違憲審査基準の厳格度は、規制の目的と規制の態様で判断するとおっしゃっていました。
しかし、令和2年司法試験の採点実感では、制約される権利の重要性も審査基準を設定する上で考慮されているように思えました。
先生の中で制約される権利の重要性はどのように位置付けていらっしゃるのかについてご意見を伺えると幸いです。

職業規制に関する違憲審査基準の定立過程では、制約の強度と制約の目的の2点を(主として)考慮するというのが一般的な理解です(例えば、「憲法論点教室」(第2版)154頁以下、「憲法判例の射程」(初版)135頁以下)。

確かに、令和2年司法試験の採点実感には、「2 違憲審査について (2)多くの答案は、審査基準を設定するに際し、①制約されている権利の重要性、②制約の強度、③制約の目的(消極目的か積極目的か)を検討した上で基準の設定を行っていたが、①から③までの検討と具体的な審査基準とのつながりが不明確な答案が少なくなかった。」との記述があります。

しかし、この記述は、職業規制である規制①と移動規制である規制②の双方を対象とした「第1 総論」という項目の中におけるものであり、「第2 規制①について」という項目においては、「①制約されている人権の重要性」を考慮することを前提とした記述は見当たりません。

また、令和2年司法試験の出題趣旨では、「規制①については、規制の強度、規制の目的、生活路線バス事業の特徴等を踏まえて審査基準を定立し、規制の憲法適合性について検討することが求められる。この点については、薬事法事件判決(最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁)が参考になる。…(中略)…同判決は,一般に許可制は職業の自由に対する強力な制限であるから,それが合憲とされるためには重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するとしている。また,許可制による規制が消極目的から採られた場合には,許可制に比べて職業の自由に対するより緩やかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によっては目的を十分に達成することができないと認められることを要するとされる。」、「規制①は、バス事業を一つの職業として見た場合,形式的には職業遂行の自由に対する制約にとどまるとも解し得るが、専ら高速路線バスのみを運行してきた乗合バス事業者にとっては,狭義の職業選択の自由に対する制約に等しいとも言える。…(中略)…また,規制①の目的として、地域の公共交通の維持と、高齢者の運転ミスからの高齢者自身及び第三者の身体・生命の保護が挙げられている。そのため、規制の主目的と副次的目的の区別が可能であるかどうか、また、可能であるとした場合、どちらが主目的であるのかの検討も求められよう(前掲薬事法事件判決参照)。」と記述されており、ここでは職業規制に関する違憲審査基準の定立過程で「②制約の強度、③制約の目的」を考慮することが前提とされています。

他方で、令和2年司法試験の出題趣旨では、移動規制である規制②について、「規制②単なる通過や観光目的での乗り入れのほか、講演会や集会への参加を目的とした自家用車の乗り入れをも禁止する。移動の自由に精神的自由の側面があると解した場合、規制自体は緩やかであっても、その憲法適合性は、相応に慎重に審査されることになろう。」として、移動規制に関する違憲審査基準の定立過程では「①制約されている権利の重要性、②制約の強度」を考慮することが前提とされています。

そうすると、令和2年司法試験の出題趣旨・採点実感においては、職業規制に関する違憲審査基準の定立過程では「②制約の強度、③制約の目的」を考慮し、移動規制に関する違憲審査基準の定立過程では「①制約されている権利の重要性、②制約の強度」を考慮するという見解が採用されており、冒頭で引用した採点実感は、規制①と規制②の双方を対象として違憲審査基準の定立過程で問題となる考慮要素を掲げている(②③が職業規制に関するもの、①②が移動規制に関するもの)と理解することになると考えられます。

特に、規制①のように営業の自由に対する制約にとどまるのか、それとも狭義の職業選択の自由に対する制約に当たるのかということが問題となる事案では、制約の強度という点が、制約されている職業の自由は営業の自由なのか、それとも狭義の職業選択の自由なのかという限りにおいてではあるものの、制約されている人権の重要性という点を包摂します。その意味でも、制約されている人権の重要性という点を、制約の強度及び制約の目的という点から独立して考慮要素とする実益は乏しいです。

もっとも、営業の自由に対する制約にとどまることが比較的明らかである事案では、制約されている人権の重要性という点について、制約の強度及び制約の目的という点から独立して考慮する実益があると考えられるので、その限りにおいては、職業規制に関する違憲審査基準の定立過程でも制約されている人権の重要性が独立に考慮される余地があります。例えば、平成30年司法試験の出題趣旨では、営業の自由に対する制約にとどまることが比較的明らかである事案において、「営業の自由の制約としてどのような審査基準が妥当であるかを議論することが考えられる。青少年の健全育成という目的と一般市民がむやみに卑わいな画像等に触れないようにするという目的をどのようにとらえ,制約される権利の性質,制約の程度等との関係で,どのような審査基準を設定するかの議論をする必要がある。」とされています。この記述のうち「制約される権利の性質」という部分は、制約される人権の重要性を意味していると考えられます。

2023年02月28日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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