学説対立問題を適切に処理するために最低限おさえておくべき知識として問題になるのが、以下の6つです。
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①自説の規範・理由
②反対説の規範
③学説対立が顕在化する典型事例
④反対説の理由
⑤反対説に対する自説からの批判
⑥学説の組み合わせ
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※ 自説・反対説双方の立場の意味を正しく理解していれば③も分かるため、厳密には、③は①②に包摂されます。
以下では、①~⑥のうち、どこまでが答案を完成させるために最低限必要とされるのかについて、令和1年司法試験刑法設問2と令和1年司法試験刑事訴訟法設問1を使って説明いたします。
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令和1年司法試験・刑法設問2
(答案)
設問2
1.①
(1) まず、事後強盗罪は「窃盗」を真正身分とする真正身分犯であると解する。次に、65条1項は真正身分犯の成立と科刑における身分の連帯的作用を規定しており、同条項の「共犯」には共同正犯(60条)も含まれると解する。
(2) そうすると、乙のように、窃盗未遂犯との共謀に基づき238条所定の目的に基づく脅迫のみを実行した後行者には、65条1項の適用により「窃盗」が共謀者間で連帯することにより事後強盗未遂罪の共同正犯の成立が認められる。
2.②
(1) 事後強盗罪は、窃盗行為と暴行・脅迫行為の双方を実行行為とする結合犯であると解する。
(2) そうすると、乙については、事後強盗罪の実行行為の途中から関与した者として承継的共同正犯の成否が問題となるから、承継的共同正犯を全面的に否定する見解からは脅迫罪(222条1項)の共同正犯が成立するにとどまる。
3.自らの見解
(1) 「共同して犯罪を実行した」というためには、関与者間の共謀とそれに基づく実行行為が必要である。乙は、「こいつをなんとかしてくれ」という甲の申し入れに応じて、Cに向かってナイフを示しながら「離せ、ぶっ殺すぞ」と言ったのだから、その直前に、Cを「脅迫」することについて了承していたと評価できる。そのため、甲乙間で、少なくともCを「脅迫」することについての共謀が成立した。
(2) 事後強盗罪の保護法益の中核は窃盗行為に関する財産であるから、窃盗行為を本罪の実行行為から排除するべきでない。そこで、本罪は、窃盗行為と暴行・脅迫行為の双方を実行行為とする結合犯であると解すべきである。乙は、共謀に基づき、前記(1)の言動により、Cに対してその「生命、身体…に対し害を加える旨を告知」することで、Cに対する「脅迫」行為を実行した。
(3) 他方で、乙は窃盗を実行していないから、承継的共同正犯の成否が問題となる。
共同正犯の処罰根拠は構成要件該当事実の共同惹起であるところ、関与前の事実に対して因果性が遡及することはあり得ないから、承継的共同正犯は全面的に認められないと解すべきである。
したがって、乙には、脅迫罪を「共同して…実行した」として、脅迫罪の共同正犯が成立するにとどまる。
設問2では、乙が、窃盗未遂犯甲との共謀に基づき、逮捕免脱目的で、Cに対してナイフを示して「離せ。ぶっ殺すぞ。」と言い脅迫した、という事案を前提として、(1)乙に事後強盗の罪の共同正犯が成立するとの立場からの説明と、(2)乙に脅迫罪の共同正犯が成立するとの立場からの説明の双方に言及した上で、(3)乙の罪責について自らの見解を根拠とともに示すことが求められています。
(1)の説明の1つとして、身分犯説+真正身分犯説+65条1項2項の関係に関する判例通説+65条1項の「共犯」には共同正犯も含まれる、という学説の組み合わせが考えられます。
(2)の説明の1つとして、結合犯説+承継的共同正犯全面否定説という学説の組み合わせが考えられます。
(3)では、(1)(2)いずれとも異なる学説の組み合わせを選択することもあり得ます。
例えば、(1)の学説の組み合わせのうち、真正身分犯説を不真正身分犯説に変更することで、脅迫罪の共同正犯が成立するという結論を自説として導くことができます。
もっとも、(3)で(1)(2)いずれとも異なる学説の組み合わせを選択する場合、学説対立問題としておさえるべき学説の組み合わが2パターンから3パターンに増えてしまいます。
これに対し、(3)で(1)(2)いずれかの学説の組み合わせを選択するのであれば、学説の組み合わせを2パターンおさえておけば足ります。
そして、令和1年設問2に関する採点実感では、『自説については、問題文で「根拠とともに示すこと」とされていることから、自説の根拠や他説に対する批判を積極的に示すことができていた答案は高い評価であった』とされている一方で、小問である(1)(2)については問題文で『根拠とともに示すこと』という指示がありまん。
そのため、(1)(2)では、指示された結論を導くための学説の選択及び論点の組み合わせが重視されており、選択した学説の理由付けまでは求められていない(少なくとも重視されていない)と考えられます。
そうすると、本記事で公開している答案のように、(1)では身分犯説+真正身分犯説+65条1項2項の関係に関する判例通説+65条1項の「共犯」には共同正犯も含まれる、(2)では結合犯説+承継的共同正犯全面否定説という学説の組み合わせを選択し、(3)では(2)を選択するという構成に立った場合に、以下の知識さえあれば答案を完成させることができます。
(1)では、②反対説の規範と⑥反対説を前提とした学説の組み合わせに関する知識を使います。
(2)では、①自説の規範と⑥自説を前提とした学説の組み合わせに関する知識を使います。
(3)では、①自説の理由を使います。
(1)~(3)で論点に気が付く前提として、③を使います。
本問は、令和1年司法試験刑事・訴訟法設問1と異なり、自説⇒反対説⇒反対説の批判という形式の問題ではありませんから、⑤反対説に対する自説からの批判を知らなくても、答案を完成させることができます。
また、(1)(2)では、少なくとも理由付けは重視されていませんから、④反対説の理由を知らなくても、答案を完成させることができます。
以上より、①②③⑥をおさえておけば、答案を完成させることができます。
令和1年司法試験・刑事訴訟法設問1
本問では、別件逮捕・勾留に関する事案において、逮捕・勾留の適法性について、小問(1)では自己の結論を導くための学説と当てはめが問われており、小問(2)では自己の結論と異なる結論を導くための学説と当てはめに加え、(2)の学説を採用しない理由まで問われています。
(1)では、学説の理由付けまで問われています(令和1司法試験・出題趣旨/採点実感)。
したがって、例えば(1)で別件基準説を選択するのであれば、①別件基準説の規範を理由とともに示した上で、規範の正しい意味に従った当てはめをすることになります。
ここで、①自説の規範・理由を使うことになります。
(2)では、結論だけでなく学説も(1)と異なるものを示す必要がありますから、反対説を示す必要があります(令和1司法試験・出題趣旨/採点実感)。
他方で、反対説の理由付けまで問われているのかについては、定かではありません。
令和1司法試験・出題趣旨/採点実感では、(1)における自説としての学説については「その根拠も含め」示すように指摘がありますが、(2)における反対説の根拠を示すべきとの指摘がないからです。
そうすると、反対説の理由については、採点上重視されていない可能性があります。
したがって、(2)で本件基準説を選択する場合には、②本件基準説の規範を示し、その規範の正しい意味に従った当てはめを書いたうえで、⑤本件基準説に対する別件基準説からの批判を書くことになります。
さらに、(1)(2)で両説の違いを踏まえた当てはめをするために、③別件基準説と本件基準説で結論が異なる典型事例についての知識も必要になります。
以上より、①②③⑤をおさえておけば、答案を完成させることができます。
学説対立対策として最低限どこまでおさえておくべきかを判断する際に、参考にして頂ければと思います。
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