加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

令和2年予備試験「憲法」の参考答案・解説(解説動画あり)

1.解説動画

解説レジュメ(問題文・解説・参考答案)を使い、問題文の読み方、現場での頭の使い方、科目ごとの答案の書き方、コンパクトなまとめ方、出題の角度といった問題の違いを跨いで役立つ汎用性の高いことについても丁寧に解説しています。

特に、1.08.50からの問題文の読み方と使い方(問題文を最初から最後まで読んで答案構成をする過程を説明している箇所)は必見であると考えます。

 

2.出題形式を確認する

まず初めに、事案よりも先に、設問を確認します。

本問では、設問が、〔設問〕という形で事案から独立して設けられているわけではありませんが、最終段落に、「以上のような立法による取材活動の制限について、その憲法適合性を論じなさい。」と書いてあります。

ここから、①「取材活動の制限」を内容とする「立法」の「憲法適合性」が問われていることと(論じる対象)、②三者間形式でも法律意見書形式でもない、反論の明示が不要であること(論じ方)を確認することができます。

 

3.何が、どうった目的で規制されているのかを確認する

次に、何がどういった目的で規制されているのかを確認します。つまり、規制目的と規制対象を確認します。

規制対象は、被侵害利益として、答案(違憲審査)の出発点になるものである上、答案の型(違憲審査の枠組み)をも決するものですから、出来るだけ早い段階で把握する必要があります。

規制目的は、目的手段審査の出発点になるものです。規制目的の把握を誤ると、目的審査だけでなく、目的と手段の関係性を問う手段審査でも的外れなこと書くことになってしまいます。したがって、規制対象と同じくらい、正確に把握する必要があります。

必ずしも規制事案が出題されるわけではありませんが、大部分の問題は規制事案ですから、規制事案であることを念頭において事案を読み始めて構いません。事案を読んでいる過程で規制事案ではないことに気が付いたら、その段階で規制事案として事案を読むのを止めれ(それ以外の類型に属する事案として事案を読め)ばいいだけです。

事案2段落目における「そのような状況の下で、犯罪被害者及びその家族等の保護を目的として、これらの者に対する取材活動を制限する立法が行われることとなった。」との記述から、規制対象が「犯罪被害者及びその家族等・・に対する取材活動」であることと、規制目的が取材活動から「犯罪被害者及びその家族等」を保護することであることが分かります。

規制対象については、事案3段落目で具体的に書かれています。事案3段落目から、「報道関係者」が、「犯罪等」(⇒「犯罪及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為」)について
、「犯罪被害者等」(⇒「犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族」)に対して、その者らの「同意」がないのに、「取材等」(⇒「取材及び取材目的での接触」⇒「自宅・勤務先等への訪問、電話、ファックス、メール、手紙、外出時の接近等」)をすることを規制対象として把握することができます。

規制目的については、事案1段落目で具体的に書かれています。本件立法が「犯罪被害者及びその家族等」のいかなる法益を保護しようとしているのかというと、「私生活の平穏」、すなわちプライバシーです。

したがって、本件立法は、「犯罪被害者及びその家族等」の「私生活の平穏」という意味でのプライバシーを保護するために、「報道関係者」が「犯罪等」について「犯罪被害者等」(⇒「犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族」)に対してその者らの「同意」がないのに「取材等」をすること規制していることになります。

 

4.違憲審査の枠組み

設問で求められている本件立法の「憲法適合性」ですから、違憲審査の枠組みとして、違憲・合憲の結論を導くことができるものを選択することになります。

取材の自由に関する最高裁判例がいくつかありますが、多くの受験者が想起するのは博多駅事件決定(最大決昭和44・11・26・百選Ⅰ73)だと思います。

博多駅事件決定は、地方裁判所による取材結果の提出命令の憲法21条1項適合性が問題となった事案において、「報道機関の報道」が憲法21条1項により直接保障されることと、「取材の自由」が「憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値するもの」として憲法21条1項により保障されることを認めた上で、「取材の自由・・も、・・公正な裁判の実現というような憲法上の要請」により「ある程度の制約を受けること」があるとの理由から、取材結果の証拠としての必要性と報道機関の不利益を「比較衡量」して「これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合」に、「それによって受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮」することを、取材結果の提出命令の要件としています。

本問でも上記の「比較衡量」の枠組みを用いるべきかについては、難しいところです。

私なら、試験対策という観点から、「保障⇒制約⇒違憲審査基準の設定⇒当てはめ」という「違憲審査の枠組み」を用います。

理由は、以下の2つです。

  • 憲法の論文試験で一番重要なことは、問題文のヒントに食らいつき、違憲審査の枠組みに落とし込む形で問題文のヒントを法的に構成し、その内容を文章化して答案に反映することです。受験者が違憲審査の枠組みレベルのことで迷うような問題では、採点上、違憲審査の枠組み自体は重視されていません。大事なことは、「違憲・合憲」という結論を導くことができる「違憲審査の枠組み」を採用することと、採用した「違憲審査の枠組み」を前提として、問題文のヒントに食らいつき、違憲審査の枠組みに落とし込む形で問題文のヒントを法的に構成し、その内容を文章化して答案に反映することの2点です。これは、後者に関連することですが、受験者が違憲審査の枠組みレベルのことで迷うような問題において、違憲審査の枠組みの選択が採点に影響するのは、「本事例において、自分にとって書き易い」枠組みを選択することができたかという点です。「本事例において、自分にとって書き難い」枠組みを選択してしまったことにより、問題文のヒントを答案に反映することができなくなった結果として、事実の摘示・評価という小さな配点項目での失点を積み重ねていくことになるという形で、低評価になるわけです。博多駅事件決定の比較衡量の枠組みは、法令違憲ではなく処分違憲に関するものである、目的が「公正な裁判の実現」である、及び取材結果の提出命令という取材活動そのものに対する制限ではない事例を前提としたものであるという3点において、本事例とだいぶことなるケースを前提としたものですから、本事例では使いにくいと思います。逆に、本事例は、三段階審査論だと、非常に書きやすいです。
  • 司法試験委員会は三段階審査論を違憲審査の基本的な枠組みであると理解していること(平成30年以降の出題趣旨・採点実感参照)からすると、憲法21条1項により保障される自由権に対する規制については三段階審査論を用いて論じることが求められている可能性がそれなりにあります。

 

5.取材の自由が憲法上保障されるか

本問では、「保障⇒制約⇒正当化」という枠組みを採用します。そこで、以下では、「保障⇒制約⇒正当化」という流れで説明していきます。

博多駅事件決定は、「報道機関の報道」が憲法21条1項により直接保障されることと、「取材の自由」が「憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値するもの」として憲法21条1項により保障されることを認めています。

同決定における「憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値するもの」との判示については、一応憲法21条1項の保障の射程内にはあるが、報道の自由よりも保障の程度が低いことを意味していると理解されています(木下ほか「精読憲法判例[人権編]初版435頁、青柳「憲法」初版174頁)。

取材の自由の憲法上の保障については、私の参考答案のように、博多駅事件決定を踏まえて論じることになります。

 

6.取材の自由に対する制約

本件立法が取材の自由を制約していることは明らかです。もっとも、だからといって「本件立法は、取材の自由を制約している」とだけ書くのでは不十分です。

過去の司法試験の出題趣旨・採点実感でも、制約が認められることが比較的明らかである場合であっても、制約について具体的に論じることが求められています。

したがって、長々と書く必要まではありませんが、私の参考答案のように、理由を付して、制約を認定することになります。

7.正当化

(1) 形式的観点

  • 三段階審査論では、制約の正当化は形式的観点と実質的観点から審査されることになります(小山剛「憲法上の権利の作法」第3版47頁)。
    本問では、形式的観点に属する「明確性の原則」や「過度の広汎性の原則」を問題にする余地があると思います(なお、「明確性の原則」「過度の広汎性の原則」という表現は、令和1年司法試験採点実感で用いられているものです)。
    「明確性の原則」や「過度の広汎性の原則」が問われているかについて迷った場合には、軽くでも良いので、言及したほうが良いです。司法試験では、憲法21条1項との関係で、過去に3度も、メイン論点の一つとして出題されています(平成20年、平成30年、令和1年)。
    予備試験でも、憲法21条1項が出題され、問題文に規制対象に関する文言に関することなど「明確性の原則」「過度の広汎性の原則」が問われていることを窺わせる記述がある場合には、これらが問われている可能性が高いです。
  • 「明確性の原則」「過度の広汎性の原則」は、自由権規制との関係で顕在化する場合には、制約の正当化を審査する観点の一方である形式的観点に属するものですから、「保障⇒制約」を肯定した後に、「正当化」として論じるべきものです(これに対し、これらの原則が憲法31条との関係だけで問題になるのであれば、「保障⇒制約」という検討はしません)。
    知る自由を規制する条例の憲法21条1項適合性が問われた平成30年司法試験の出題趣旨でも、「憲法第21条に関しては、まず、知る自由が、憲法第21条第1項により保障されることに言及した上で、購入や貸与を受けることを制限される青少年について、その自由の制約に なるかどうかを論じることとなろう。制約になるとした場合、まず、明確性の原則との関係で、規制図書類の定義が適切かどうか、「衣服の全部又は一部を着けない者の卑わいな姿態」「殊更に性的感情を刺激する」との文言が曖昧、不明確でないかどうかの検討が必要となる。」と書かれています。
    本問では、「明確性の原則」「過度の広汎性の原則」が取材の自由の規制として顕在化しているので、「保障⇒制約」を肯定した後に、「正当化」としてこれらの原則について論じることになります。
  • 私の答案では、明確性を判断する際の基準となる者を「通常の判断能力を有する一般人」(徳島市公安条例事件・最大判昭和50・9・10・百選Ⅰ83)から、「報道関係者」に変更しています。
    明確性の原則の根拠は「法適用の恣意を排除して国民に対して公正な告知をするという罪刑法定主義の帰結」(憲法31条)と「萎縮効果の除去の要請」(憲法21条1項)にあるところ、報道関係者だけを名宛人とする本件立法に関する公正な告知の有無や萎縮効果は報道関係者についてしか問題とならないからです。
    この問題意識は、Y県立大学医学部が同大学医学部研究者だけを名宛人として制定した審査委員会規則の文言の明確性が問題となった平成21年司法試験でも出題されています。
    平成21年司法試験ヒアリングでは、「例えば、文面上の違憲性の問題として、規則の「被験者の死亡その他…重大な事態」との文言の明確性が問題になり、これは必ずと言って良いほど受験者が書く論点だが、今回の問題の事例は、専門家である大学教授の間での基準であるので、いわゆる徳島市公安条例事件判決に言う「通常の判断能力を持つ一般人」の基準をそのまま適用するのは適切ではない。判決の事例との違いを意識せずに、機械的にそのまま判例の基準を書いて結論を出してあるようなものは、「不良」ということになる。」と指摘されています。
  • 私の答案では、「犯罪等」及び「取材等」について、「明確性の原則」に違反すると認定しています。本来であれば、「合憲限定解釈による不明確性の払拭の可否」まで書くべきであり、それが理想的な答案です。
    令和1年司法試験採点実感でも、「明確性の原則や過度の広汎性の問題を取り上げた場合には、合憲限定解釈の可能性に触れてしかるべき場合があるはずであるが、合憲限定解釈について触れた答案は非常に少なかった。」と指摘されています。
    もっとも、「1行28~30文字 88行」という紙面制限があるため、「合憲限定解釈による不明確性の払拭の可否」まで書くと実質的観点についての論述が浅くなることと、問われているかどうかが不明である「明確性の原則」の論述にこれ以上紙面を使うことには大きなリスクがあることを踏まえて、敢えて飛ばしました。

(2) 実質的観点

  • 「明確性の原則」に違反するとの結論に至ったとしても、別途、実質的観点についてもしっかりと論じます。実質的観点も問題になる事案で実質的観点についての検討を飛ばすと、大幅に失点することになります。
    例えば、令和1年司法試験採点実感では、「明確性だけを理由として法令違憲として論述を終える答案は高い評価はできなかった。本問では、法律家としてある法案の違憲性について助言を求められている以上、文面審査のみでなく、目的手段審査までするべきである。」と指摘されています。
  •  違憲審査基準の厳格度は、人権の性質と制約の態様などを考慮して判断されます。
    本件立法については、厳格審査の基準を設定するという構成もあり得ると思いますが、中間審査の基準のほうが書きやすいですし、人権の性質と規制の態様にも見合っていると思います。
    まずは、違憲審査基準の定立過程における書きやすさと、人権の性質と規制の態様にも見合っていることについてです。事例5段落目では、「犯罪被害者等へ取材等を行うことは、犯罪被害者等の同意がある場合を除き禁止されるが,直ちに処罰されるわけではなく、処罰されるのは取材等中止命令が発出されているにもかかわらず、取材等を行った場合であるということになる。」として、規制態様が直罰方式ではなく事後的段階的規制にとどまるということが強調されています。広島市暴走族追放条例事件判決(最三小判平成19・9・18・百選Ⅰ84)については、直罰方式ではなく「事後的かつ段階的規制」にとどまるということ”も”理由の一つとして、違憲審査基準を猿払基準まで下げたと理解することもできます(木下ほか「精読憲法判例[人権編]初版322頁)。この問題文のヒントを使うには、規制態様にも着目して中間審査の基準まで落としたほうが書きやすいです。人権の性質については、レペタ事件判決(最大判平元・3・8・百選Ⅰ72)が「筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない」として筆記行為の自由の憲法上の保障を認める一方で、制約されている筆記行為の自由が憲法21条1項により直接保障されている「表現の自由」に比べてその保障の程度が下がることを理由として違憲審査の密度を下げていることを踏まえて、「取材の自由は、憲法21条1項により直接保障される権利ではないから、報道の自由に比べてやや重要性が劣る」と評価をして、事後的段階的規制であることも考慮して、中間審査の基準を採用しています。
    次に、違憲審査基準の適用過程(当てはめ)における書きやすさです。本問では、取材の自由とプライバシーの調整が問われています。平成23年司法試験の出題趣旨・採点実感では、Googleストリートビューを元ネタにした事案において、「本問における表現の自由の制約の合憲性をめぐって問われているのは、表現の自由とプライバシーの権利の調整である。」(出題趣旨)、「表現の自由を述べているのに、違憲審査基準の展開に終始し、問題文のヒントに気付かず、実質的な、本件での表現の自由とプライバシーの権利の相克を書かない薄い答案も目立った。この手の答案は結局「実質的な関連性」などという抽象的なテクニカルタームを示して中身のない結論で終わっている。その原因は、権利をカテゴライズすると自動的に基準とか優劣が決まると思い込んでいることにあるように思われる。本件における表現の自由と本件におけるプライバシーの権利の調整という、事案に即した検討を行って、事案を解決するという意識が足りない。」といった指摘がされています。「本件における表現の自由と本件におけるプライバシーの権利の調整という、事案に即した検討」をするための方法はいくつかありますが、書きやすいのは目的審査で両者の価値の優劣について正面から論じるという構成だと思います。厳格審査の基準における目的は絶対評価により判断される一方で、中間審査の基準における目的審査は相対評価により、すなわち「制約されている憲法上の権利を制約する目的としてふさわしいものであるかどうか」により判断されるものですから(曽我部ほか「憲法論点教室」第3版16頁)、目的審査で両者の価値の優劣について正面から論じるには中間審査の基準を採用することになります(厳格審査の基準では、本件におけるプライバシーの価値だけに着目することしかできませんので)。平成30年司法試験の出題趣旨でも、中間審査の基準を念頭において「審査基準の設定又は当てはめにおいて、・・本条例の目的についての検討、すなわち、青少年の健全育成の目的や、一般市民がむやみに卑わいな画像等に触れないようにするという目的が、憲法上の権利を制約する目的としてふさわしいものであるかどうかを意識した議論をすることが考えられよう。」とあります。
  • 私の答案では、違憲審査基準を定立する過程の一番最初に、規制されている取材等の自由の重要性について、事例1段落目における「報道機関による取材活動については、一般にその公共性が認められている」との記述を具体化する形で、「報道関係者による取材等には、その後の報道を介して国民の知る権利に奉仕するという意味で、公共性がある。犯罪等の取材等であれば、犯罪被害者等の辛さ、被害後の生活状況の変化、犯罪被害の経緯などについて取材し、報道を通じて国民に伝えることで、国民が犯罪減少のための立法や犯罪被害者等の救済を手厚くするための立法について意見表明をしたり、自分や身近な人たちの犯罪被害を回避するための方法を考えるきっかけになるといった、重要な意味がある。」と書いています。
    問題文のヒントである抽象的な記述について、その内容を具体的にイメージして文章化することは重要であり、特に憲法の採点では非常に重視されています。
    例えば、平成21年司法試験では、問題文に、Y県立大学医学部が「遺伝子治療の対象である疾病の原因となる遺伝子情報」以外を本人・第三者に開示することを禁止する旨の遺伝子情報保護規制の制定理由として「その開示によって生じるかもしれない様々な問題の発生等を考慮したからである」と書かれており、採点実感では「・・被験者以外の人の情報の被験者への不開示の問題・・では、その開示によって生じるかもしれない様々な問題とは何かを具体的に想定した上で、第三者への情報提供を一切認めない規定の合憲性を、取り分け被験者の疾病の性質との関係で検討する必要がある」とされています。
    他年度の出題趣旨・採点実感でも、同様の指摘があります。こうした採点上のポイントを知っていると、問題文の使い方というか、問題文への食らいつき方というのが分かってくると思います。
  • 目的審査では、事案1段落目における「報道機関による取材活動については、・・取材対象者の私生活の平穏の確保の観点から問題があるとされ,とりわけ,特定の事件・事象に際し取材活動が過熱・集中するいわゆるメディア・スクラムについて,何らかの対策がとられる必要があると指摘されてきた。中でも,取材活動の対象が,犯罪被害者及びその家族等となる場合,それらの者については,何の落ち度もなく,悲嘆の極みというべき状況にあることも多いことから,報道機関に対して批判が向けられてきた。」という事実(取材活動によるプライバシー侵害の態様)と、「報道機関による取材活動については、一般にその公共性が認められている」との事実(取材活動の価値)を摘示・評価することにより、目的の重要性を検討することになります。
  • 手段審査では、手段適合性⇒手段必要性⇒手段相当性という流れに従って、問題文の事実を出来るだけ多く答案に散りばめて使うことを重視しました。

8.参考答案

1.本件立法は、「犯罪等」、「取材等」という不明確な文言により報道関係者の取材の自由を罰則をもって制約するものとして、憲法31条・21条1項に反し違憲ではないか。

(1)  博多駅事件決定は、報道機関が事実を報道する自由について、報道が民主主義社会において国民が国政に関与するにつき重要な判断の資料を提供し、国民の知る権利に奉仕するとの理由から、「表現の自由」を規定した憲法21条1項により直接保障されると解している。その上で、報道のための取材の自由について、報道機関の報道が正しい内容をもつために必要であるとの理由から、憲法21条の精神に照らし十分尊重に値するとして、同条1項による保障を認めている。したがって、報道関係者が犯罪等の取材等を行う自由は、取材の自由の一つとして憲法21条1項により保障される。

(3) 本件立法は、報道関係者が犯罪被害者等の同意がない状態で同人らに対して犯罪等について取材することを禁止した上で、取材等中止命令違反について罰則を設けることにより、上記取材等の自由を制約している。

(3) 刑罰による取材等の規制についても、法適用の恣意を排除して国民に対して公正な告知をするという罪刑法定主義の帰結に加え、取材等の萎縮効果の除去という要請が妥当するから、表現規制と同様、その文言の明確性が要求されると解すべきである。本件立法は報道関係者だけを名宛人とするものであるため、本件立法に関する公正な告知の有無や萎縮効果は報道関係者についてしか問題とならないから、文言の不明確性は平均的な報道関係者を基準として判断されるべきである。

 まず、「犯罪」が、犯罪成立要件のうちどこまでの要件を満たす行為を意味しているのかや、要件を満たす可能性があると判断される行為まで含んでいるのかが不明確である。また、犯罪「等」の定義である「犯罪…に準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為」も、具体的な例示等がないため、不明確である。

 次に、「取材等」については、「自宅・勤務先への訪問、電話、ファックス、メール、手紙、外出時の近接等」という具体的な例示があるものの、それ以外の接触行為等がどの範囲で禁止されているのかをその文言から読み取ることができないため、不明確である。

 したがって、平均的な報道関係者においても、いかなる場合に「犯罪等」「取材等」に該当するのかの判断を可能ならしめる基準が読み取ることができない。よって、本件立法は、明確性の原則に反し、憲法21条1項・31条に反するものとして違憲である。

2.本件立法は、実質的観点から見ても、取材等の自由を侵害するものとして憲法21条1項に反し違憲ではないか。

(2) 保障及び制約は前記1の通りである。

(2) 違憲審査基準の厳格度は、人権の性質と制約の態様などを考慮して判断される。確かに、報道関係者による取材等には、その後の報道を介して国民の知る権利に奉仕するという意味で、公共性がある。犯罪等の取材等であれば、犯罪被害者等の辛さ、被害後の生活状況の変化、犯罪被害の経緯などについて取材し、報道を通じて国民に伝えることで、国民が犯罪減少のための立法や犯罪被害者等の救済を手厚くするための立法について意見表明をしたり、自分や身近な人たちの犯罪被害を回避するための方法を考えるきっかけになるといった、重要な意味がある。そのため、規制されている犯罪等に関する取材等の自由の重要性に照らして、本件立法の合憲性は厳格審査の基準により判断するべきとも思える。しかし、取材の自由は、憲法21条1項により直接保障される権利ではないから、報道の自由に比べてやや重要性が劣る。しかも、本件立法による規制態様は、直罰方式ではなく、取材等中止命令に違反した場合に初めて処罰されるという事後的段階的規制であるから、さほど強度ではない。そこで、本件立法は、中間審査の基準により審査すれば足りると考える。具体的には、立法目的が重要で、手段が立法目的との間の実質的関連性を有するかどうかで審査する。

(3) 本件立法の目的は、犯罪被害者等及びその家族等の保護にある。報道関係者による取材等には、特定の事件・事象に際し取材活動が過熱・集中するいわゆるメディア・スクラムにより、取材対象者の私生活の平穏を脅かすという問題がある。取材活動の対象が犯罪被害者等である場合、何の落ち度もなく、悲嘆の極みという状況にある犯罪被害者等がさらに追い打ちをかけられることになる。このような事態は、前述した取材の重要性を犠牲にしてでも、阻止しなければならない。したがって、前記目的は、取材等の自由を制約する目的としてふさわしいといえ、重要である。

(4) 前記(3)で指摘した事情からすると、報道関係者による犯罪等の取材等には犯罪被害者等の私生活の平穏を脅かす恐れが認められる。本件立法には、報道関係者が取材等中止命令違反に対する罰則を恐れ、禁止される取材等を控えるようになるという効果があるから、前記目的の達成にとって有効であるとして手段適合性が認められる。

 確かに、本件立法が報道関係者による犯罪被害者等を取材対象とする犯罪等の取材等を全面的に禁止しているため、手段必要性を欠くとも思える。しかし、同意による例外が認められている上、規制方法は事後的段階的規制にすぎないし、犯罪被害者等の申し出による取材等中止命令の解除も認められている。したがって、前記目的を同程度に達成することができるより制限的でない他の選び得る手段があるとはいえず、手段必要性も認められる。

 しかも、報道関係者には、捜査機関に対する問い合せや犯罪被害者等の記者会見により、同意の有無を確認する余地があるのだから、同意がないことを知らずに取材等をしてしまったり、逆に同意があるのに取材等を控えてしまったという事態に至る可能性はさほど高くない。そのため、重大な副作用があるとはいえず、手段相当性もある。したがって、手段の実質的関連性も認められる。

 よって、本件立法は実質的観点からは憲法21条1項違反とはならない。もっとも、形式的観点からは違憲である。以上

※1. 参考答案は、2時間くらいで、総まくり講座及び司法試験過去問講座の内容だけで書いたものです。
※2. 答案の分量は「1枚 22行、28~30文字」の書式設定で4枚目の最終行(88行目)までで、文字数だと2400~2500文字くらいです。

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コメント

  • アバター

    いつも有益な情報ありがとうございます。
    令和2年の予備試験憲法について、2点質問させてください。
    まず第1点目については、文面審査の際に、「通常の判断能力を有する一般人」という文言を使ってよいかに関して、報道関係者に関しては、例えば一般私人が、自己の動画チャンネルで報道する場合も対象となると考えると、大学教授等と異なり専門的知識を有する場合に限られないと思ったのですが、本問の場合、判例の文言をそのまま使うことは減点対象でしょうか?
    次に第2点目ですが、文面審査の際に、憲法31条を根拠条文として挙げるかについて、本問のようにあくまで罰則の要件は中止命令に違反した場合であり、罰則に関しては、中止命令に違反した場合という明確な要件だと思ったので、21条についてのみ根拠条文として挙げました。本問のようなワンクッション型の罰則の場合でも31条は挙げるべきでしょうか?通常の直接罰則型とワンクッション型で違いはあるのでしょうか?

    • kato_admin

      まず、1点目についてですが、問題文では「報道関係者」について「報道を業とする者(個人を含む)」と定義されているため、一般人は対象外です。したがって、一般人を名宛人とする立法であると捉えることはできませんから、徳島市公安条例事件判決の判断枠組みについて、「通常の判断能力を有する一般人」という部分を「通常の判断能力を有する報道関係者」に修正することになると思います。もっとも、この問題意識に言及することができる受験者は少ないでしょうし、明確性の原則に言及していない受験者も相当数いると思われるため、「通常の判断能力を有する一般人」を基準として明確性を判断しても合格水準を下回るということにはならないと思います。
      次に、2点目についてですが、広島市暴走追放条例事件判決(最判H19.9.18・百Ⅰ84)は、中止・退去命令⇒同命令違反を理由とする罰則という段階的な刑罰規制の明確性が問題となった事案において、明確性の原則の根拠条文として「憲法21条1項、憲法31条」の双方を挙げています。したがって、本問でも、明確性の原則の根拠条文として「憲法21条1項、憲法31条」の双方を挙げることになります。

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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