加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

公信の原則と公示の原則の違い

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今日は、民法の「公示の原則」と「公信の原則」の違いについてです。

両者の違いは、基本的かつ重要なことであるものの、正確に理解することができていない方が結構いるので、今回の記事で正確に理解を身につけて頂きたいと思います。

 

公信の原則


公信の原則は、無いものを有るものとして扱ってもらえるかの問題です。

より丁寧に説明すると、権利関係が存在しないのにそれが存在するかのような不実の「公」示がなされた場合に、その不実の公示を見て公示された通りの権利関係が存在すると「信」じた第三者との関係で、公示された通りの権利関係が存在したものとして扱べきかという問題です。

不動産取引であれば、Cが、B所有の甲不動産についてA名義の所有権移転登記がなされているとを見て甲不動産がA所有に属すると「信」じて、Aとの間で甲不動産の売買契約を締結したという場合に、A名義の所有権移転登記により「公」示された通りに甲不動産がA所有に属することを前提として、Cによる甲不動産の所有権取得を認めることができるか、という問題です。

民法は、不動産取引については公信の原則を採用していないため、不実登記を見て甲不動産がA所有に属すると信じたCが当然に甲不動産の所有権を取得することはできません。上記事例におけるCの保護は、民法94条2項類推適用の要件を満たす限りにおいて、図られるにとどまります。なお、民法94条2項類推適用による保護の余地があることをもって「不動産登記にも公信力が認められる」とは言わないのが通常ですから、注意しましょう。

これに対し、民法は、動産取引については、民法192条(即時取得)を定めることにより、公信の原則を採用しています。これにより、Aによる動産甲(B所有)の占有を見てAが動産甲の所有者であると信じてAとの間で動産甲の売買契約を締結したCは、Aの帰責性の有無にかかわらず、民法192条の要件を満たせば、甲動産の所有権を取得(原始取得)することができます。

以上が、公信の原則についてです。

 

公示の原則


公示の原則は、有るものを有るものとして扱ってもらえるかの問題です。

より丁寧に説明すると、実際に存在する権利変動(等)を、第三者(債権譲渡では債務者も含む)との関係でも存在するものとして扱ってもらうためには、公示する必要があるかという問題です。

民法177条(不動産取引)、民法178条(動産取引)、及び467条(債権譲渡)が公示の原則を定める規定です。

公示の原則は、実際に存在する権利変動(等)を第三者との関係で存在するものとして扱ってもらうための公示の要否の問題ですから、公示の要否・有無を問題にする前提として、権利変動(等)の存在が必要です。

権利変動(等)が存在しないのであれば、公示の要否・有無の問題に辿りつきません。

公示の原則では、①権利変動(等)の存否(例えば、賃借権では、その効力が第三者に及んでいるか)、②公示の要否(正当な利益を有する第三者)、及び③公示の有無に分けて考えます。

このように整理すると、「存在しない権利変動(等)は、公示の要否(②)や有無(③)を問題とするまでもなく、第三者を含む他者との関係で存在するものとして扱われない」ということを理解しやすいと思います。

①権利変動(等)は、不動産賃借権を新所有者に対抗できるかという場面などで問題になります。

債権の相対的効力を強調し、対抗要件を具備しない賃借権の効力は第三者に及ばないと理解するならば、話が①で終わり、効力が及んでいる通りに扱ってもらうために公示を要するかという②の問題に進まないため、第三者が背信的悪意者であったとしても、第三者に対して賃借権を対抗することはできない、ということになります。

平成29年司法試験設問3の出題趣旨でも、新所有者Eから賃借人Cに対して物権的返還請求がなされた事案について、対抗関係構成の採否では、「対抗関係構成」が「Cの権利がEに対しても効力を有すること」を「前提」とするものであることと、「賃借権」が「債権である」ことが問題になると指摘されています。

 

動産の二重売買において、第一買主が占有改定による引渡しを先に受けていた場合における、買主相互の優劣関係


以前、公示の原則と公信の原則の関係を理解する上でも大変参考になるご質問をいただきましたので、理解を深めて頂くために、質疑応答の内容を記事で紹介いたします。

質問

BがAに動産を売却し、占有改定によりAに引き渡した後、さらにCに売却し、現実の引渡しによりCに引き渡したという事案における、AとCの優劣関係について質問がございます。

この場合、AとCの優劣は対抗関係として178条により処理されることにより、Aが保護されるのでしょうか。それとも、BC間の売買契約に先立ちAが引渡しによる対抗要件を具備したことにより、BC間の売買契約の時点では既にBは無権利者になっているとして、BC間の売買契約は他人物売買となり、対抗関係は問題とならず、Cは即時取得(民法192条)が成立しない限り動産所有権を取得することができない、となるのでしょうか。

回答

178条は、公示の原則を定めた規定です。公示の原則は、有るものを有るものとして扱ってもらえるかの問題です。つまり、実際に存在する権利変動(等)を、第三者との関係でも存在するものとして扱ってもらうためには、公示する必要があるかという問題です。したがって、公示の要否・有無を問題にする前提として、権利変動(等)の存在が必要です。仮に、公示の有無・要否を問題とするべき権利変動(等)が存在しないのであれば、「引渡し」による公示の有無・要否に関する178条は問題になりません。

上記事例では、BC間の売買契約に先立ちAが引渡しによる対抗要件を具備したことにより、BC間の売買契約の時点では既にBは無権利者になっています。そのため、BC間の売買契約は他人物売買ですから、AからCに対する動産所有権の移転という物権変動(ここでは、不完全物権変動)は存在しないことになります。したがって、AのCに対する動産所有権の移転という物権変動についての「引渡し」による公示の有無・要否を論じるまでもなく、Cが動産所有権を取得することができないという原則的結論が導かれます。

もっとも、Cが即時取得(192条)の成立要件を満たすのであれば、例外的に、Cが動産所有権を原始取得することになり、その反射的結果としてAが動産所有権を喪失します。この場合、二重譲渡という扱いにはなりませんから、178条の対抗問題は生じません。Cは、Aに遅れて動産の引渡しを受けているにもかかわらず、Aに勝つことができます。

以上は、要件事実論を無視した説明です。以下では、要件事実論に従った説明をいたします。

AはCに対して、Bもと所有、AB間売買、及びC現在占有を請求原因事実として主張して、動産所有権に基づく返還請求権を行使して、動産の引渡しを求めることになります。これに対し、Cが、㋐対抗要件の抗弁(抗弁事実は、BC売買+権利主張)や㋑対抗要件具備による所有権喪失の抗弁(抗弁事実は、BC売買+Cへの引渡し)を主張することが考えられます。

Aは、㋐対抗要件の抗弁に対しては、対抗要件具備の再抗弁(再抗弁事実は、Aへの引渡し)を主張することができ、㋑対抗要件具備による所有権喪失の抗弁に対しては、先立つ対抗要件具備の再抗弁(再抗弁事実は、AがCへの引渡しに先立ち引渡しを受けたこと)を主張することができます(改訂「紛争類型別の要件事実」117~119頁)。

Cは、㋐に対する対抗要件具備の再抗弁に対して、先立つ対抗要件具備の再々抗弁を主張することはできません(厳密には「主張しても、立証ができないため、認めらない」ということです)。㋑の対抗要件具備による所有権喪失の再抗弁に対する再々抗弁なるのはそもそもありません。

したがって、Cは、㋐対抗要件の抗弁や㋑対抗要件具備による所有権喪失の抗弁では、これに対するBの再抗弁が認められることになるため、Bに勝てません。

そこで、Bは、㋐・㋑とは異なる抗弁として、㋒即時取得による所有権喪失の抗弁を主張することになります。ここで、公信の原則が顕在化するわけです。

以上が、「公示の原則」と「公信の原則」の違いについての記事となります。

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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