加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

政教分離原則のポイント

0

司法試験では、政教分離原則は、平成24年司法試験に出題されてから一度も出題されていません。

平成24年司法試験では、平成22年に空知太神社事件判決が出たことを踏まえて、従来の目的効果基準と空知太神社事件判決の総合判断基準の関係を問うことも目的として、政教分離原則を出題したのだと考えられます。

 ” 憲法第89条前段の下で、公金支出の禁止は絶対的禁止なのか、それともその禁止は相対化されるのかが、問題となる。ここでは、憲法第20条第3項における「宗教的活動」の禁止の相対化論とも関係して、どのような判断枠組みを構築するのかが問われる。その際、宗教と関わり合いを持つ国家行為の目的が宗教的意義を有するか否か、その効果が宗教を援助、助長等するか否かを諸般の事情を総合考慮して判断し、国家と宗教との関わり合いが相当限度を超えているとして、問題となった公金支出を合憲とした津地鎮祭訴訟判決(最判昭和52年7月13日民集31巻4号533頁)、問題となった公金支出を違憲とした愛媛玉串料訴訟判決、そして総合考慮によって私有地の無償貸与を違憲とした空知太神社訴訟判決等、判例動向を踏まえつつ、原告の主張、被告の反論、そして「あなた自身の見解」における判断枠組みを構築し、一定の筋の通った理由を付して結論を導き出すことが求められている。”(平成24年司法試験・出題の趣旨)

 ” 政教分離原則をめぐる判例の諸事例と本問事例との異同などを意識して判断基準等を論じている答案もあったが、その数は思いのほか少なく、結果として、判断基準に関する論述に説得力がある答案が少なかった。”(平成24年司法試験・採点実感)

令和3年に孔子廟訴訟判決が出たことも踏まえると、本判決を踏まえた目的効果基準と総合判断基準の関係も含めて問うために、令和5年以降の司法試験で政教分離原則が出題される可能性は高いと考えられます。

以下で、政教分離原則に関するポイントについて説明いたします。

 

①論証の基本構造を守る

孔子廟訴訟判決を受けて、目的効果基準と総合判断基準の関係に関する従来の理解が変更された可能性も指摘されていますが、基準の棲み分けに囚われすぎて、「憲法は完全分離を理想としている」→「制度的保障+完全分離の不可能・不都合」→「限定分離」という基本構造を飛ばさないようにしましょう。

この基本構造は、目的効果基準と総合判断基準の双方に共通するものであり、津地鎮祭事件判決では次のように述べられています。

 ” 一般に、政教分離原則とは、およそ宗教や信仰の問題は、もともと政治的次元を超えた個人の内心にかかわることがらであるから、世俗的権力である国家(地方公共団体を含む。以下同じ。)は、これを公権力の彼方におき、宗教そのものに干渉すべきではないとする、国家の非宗教性ないし宗教的中立性を意味するものとされている。…憲法は、明治維新以降国家と神道とが密接に結びつき前記のような種々の弊害を生じたことにかんがみ、新たに信教の自由を無条件に保障することとし、更にその保障を一層確実なものとするため、政教分離規定を設けるに至つたのである。元来、わが国においては、キリスト教諸国や回教諸国等と異なり、各種の宗教が多元的、重層的に発達、併存してきているのであつて、このような宗教事情のもとで信教の自由を確実に実現するためには、単に信教の自由を無条件に保障するのみでは足りず、国家といかなる宗教との結びつきをも排除するため、政教分離規定を設ける必要性が大であつた。これらの諸点にかんがみると、憲法は、政教分離規定を設けるにあたり、国家と宗教との完全な分離を理想とし、国家の非宗教性ないし宗教的中立性を確保しようとしたもの、と解すべきである。
 しかしながら、元来、政教分離規定は、いわゆる制度的保障の規定であつて、信教の自由そのものを直接保障するものではなく、国家と宗教との分離を制度として保障することにより、間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものである。ところが、宗教は、信仰という個人の内心的な事象としての側面を有するにとどまらず、同時に極めて多方面にわたる外部的な社会事象としての側面を伴うのが常であつて、この側面においては、教育、福祉、文化、民俗風習など広汎な場面で社会生活と接触することになり、そのことからくる当然の帰結として、国家が、社会生活に規制を加え、あるいは教育、福祉、文化などに関する助成、援助等の諸施策を実施するにあたつて、宗教とのかかわり合いを生ずることを免れえないこととなる。したがつて、現実の国家制度として、国家と宗教との完全な分離を実現することは、実際上不可能に近いものといわなければならない。更にまた、政教分離原則を完全に貫こうとすれば、かえつて社会生活の各方面に不合理な事態を生ずることを免れない…のである。これらの点にかんがみると、政教分離規定の保障の対象となる国家と宗教との分離にもおのずから一定の限界があることを免れず、政教分離原則が現実の国家制度として具現される場合には、それぞれの国の社会的・文化的諸条件に照らし、国家は実際上宗教とある程度のかかわり合いをもたざるをえないことを前提としたうえで、そのかかわり合いが、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で、いかなる場合にいかなる限度で許されないこととなるかが、問題とならざるをえないのである。右のような見地から考えると、わが憲法の前記政教分離規定の基礎となり、その解釈の指導原理となる政教分離原則は、国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが、国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく、宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ、そのかかわり合いが右の諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものであると解すべきである。”

また、平成24年司法試験・採点実感では次のような指摘があります。

 ” 政教分離について、なぜ厳格に分離すべきなのか、あるいは、なぜ厳格な分離が現実的ではないのかといったことについての理由付けなど、政教分離の構造や解釈などに全く言及しないまま、審査基準を展開するなど、政教分離の基本を理解しているのかさえ疑問を持たざるを得ない答案が少なくなかった。”(平成24年司法試験・採点実感)

 

②目的効果基準と総合判断基準の関係

空知太神社事件における藤田宙靖裁判官の補足意見では、目的効果基準と総合判断基準の関係について、係争行為に宗教性と世俗性とが同居している事案では目的効果基準が用いられ、係争行為が明確に宗教性のみを持っている事案では総合判断基準が用いられるとの理解が示されています。

 ” 私の見るところ、過去の当審判例上、目的効果基準が機能せしめられてきたのは、問題となる行為等においていわば「宗教性」と「世俗性」とが同居しておりその優劣が微妙であるときに、そのどちらを重視するかの決定に際してであって(例えば、津地鎮祭訴訟、箕面忠魂碑訴訟等は、少なくとも多数意見の判断によれば、正にこのようなケースであった。)、明確に宗教性のみを持った行為につき、更に、それが如何なる目的をもって行われたかが問われる場面においてではなかったということができる(例えば,公的な立場で寺社に参拝あるいは寄進をしながら、それは、専ら国家公安・国民の安全を願う目的によるものであって、当該宗教を特に優遇しようという趣旨からではないから、憲法にいう「宗教的活動」ではない、というような弁明を行うことは、上記目的効果基準の下においても到底許されるものとはいえない。例えば愛媛玉串料訴訟判決は、このことを示すものであるともいえよう。)。”(空知太神社事件における藤田宙靖裁判官の補足意見)

孔子廟訴訟判決を受けて、目的効果基準と総合判断基準の関係に関する従来の理解が変更された可能性も指摘されていますが、今のところ、係争行為に宗教性と世俗性とが同居している事案では目的効果基準、係争行為が明確に宗教性のみを持っている事案では総合判断基準という理解で構わないと思います。

少なくとも、孔子廟訴訟判決が出るまでは、上記の理解は相当数の著名な学者からも支持されているのですから、学説上の根拠が薄弱な自説を展開するよりは、従来の理解に従った方が無難であると考えられます。

 

③適用条文について

政教分離原則違反の条文には、憲法20条1項後段、憲法20条3項及び憲法89条前段の3つがあり、事案類型ごとに適用される条文が異なります。判断基準以前の問題として、当該事案に適用される条文を正しく選択する必要があります。

 ” 本問の事案においては、地方自治体による助成が題材となっていることから、政教分離原則に関する条文のうち、まず憲法第89条前段が問題となる。その上で憲法第20条第1項後段と第20条第3項との関連をも考慮して本問を検討することになる。”(平成24年司法試験・採点実感)

そして、憲法20条1項後段又は憲法89条前段が適用される事案では、憲法20条1項後段にいう「宗教団体」又は憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」の意義を明らかにした上で、その該当性を検討する必要があります。

 ” 憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは、宗教と何らかのかかわり合いのある行為を行っている組織ないし団体のすべてを意味するものではなく、国家が当該組織ないし団体に対し特権を付与したり、また、当該組織ないし団体の使用、便益若しくは維持のため、公金その他の公の財産を支出し又はその利用に供したりすることが、特定の宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になり、憲法上の政教分離原則に反すると解されるものをいうのであり、換言すると、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指すものと解するのが相当である。”(箕面忠魂碑・慰霊祭訴訟)

 ” 本問の事案においては、地方自治体による助成が題材となっていることから、政教分離原則に関する条文のうち、まず憲法第89条前段が問題となる。その上で憲法第20条第1項後段と第20条第4項との関連をも考慮して本問を検討することになる。”(平成24年司法試験・採点実感)。

さらに、憲法89条前段も適用される場合には、憲法20条1項後段との関係(空知太神社事件判決参照)にも言及するのが望ましいです。これは、憲法89条前段違反と憲法20条1項後段違反とで判断基準と結論を同じくする理由の説明として、必要なことです。

 ” 憲法89条は、公の財産を宗教上の組織又は団体の使用、便益若しくは維持のため、その利用に供してはならない旨を定めている。その趣旨は、国家が宗教的に中立であることを要求するいわゆる政教分離の原則を、公の財産の利用提供等の財政的な側面において徹底させるところにあり、これによって、憲法20条1項後段の規定する宗教団体に対する特権の付与の禁止を財政的側面からも確保し、信教の自由の保障を一層確実なものにしようとしたものである。”(空知太神社事件)

 

④当てはめ

当てはめでは、「国家と宗教とのかかわり合い」→「相当とされる限度を超えるものか否か」という流れで論じます。

後者では、国公有地提供型の事案(空知太神社事件、冨平神社事件、孔子廟訴訟など)であれば、㋐土地上の施設の宗教的性格、㋑係争行為の経緯(世俗的・公共的な目的の有無など)、㋒係争行為の効果(土地上の施設を利用した宗教的活動を容易にする効果が直接的なものか、間接的・付随的なものにとどまるか)に着目します。この考慮要素は必ず記憶しておきましょう。また、当てはめのイメージをするために、空知太神社事件及び孔子廟訴訟の判旨も確認しておきましょう。

 

⑤エホバの証人剣道実技受講拒否事件型の事案

エホバの証人剣道実技受講拒否事件のように信教の自由の侵害の有無の判断過程で政教分離原則違反が問題となる事案(令和1年予備試験で既出)では、総合判断基準ではなく、目的効果基準を使った方が無難であると考えます。

レポート提出等の代替措置を認めることは明確に宗教性のみを持ったものであるとはいえないため、上記②で説明した目的効果基準と総合判断基準の関係に関する藤田宙靖裁判官の補足意見からも、そのように言えます。

 

⑥訴訟形式の選択

平成24年司法試験のように訴訟形式の選択まで問われる可能性があります。

例えば、基本的には、地方自治法242条の2第1項4号所定の住民訴訟として、損害賠償請求をすることを義務付ける訴訟を提起することになります。

政教分離原則は制度的保障であり、同原則違反は必ずしも私的権利の侵害を伴うわけではありませんから、基本的には主観訴訟ではなく客観訴訟を用いることになるわけです。

 ” 設問1では、本問における公金支出が憲法に違反するのではないかと考えるB村の住民から相談を受け、弁護士としてどのような訴訟を提起するかが問われている。ここでは、「(なお、当該訴訟を提起するために法律上求められている手続は尽くした上でのこととする。)」という設問の記載に留意しつつ、この種の訴訟で通常採られている訴訟形式で、かつ最も事案に適したものを指摘することが求められている。”(平成24年司法試験・出題の趣旨)

 ” 住民訴訟の根拠条文について、地方自治法第242条の2第1項第4号と正確に記載できていない答案もあ…った。”(平成24年司法試験・採点実感)

 ” 住民訴訟に加えて国家賠償請求訴訟を選択した答案もあり、確かに、これは津地鎮祭訴訟でも住民訴訟と併せて国家賠償請求訴訟が提起されていることからも誤りではないが、本問での勝訴の見込みを考えれば、提起すべき訴訟形式としては、住民訴訟がメインとなる。”(平成24年司法試験・採点実感)
講義のご紹介
もっと見る

コメントする

コメントを残す

コメントをするには会員登録(無料)が必要です
※スパムコメントを防ぐため、コメントの掲載には管理者の承認が行われます。
※記事が削除された場合も、投稿したコメントは削除されます。ご了承ください。

加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

kato portrait
加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
質問コーナーのカテゴリ
ブログ記事のカテゴリ