司法試験・予備試験合格を目指す上で大事なことの1つとして、試験対策として割り切る姿勢・器用さを挙げることができます。
私自身、受験生時代に経験したことですが、勉強がある程度進むと、予備校テキストに書いてある記述では満足できなくなり、基本書、調査官解説、学者論文、受験雑誌などに目を通して学問的に正確な知識を探究してしまいがちです。
しかし、受験生の皆さんが身につけるべき知識は、学問的に正確といえるレベルの知識ではなく、試験的に許容されるレベルでの正確な知識です。
受験生の皆さんは、司法試験なら8科目、予備試験なら10科目満遍なく勉強するオールラウンダーなのですから、各科目につき学問的に正確といえるレベルの知識を習得することには無理があります。
学問の世界は、そんなに浅いものではありません。
また、正確に書こうとすればその分だけ、論理を繋げるために文章が長くなりますから、仮に学問的に正確といえるレベルの知識を習得できたとしても、制限時間内に答案に書き切ることができません。この意味で、仮に身につけることができたとしても、その知識は論文試験で使えません。
例えば、総まくり講座のテキストでは、刑法の不真正不作為犯の実行行為性について、次の論証を掲載しています。
不真正不作為犯は、構成要件的行為が作為に限定されている条文で不作為を処罰するわけではないから(不作為も殺人罪等の構成要件に本来的に含まれていると考える)、法律主義(罪刑の法定性)や類推適用の禁止という意味での罪刑法定主義には反しない。
もっとも、予測可能性の保障という罪刑法定主義の要請に照らし、不作為につき作為との同価値性を要求することで、不真正不作為犯の成立範囲を限定するべきである。
そこで、不真正不作為犯の実行行為性が認められるためには、①作為義務及び②作為の可能性・容易性が必要であると解する。
論証集では、もっとシンプルな論証にしています。
予測可能性の保障という罪刑法定主義の要請に照らし、不真正不作為犯の成立には、不作為につき作為との同価値性が要求される。
具体的には、作為義務及び作為の可能性・容易性が必要である。
総まくり講座のテキストには、記憶する記述を中心に載せている総まくり論証集と異なり、理解するための記述も載せていますが、それでも、上記の論証が学問的にみて完璧なものかといえば、そうではありません。
当然、総まくりテキストの論証をぎりぎりまでコンパクトにしている総まくり論証集の上記の論証も、学問的にみて完璧といえるはずがありません。
もっとも、どんなに筆力のある受験生でも、不真正不作為犯の実行行為性に関する論証は総まくりテキストの論証を書けば十分であり、通常の筆力の受験生なら総まくり論証集の論証を書くべきです。
実際、私が司法試験に合格した平成26年には、刑法で不真正不作為犯の実行行為性が出題されましたが、私は総まくり論証集の論証に近い論証で書いています。それでも、刑事系の成績は上位160位/受験者8015人ですし、総まくりテキストの論証に近い論証にすれば2桁に入ったかと言えばそうでもありません。もっと別のところで失点しています。
このように、試験対策としての勉強では、自分の理解・記憶の限界、試験本番での時間の限界などを踏まえて、自分が理解・記憶して試験本番で答案に書ける知識を探究することも大事です。
厳密に言うと、受験生の皆さんが身につけるべき知識は次の3つを満たす知識です。
①試験的に許容されるレベルでの正確な知識
②論文試験で使いやすい・書きやすい知識
③司法試験委員会の見解と相性がいい知識
このことに対応して、予備校テキストを作成する際にも、大事なことは、徹底した試験傾向の分析に基づいて判例学説の理解も含めて試験と相性がいい知識を選別すること(②、③)と、特定の分野論点について受験生が理解できる・試験で使えるように試験的に許容されるところまで正確性を下げる工夫をすること(①)の2点であるといえます。
文献に基づくリサーチを怠った結果、的外れな記述になっている予備校テキストは論外ですが、徹底的な文献に基づくリサーチと試験傾向の分析を経て作成された予備校テキストにも、試験対策という観点から、試験で使えるように敢えて学問的正確性から試験的に許容されるところまで正確性を下げた記述がなされていることがあります。
試験対策という観点から簡潔にまとめるために、学問的正確性を犠牲にせざるを得ないことがあるからです。
受験生の皆様が試験対策として使うべき教材は、試験対策として観点もしっかりと踏まえて作成されている予備校テキストです。
基本書をメイン教材として使って上位合格したという人であっても、別に基本書に書かれていることを学問的に正確といえるレベルで理解・記憶して答案に反映しているわけではありません。
私自身、伊藤塾時代の2年間、伊藤塾の教材だけに絞って勉強することで当時の慶應・中央の法科大学院に合格できたものの、それから全科目について基本書に乗り換えた上で複数の基本書を読み漁る勉強をしてしまった結果、司法試験で本当に苦労しました。
2回論文試験に落ち、3回目の受験の際、はじめて司法試験過去問をやったところ、試験対策としての勉強ができるようになり、一気に順位を上げて労働法1位・総合39位(上位0.5%)で合格することができました。
それくらい、試験対策を明確に意識した勉強をすることは大事です。
特に、これから法科大学院に進学する方々に参考にして頂きたいと思います。
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