令和2年司法試験の採点実感との向き合い方

出題趣旨も採点実感も、自分の受験年度の司法試験で使う可能性が高いこと(知識、ルール等)を確認し、習得するために読むものです。

例として、多くの問題に共通する汎用性の高いこと、多くの受験生が従うことができることなどを挙げることができます。

反対に、自分の受験年度の司法試験で使う可能性が極めて低いことについては、読んでも司法試験で使わない可能性が極めて高いのですから、無視して構いませんし、むしろそうすることが望ましいともいえます。

例として、当該問題に固有の細かいこと、難しすぎて大部分の受験生が従うことができないことなどを挙げることができます。

以下では、令和2年司法試験憲法の採点実感を使って、確認・習得する必要性の高いことと、読み飛ばしても構わないことについて紹介いたします。

まず、確認・習得する必要性の高いこととしては、以下の記述が挙げられます。

・”適度に”ナンバリングと項目立てをする

答案の構成として、第1、第2、・・(1)、(2)・・と内容に応じて項目を立てて論じることは内容を正確に伝えることに資すると思われるが、それ以上にわたって、改行するたびに、ア、イ、ウ・・や、a、b、c・・などと全く必然性がないのに細かく記号を付してブツ切りの論述を行うことは避けるべきである。求められているのは、内容が論理的に明快な論述であって、表面的に整理された形式ではない。

基本概念について正確に理解・記憶する

基本概念(経済的自由、立法裁量、積極目的・消極目的、LRAの基準等)の理解が正確であるかどうか疑わしいものが多かった。

・自己と異なる立場(反論)への言及の仕方

特段必要もないのに各段階で自己と異なる立場から論述をするなど、「自己の見解と異なる立場に言及すること」に不必要にとらわれすぎている答案が一定数あったが、自説を中心に記述を展開する中で、必要な限度で他説に触れつつ、批判的検討を加えていくという書き方をすべきである。

・自由権と平等権の関係

自由権と平等原則の関係については、(ア)専ら自由権の侵害を問題にすべき場合、(イ)自由権侵害に加えて、自由に関する別異取扱いが固有の憲法問題を生じさせており平等原則違反をも問題にすべき場合、(ウ)自由権侵害が問題にならず、専ら平等原則違反を論じれば足りる場合とがある。今回の規制②の憲法上の問題の所在は明らかに(ア)にあり、多くの答案もそのように論じていた。平等原則違反も論じた、あるいは専ら平等原則を論じたという答案は、そもそも自由権と平等原則の基本的な関係について理解が不十分であると言わざるを得ない。

・職業規制における違憲審査基準を定立する際の考慮要素

多くの答案は、審査基準を設定するに際し、①制約されている権利の重要性、②制約の強度、③制約の目的(消極目的か積極目的か)を検討した上で基準の設定を行っていたが、①から③までの検討と具体的な審査基準とのつながりが不明確な答案が少なくなかった。また、定立した審査基準とその具体的な適用が実質的に整合していない答案、審査基準の具体的な適用の結論を記載していない答案、摘示した事実に対する法的観点からの評価の記載がない答案等の問題のある答案があった。

・違憲審査基準を定立する際に罰則に言及することの適否

罰則があるので緩やかな基準を採れないという答案があったが、審査基準は権利に対する制約の態様、強さで定立されるべきである。罰則の有無は目的達成手段の審査において考慮されるべき事柄であると思われる。

・違憲審査基準の定立だけでなく適用についても丁寧に論じる

違憲審査基準(以下「審査基準」という。)の定立までは十分な記述をしながら、その具体的な適用においては、極めて形式的で簡潔過ぎる内容に終始した答案が目に付いた。

・規制目的を確定する際には、法律案・条例案等の1条(目的規定)にも着目する

目的審査において、法案骨子の「第1 目的」の記述に全く触れず、既存の乗合バス事業者の保護、収益改善が目的であると言い切り、「事業者の収益改善」により「移動手段を維持確保する」ことが法の目的であることについて分析していない答案が少なからずあった。

・手段審査では、まず初めに当該手段が立法目的を(観念的・抽象的にであれ)促進するのかどうかを確認する

手段審査については、まず当該手段が立法目的を(観念的・抽象的にであれ)促進するのかどうかを確認していない答案が多くあった。

・実質的関連性の基準における手段適合性では、当該手段が立法目的が観念的・抽象的に達成するだけでは足りない

審査基準と現実の手段審査が対応していない答案も相当数見られた。例えば、審査基準として「実質的関連性」を挙げておきながら、現実には立法目的が抽象的に達成されていることで憲法上の問題がないとする…答案である。

・手段必要性について、単に規制手段の強弱だけから論じるのではなく、目的達成との関係で論じる

例えば、判例が「他のより緩やかな制限によっては立法目的を十分に達成することができないこと」を問題にしているにもかかわらず、目的達成との関係を考慮せずに手段が最小限度であるかどうかを論じる等、審査基準の具体的内容の理解が不十分な答案が非常に多かった。

・手段必要性では、現実に取り得る手段を具体的に挙げてその当否を検討する

審査基準と現実の手段審査が対応していない答案も相当数見られた。例えば、…「より制限的でない他の手段」の有無を審査するとしながら、現実に取り得る手段を具体的に挙げてその当否を検討していない答案である。

他にも、確認・習得しておいた方がいいことはあるのですが、司法試験まで1カ月しかないことも踏まえると、少なくとも令和3年司法試験対策としては上記の点を確認・習得しておけば足りると考えます。

次に、読み飛ばしても構わないこととしては、以下の記述が挙げれます。

・関連する判例に言及する必要性とその方法

関連する判例に言及しつつ論ずるべきことは問題文の要求でもあるところ、全く判例に言及しないまま論述を進める答案が少なからずあった。一般論としても、法曹を目指す者が関連する判例を無視して議論を展開することは許されないであろう。まして、本設問のように当然言及してしかるべき関連判例が存在する事案については、当該判例を明示し、その論旨を踏まえて自らの見解を示すことは必須である。

少なくとも50~60点くらいの水準に入る上では、違憲審査のフレームの中に関連する判例を踏まえた論述があれば足り、「○○事件判決は、‥‥と述べている」といった形で関連する判例を明示する必要はありません。もっと基礎的なところで大差がついています。

・職業規制に関する違憲審査基準論

判例を引いている場合でも、その内容の理解が不正確な答案が散見された。確かに薬事法事件判決は、具体的規制措置の憲法第22条第1項適合性の判断については、規制の目的・必要性、制限される職業の自由の性質・内容等の程度を検討し、これらを比較衡量した上で決定されなければならないと述べている。しかし、判例は、このような比較衡量と検討は第一次的には立法府の権限と責務であるとし、立法府の裁量の行使を前提として判断を下しているのであって、その点を無視して直ちに比較衡量で判断することを判例の趣旨であるかのように説くのは適切ではない。

令和3年司法試験で再び職業規制が出題される可能性は低いですし、職業規制に関する違憲審査基準を定立する際に上記の採点実感に書かれている通り「①制約されている権利の重要性、②制約の強度、③制約の目的(消極目的か積極目的か)」を適切に考慮すれば少なくとも50~60点の水準を目指すことができますから、令和3年司法試験対策としてこの採点実感まで分析する必要性は低いです。

・積極目的・消極目的の二分論に従わないのであれば、そのための論証が必要である

審査基準を検討するに当たっては、小売市場事件判決が積極目的規制について立法府の広い裁量を認めていることに留意する必要がある。その際、積極目的・消極目的の二分論に従わないのであれば、そのための論証が必要であろう。一方、この目的二分論に従う場合にも、二分論を採らなかった判例や学説における二分論の機械的適用に対する批判を考慮することが望ましい。

令和3年司法試験で再び職業規制が出題される可能性は低いですし、ここまで言及できる受験生は極めて少ないと思われるため、この採点実感を分析する必要性も低いです。

・規制①における目的手段審査の在り方

  • 補助金の交付を「より制限的でない他の手段」として論述する答案が相当数あったが、本問では、生活路線バスを補助金等で補填している現状への新たなてこ入れとして規制①を導入しようとしているのであるから、上記論述は説得力があるとは認められなかった。また、「赤字は全て補助金で補填する」等のおよそ現実的とは思えないような手段、「既存の高速路線バス専業事業者と生活路線バス専業事業者を合併させる」等の「より制限的でない」とは思えないような手段を提案している答案や、高速路線バス専業事業者の不利益が過大であるかないかだけを検討している答案が目に付いた。
  • 交通政策の意義、バス事業の特殊性に言及している答案は少なかったが、事案に即した検討として求められているのは、そのような点に着目した議論である。また、公衆浴場が、自家風呂のない者にとって必要不可欠な厚生施設であることを論じた公衆浴場法に関する判例を、本設問についての先例だと考えた答案は、極めて少数であった。

ここに書かれていることを一般化して捉える余地もありますが、基本的には本問に固有の記述であると捉えて構いません。そうすると、再度出題される可能性が低いため、分析対象としての優先順位が下がります。

本記事では、全ての記述を取り上げることができているわけではありませんが、3分の2くらいは取り上げています。

他科目の採点実感を読む際にも、参考にして頂きたいと思います。

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講師紹介

加藤 喬 (かとう たかし)

加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
司法試験・予備試験の予備校講師
6歳~中学3年 器械体操
高校1~3年  新体操(長崎インターハイ・個人総合5位)
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
労働法1位・総合39位で司法試験合格(平成26年・受験3回目)
合格後、辰已法律研究所で講師としてデビューし、司法修習後は、オンライン予備校で基本7科目・労働法のインプット講座・過去問講座を担当
2021年5月、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立

執筆
・「受験新報2019年10月号 特集1 合格
 答案を書くための 行政法集中演習」
 (法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 令和元年」
 憲法(法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 令和元年」
 行政法(法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 平成30年」
 行政法(法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 平成29年」
 行政法(法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 平成23~
 25年」行政法(法学書院)

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