令和2年司法試験「民法」「商法」「民事訴訟法」の参考答案

「令和2年司法試験リアル解答速報」企画で作成した手書き答案を文字起こししたものを公開いたします。

科目ごとの雑感については、下記の記事をご覧ください。

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刑法  刑事訴訟法


民法


所要時間
120分(読む27分 構成13分 答案80分)

想定順位
100番以内

答案(手書き答案を文字起こししたもの)

  • 約3700文字、1行あたり平均38文字
  • PDF化した答案はこちら

設問1

1.Aは、契約①に基づく残代金債権(民法555条)をCに対して譲渡し(466条1項)、同債権譲渡についての通知がBに到達した(467条1項)。他方で、Bは、契約①の目的物である乙建物の品質に関する契約不適合を理由として、468条1項に基づく抗弁として、㋐代金減額請求(563条)による減額と、㋑損害賠償請求権(415条)との相殺(505条)による減額を主張することが考えられる。

2.㋐

(1) 契約①では、乙建物の品質について、特に優れた防音性能を備えていることが合意の内容となっていた。にもかかわらず、Bに引渡された乙建物には上記防音性能が備わっていなかった。したがって、「引き渡された目的物が…品質に関して契約の内容に適合しないものであるとき」(562条1項本文)に当たる。

(2) 563条は、代金減額請求が契約の一部解除と同様の機能を有することに着目して代金減額請求について契約解除(541条、542条)に準ずる要件を定めている。そこで、代金減額請求についても、解除と同様に、催告によって「相当の期間」を定めることまでは不要であり、催告時から客観的に見て「相当の期間」が経過すれば足りると解するべきである。

 BはAに対して、見積書を提示して、費用を負担するか、工事を自ら手配するかを選択して履行する様に求めることで、「履行の追完」の催告をしたといえる(563条1項)。これに対してAからの応答はないから、上記催告時から客観的に見て「相当の期間」を経過し、それまでの間に「履行の追完がない」のであれば代金減額請求権の発生要件を満たす。

(3) 上記契約不適合が「買主」Bの「責めに帰すべき事由によるものであるとき」(563条3項)という発生障害事由もないから、代金減額請求権が発生する。

(4) 債務者の地位の安定を図るという468条1項の趣旨に照らし、468条1項でいう「対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由」というためには、抗弁発生の基礎が債務者対抗要件具備時までに発生していれば足りると解する。

 Bが乙建物の引渡しを受けたのは、債務者対抗要件が具備された令和2年7月30日よりも後である同年9月25日であるものの、代金減額請求権の発生基礎は乙建物が約定された防音性能を備えていなかったことであり、これは契約締結時から存在していた事情である。したがって、7月30日までに代金減額請求権の発生基礎が発生していたといえる。

 よって、BはCに対して、「対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由」として代金減額請求権を抗弁とすることで、支払額を少なくすることができる。

3.㋑

(1) 売買契約における売主は、契約上の「債務」たる引渡債務として、契約内容が適合する品質の目的物を買主に引き渡す義務を負う。そのため、Aは、優れた防音性能を備えたものという合意ゆえに、契約①に基づき、上記防音性能を有する乙建物をBに引き渡す「債務」を負っていた。にもかかわらず、AからBに引き渡された乙建物には上記防音性能が備わっていなかったのだから、「債務者」Aが引渡債務について「債務の本旨に従った履行をしないとき」(415条1項本文)に当たる。これによってBに「損害」が発生する。上記契約不適合が契約①で想定されていない事態を原因として発生したという事情もないから、Aの帰責事由(415条1項但書)もない。したがって、債務不履行に基づく損害賠償請求権が発生する。

(2) 上記請求権が発生するのは引渡債務の不履行があった時点、すなわち、乙建物がBに引き渡された同年9月25日である。もっとも、上記請求権の発生基礎は乙建物が上記性質を備えていなかった時点であるから、これは譲渡通知到達までに生じていたといえる。したがって、BはCに対して、「対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由」として、上記請求権による相殺を対抗することで、支払額を少なくすることができる。

設問2

1.小問(1)

(1) Bは、「他の土地に囲まれて公道に通じない土地」である甲土地の「所有者」(210条1項)である。丙土地は「土地を囲んでいる他の土地」(同条項)である。徒歩による通行の「方法」は、甲土地から「公道に至るため」に「必要であり、かつ、他の土地のために損害最も少ないもの」(211条1項)である。a部分は、甲土地から「公道に至るため」に「必要であり」かつ、他の土地のために損害が最も少ない「場所」(211条1項)である。したがって、Bはa部分について、徒歩で通行するという囲繞地通行権(210条、211条)を有する。

(2) a部分について徒歩で通行することで公道に出ることができるのだから、c部分について自動車で通行するということは「公道に至るため」に「必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ない」もの(211条1項)に当たらない。したがって、c部分について自動車で通行するという囲繞地通行権は認められない。

2.小問(2)

(1) ㋑
 契約解除(541条以下)のために必要な「債務」の不履行とは、解除対象である「契約」に基づく債権であることを要する。そして、地役権設定契約(280条)は無償契約であるから、BD間における毎年2万円を支払う旨の合意は地役権設定契約とは別の契約に当たる。そうすると、2万円の不払いは解除対象となっている地役権設定「契約」に基づく「債務」の不履行に当たらない。したがって、解除できない。

(2) ㋒
 地役権設定契約についても契約自由の原則が妥当するから、BDが毎月2万円を支払う旨を合意したことにより、同契約に基づく「債務」として、Bは2万円の支払い義務を負う。したがって、2万円の不払いいは地役権設定「契約」に基づく「債務」の不履行に当たるから、解除できる。

 仮に上記のように解さなくとも、Dは解除できる。すなわち、解除制度は契約目的を達成できなくなった債権者を契約の拘束力から解放して保護することを目的としている。そこで、2つの契約が相互に密接に関連しており、一方の契約不履行が契約全体の目的不達成を導く場合には、一方の契約不履行をもって契約全体を解除できると解するべきである。毎年2万円の支払いは契約②の前提であると考えられるから、上記要件を満たし契約②で解除できる。

(3) 私見

 (2)前段は私的自治の原則に合致し、(2)後段は解除制度の目的に合致するから、これもいずれも正当である。したがって、契約2の解除が認められる。

設問3

1.Fは、Eの財産管理を事実上行っていただけであるから、丁土地の売買に関する代理権(99条1項)がEからFに授与されていたとはいえない。したがって、FがEの代理人として締結した契約③は、無権代理(113条1項)である。Eが契約③を知らずに死亡しているため、Eによる追認(113条1項)があったともいえない。したがって、契約①の効果はEに帰属しないのが原則である。

2.もっとも、761条によりEに帰属しないか。

(1) 「夫婦の…日常家事に関」する「法律行為」とは、当該夫婦の共同生活において通常必要とされる法律行為を意味する。この判断では、取引安全のため当該夫婦に関する個別事情よりも当該法律行為の客観的性質を重視する。

(2) 丁土地の売却代金を入院加療中のEの医療費に充てるという事情があるところ、これは、個別事情だから判断の際に重視することができない。土地の売却という規模の大きさからすれば、これがEFの共同生活において通常必要であるとはいえない。したがって、契約③は「夫婦…の日常の家事に関」する「法律行為」にあたらないから、761条により契約③の効果がEに帰属するともいえない。

4.では、110条の表見代理は成立しないか。

(1) 確かに、761条は夫婦・連帯責任の前提として夫婦に対して日常家事代理権を付与しているため、これを基本代理権とする110条の適用が可能であると思われる。しかし、日常家事代理権を基本代理権とする110条の表見代理の成立を広く認めることは夫婦の財産的独立を害する。そこで、相手方が当該法律行為が当該夫婦の日常家事に関する法律行為の範囲に属すると信じたことについて正当な理由がある場合に110条類推適用が認められると解する。

(2) FはBに対して委任状及び印鑑登録証明書を示している。この事実は丁土地の売買に関する代理権がEからFに授与された事実を事実上推認するものであり、契約③の日常家事性を事実上推定するものではない。そのため、Bには日常家事性について確認する義務があった。にもかかわらずBはこれを怠ったのだから過失があり正当な理由を欠く。したがって、110条の類推適用もない。

5.契約③の効果はEに帰属していなかった。Fが相続放棄をしたことでGがEを単族相続(890条)した。Gは原則として相続した追認拒絶権を行使できる。もっとも、例外的にこれが否定されないか。

(1) 無権代理された本人を単族相続した者について無権代理人に準ずる事情がある場合には、無権代理人による単族相続と同様に考え、追認拒絶権の行使が否定されるべきである。

(2) 契約③についてGがFから相談を受けて了承していること、Gが契約③を締結する場に同席していたこと、及びGが契約③の代金の一部を受取ってこれを自己の事業の資金に充てていることから、Gには無権代理人Fに準ずる事情がある。したがって、Gは追認拒絶権を行使できず、その結果、契約③の効果がGに帰属する。

 よって、Bの請求は認められる。以上

商法


所要時間
120分(読む24分 構成13分 答案83分)

想定順位
100~200番

答案(手書き答案を文字起こししたもの)

  • 約3400文字、1行あたり平均40文字
  • PDF化した答案はこちら

設問1

1.本件株式発行の効力が生じたことにより、本件決議1・2の取消しの訴え(会社法831条)は本件株式発行の無効の訴え(828条1項2号)は吸収される。そこで、Bは甲社の「株主」(828条2項2号)として本件株式発行の無効の訴えを提起する。

2.Bは、非公開会社においては適法な特別決議(199条2項、309条2項5号)を経ていないことが新株発行の無効原因になるという考えを前提として、本件決議2の取消事由(831条1項各号)を基礎づけるために以下の通り主張する。

 まず、①本件招集通知には本件議案1及び「定款変更の件」という議題の記載がなかったことから本件決議1には取消事由があり、本件決議1が本件決議2の前提要件であることから本件決議1の取消事由が本件決議2の取消事由を基礎づけると主張する。

 次に、②本件招集通知には本件議案2及び「新株発行の件」という議題が記載されていないことが本件決議2の取消事由を基礎づけると主張する。 そして、③Cによる説明が199条3項に違反することが本件決議2の取消事由を基礎づけると主張する。

3.①
(1) 会社法上、議題については招集通知に記載することが要求されている(298条1項2号)が、議案については記載が要求されていない。したがって、①のうち、招集通知に「定款変更の件」という議題が記載されていなかったことだけが、「招集通知…の…法令…違反」(831条1項1号)として本件決議1の取消事由になる。また、309条5項違反による「決議の方法が法令…に違反する」という取消事由もある。

(2) 本件決議(108条2項1号、466条、309条2項11号)は本件決議2の前提条件であるから、本件決議1に取消事由があることが本件決議2の取消事由になると解する。したがって、前記(1)の点は本件決議2の取消事由に当たる。

(3) 前記(1)ゆえに、Bは、本件議案1のことを、本件議案が本件定時総会で上程された段階で初めて知り驚いている。そして、本件議案1について議決の準備をする機会を与えられていなかったため、Cからの虚偽の説明を真に受けて、渋々ながら本件議案1について賛成している。このように、前記(1)の瑕疵は、議題について議決する準備の機会を与えるという298条1項2号及び309条5項の趣旨を著しく害するものだから、「違反する事実が重大でなく」とはいえない。したがって、裁量棄却(831条2項)されない。

(4) 会社法は、非公開会社については、既存株主の持ち株比率維持の利益を重視して、既存株主の意思に反する新株発行について新株発行無効の訴えによって救済する趣旨である(199条2項、309条2項5号、828条1項2号かっこ書)。そこで、非公開会社においては、適法な特別決議を経ないことが新株発行の無効原因になると解する。したがって、本件決議2に取消事由があることにより、本件株式発行は無効である。

4.②

(1) 前記3(1)の通り、②のうち、招集通知に「新株発行の件」という議題を記載していないことについて、298条1項2号及び309条5項違反が認められ、これが本件決議2の取消事由(831条1項1号)となる。

(2) 2の瑕疵についても、前記3(3)と同様の事情があるため、「その違反する事実が重大でなく」とはいえず、裁量棄却されない。

(3) したがって、4(1)の瑕疵も、3(4)の考えにより、本件株式発行の無効原因となる。

5.③

(1) 非公開会社では、株価評価が困難であることもあるため、有利発行に該当するとして取締役の責任が追及されることになると資金調達を過度に萎縮させる危険がある。そこで、非上場会社においては、客観的な資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価値が決定された場合には、特段の事情のない限り、「特に有利な金額」(199条3項)による有利発行に当たらないと解するべきである。

 令和2年2月中旬、中立的な専門機関は、甲社の事業計画や財務状況を示す客観的な資料に基づき、本件優先株式について合理的な方法による評価額の算定を行い、その結果、本件優先株式の評価額は1株当たり4万円と算定された。にもかかわらず、P・Qの主張に応じる形で、上記4万円の2分の1にすぎない1株当たり2万円を払込金額とすることとなった。そのため、1株当たり2万円という払込金額は客観的な資料に基づく一応合理的な算定方法によって決定されたものですらない。このことに、払込金額が上記4万円の2分の1にすぎないことと、本件優先株式の客観的な評価額の算定後から払込期日までの間に本件優先株式の価値を著しく変動させるような事情がなかったことからすれば、1株当たり2万円という払込金額は「特に有利な金額」に当たる。したがって、本件株式発行は有利発行である。

(2) 有利発行ゆえに、取締役は本件定時総会において199条3項に基づく説明義務を負う。Cは、2万円という1株当たりの払込金額は中立的な専門機関が合理的な方法によって算定した評価額に相当するという虚偽の説明をしているため、本件決議2には、199条3項の説明義務への違反を理由とする「決議方法が法令に違反する」という取消事由がある。

(3) Cが意図的に虚偽の説明をしているため、5(2)は「違反する事実が重大でなく」とはいえない。そのため、裁量棄却はない。

(4) したがって、5(2)の点も本件株式発行の無効原因となる。6.よって、Bの主張が上記の通り認められる。

設問2

1.小問(1)

(1) Dは、本件株式併合(180条以下)により、保有する本件優先株式の数が5000株から2500株まで減らすことにより、配当優先額の合計額が500万円(1000円×5000株)から250万円(1000円×2500株)まで低下するという利益を受ける。

(2) Pは、(1)に加え、今後、甲社が新株発行を行った場合に持ち株比率が低下する限度が、5000/20万から2500/20万まで拡大されるという意味で、持ち株比率維持の利益について不利益を受けるおそれがある。

2.小問(2)

(1) Dは甲社の「株主」として、本件決議3の取消の訴え(831条1項)を提起するとともに、本件決議3の執行停止を内容とする仮処分の申立て(民事保全法23条)をすることが考えられる。

ア.3号の趣旨は、利益相反的な議決権行使による資本多数決の濫用を是正して決議の公正を図ることにある。そこで、「特別の利害関係を有する者」(831条1項3号)とは、当該議案について他の株主と相反する利害関係を有する株主を意味する。本件議案3が可決された場合、本件優先株式を保有するP・Qは前記1(1)の不利益を受ける一方で、本件普通株式のみを保有するA・Bは配当優先額の合計額が減少するため自分たちが株式保有を通じて支配している甲社の利益が増えるという利益を得る。そのため、A・Dは、本件議案3について他の株主であるP・Qと相反する利害関係を有する株主として「特別の利害関係を有する者」に当たる。

イ.「著しく不当な決議」とは、特別利害関係株主以外の株主に著しい不利益が生じる決議を意味する。本件決議3は、P・Qに対して上記1(1)(2)の不利益を及ぼし又は及ぼすおそれがあるものだから、P・Qに著しい不利益を生じさせるものとして「著しく不当な決議」に当たる。

ウ.本件議案3についてP・Qが反対したにもかかわらずこれが可決されたのは、両名で甲社の発行済み株式総数(9万株)の8/9の株式を保有しているA・Bが賛成したからである。したがって、A・Bが「議決権を行使したことによって、著しく不当な決意がされた」という因果関係もあり、3号の取消事由が認められる。よって、決議取消しの訴えが認められる。なお、前記1(1)(2)による不利益性の大きさからすれば保全の必要性もあるといえるから、仮処分の申立ても認められる。

(2) Pは、甲社の「株主」として本件株式併合の差し止め訴訟(182条の3)を提起するとともに、仮処分の申立をすることが考えられる。180条1項でいう「株主総会の決議」は適法なものであることを要する。したがって、本件株主併合には、本件決議3に取消事由があるという意味で、180条1項違反という「法令…違反」による差止事由がある。前記1のとおり、Pは本件株式併合により前記1(1)(2)の「不利益を受けるおそれ」がある。したがって、差止訴訟が認められる。前記2(1)の通り保全の必要性もあるから仮処分の申立ても認められる。

(3) 1Pは、本件臨時総会に先立ち、本件株主併合に反対する旨を甲社に対し書面で通知した上で、本件臨時総会においても本件議案3に反対しているため、「反対株主」(182条の4第1項、同条2項1号)に当たる。しかし、本件株式併合によりPが保有している本件優先株式の数が5000株から2500株になるため、Pが保有する株式について「端数」は生じない。したがって、反対株主の買取請求は認められない。以上

民事訴訟法


所要時間 
119分(読む20分 構成18分 答案81分)

想定順位
100~200番

答案(手書き答案を文字起こししたもの)

  • 約3500文字、1行あたり平均38文字
  • PDF化した答案はこちら

設問1

1.課題1

(1) 将来給付の訴え(民事訴訟法135条)とは、訴訟の事実審口頭弁論終結時までに履行可能な状態にならない給付請求権について給付判決を求める訴えである。

 将来給付の訴えが認められる場合、原告はその強制執行をするための債務名義を取得することができる利益を得る一方で、被告が権利成立阻却事由という不確定要素に関する立証責任と請求異議訴訟の提訴負担を負うことになる。このような将来給付の訴えの性質からすれば、請求適格(135条)が認められるためには、①給付請求権の基礎となる事実又は法律関係が既に存在していること、②給付請求権が履行可能な状態になる蓋然性があること、③給付内容を予め特定できること、及び④権利成立を阻却する不確定要素が予め具体的に予測できるものであることを満たす必要があると解するべきである。

(2) 敷金返還請求権(民法622条の2)は、賃貸借契約に付随して敷金契約を締結し、それに基づいて敷金が賃借人から賃貸人に対して交付されたことを成立要件の一部とする。XA間で本件契約が締結され、その際、AからXに対して賃料とは別に120万円が交付された事実について当事者間で争いがない。そのため、敷金返還請求権の基礎となる事実又は法律関係が既に存在している(①)。

 敷金返還請求権は、賃貸借終了後、不動産が明け渡された時点において、被担保債務を控除した残額について発生するものである(民法622条の2第1項1号)。Xは、Yらに対して生前におけるXA間の解約合意の存在を主張して賃貸借終了に基づく本件建物の明渡しを求めている。しかも、Xは「8月末まで賃料の滞納はなく、本件建物をきれいに使ってくれて修繕の必要もない」と主張しているため、被担保債務は存在しない。そうすると、AX間における敷金契約の存在が認められれば、120万円の敷金返還請求権が発生することになる。そのため、敷金返還請求権が履行可能な状態になる蓋然性がある(②)。

 前記②で論じた事情から、敷金返還請求権の内容が120万円の給付請求権であることを予め具体的に特定できる(③)。

 敷金返還請求権の成立を阻却する不確定要素としては、賃貸借終了後明渡までの間にYらが明渡しを拒んだことにより賃料相当額の損害賠償請求権(民法415条、709条)や不当利得返還請求権(民法703条)が発生することというように、予め具体的に予測できる(④)。

(3) したがって、請求適格を満たすから、将来給付の訴えを適法に提起することができる。

2.課題2

(1) 確認の利益は、①確認対象の適否、②方法選択の適否、及び③即時確定の利益により判断される。

(2) ①は、現在の権利・法律関係についてのみ認められるのが原則である。敷金返還請求権は、賃貸借終了後、明渡時点において被担保債権の控除後に残額があることを条件として当該残額について発生する条件付き権利という意味では、明渡前から存在している。XY間では被担保債務の有無や交付した金額については争いがなく敷金契約の存否について争われているだけだから、条件付き権利としての敷金返還請求権の存否が争われているといってよい。したがって、確認対象は、明渡時に発生する将来の権利としての具体的な敷金返還請求権ではなく、現時点で存在している条件付き権利としての敷金返還請求権であるから、①を満たす。

 条件付き権利としての敷金返還請求権の存在について確認判決の既判力(114条1項)によって確定しておくと、明渡後に賃借人が賃貸人を被告として敷金返還請求訴訟を提起した場合、既判力の作用により同訴訟において賃貸人が敷金契約の存在や敷金交付の事実を争うための主張・立証をすることが制限される。これは敷金をめぐる紛争の抜本的解決につながり、確認訴訟の紛争解決機能が果たされるといえるから、②を満たす。

 ③は、原告の権利・地位に現実的な危険・不安が存在する場合に認められる。前記のとおり、XY間の争いは現時点存在する条件付き権利としての敷金返還請求権に関するものだから、かかる権利について現実的な危険・不安が存在しており、③も満たす。

 したがって、条件付き権利としての敷金返還請求権の存在の確認を求める訴えであれば、確認の利益を満たし、適法である。

設問2

1.課題1

(1) 民事訴訟法においては、裁判所が事実認定の際の心証形成の資料とすることができるものは「口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果」(247条)に限られる。

(2)「口頭弁論」(148条以下)と和解期日は異なるものだから、和解期日におけるY2の発言は「口頭弁論の全趣旨」に当たらない。和解期日におけるY2の発言は、当事者尋問(207条)における陳述でもないから、「証拠調べの結果」にも当たらない。

2.課題2

(1) 訴訟上の和解とは、私的自治の原則の訴訟法的反映である処分権主義を根拠とする自主的紛争解決方式であり、当事者が互譲によって合意して判決によらずに訴訟を終了させるものである。当事者は事実関係や主張立証の成功の見込みを踏まえて訴訟の帰すうを想定し、様々なことを比較衡量しながら、時には裁判官とも話し合いながら、譲歩の要否・内容について考え決定する。

(2) 仮に和解期日における当事者の発言内容を心証形成の資料にできるとすると、当事者が萎縮してしまい互譲による合意に至りにくくなり和解の意義を損なわせることになるとともに、和解が成立しなかったために判決が下されるという場面において当事者に対して不意打ち的な事実認定がなされるおそれがあるという問題がある。

設問3

1.課題1

(1) 本件訴訟が通常共同訴訟(38条)であれば、通常共同訴訟人独立の原則(39条)が適用されるため、XはY2に対する訴えのみを取り下げる(261条以下)ことができる。

 本件訴訟が固有必要的共同訴訟であれば、40条2項が適用されるため、XはY2に対する訴えのみを取り下げることができない。

(2) 通常共同訴訟と固有必要的共同訴訟の区別の判断では、実体法上の管理処分権の帰属態様を基準としつつ、訴訟法的政策的観点も加味するべきである。民事訴訟は実体法上の権利を実現・処分する過程であるものの、当事者適格は訴訟追行権に関わるものだからである。

 賃貸人が賃借人の共同賃借人に対して賃貸借の終了を原因として賃貸不動産の明渡しを求める場合における共同訴訟人の明渡義務は不可分債務であるから、賃貸人は共同訴訟人に対して同時に、又は順次に明け渡しを求めることができる(民法430条、436条)。また、仮に固有必要的共同訴訟だとすると、争う意思のない共同訴訟人も被告として訴える必要があるとともに、訴訟の途中で共同訴訟人の一人が争う意思を失った場合であっても同人に対する訴えを維持する必要があるから、訴訟不経済である。そこで、賃貸人が賃借人の共同訴訟人に対して賃貸借終了を原因として賃貸不動産の明渡しを求める訴えは通常共同訴訟であると解する。

 したがって、本件訴訟は通常共同訴訟として通常共同訴訟人独立の原則の適用を受けるから、XはY2に対する訴えのみを取り下げることができる。

2.課題2

(1) XがY2に対する訴えのみを取り下げることができるということは、本件訴訟が通常共同訴訟に当たるということである。

 通常共同訴訟人間の証拠共通の原則とは、共同訴訟人の一方が提出した証拠については他の共同訴訟人が当該証拠の証拠調べの結果を援用しなくても、他の共同訴訟人に関する事実認定に用いることができるという考えである。確かに、通常共同訴訟では個別訴訟が束になっているにすぎないため、弁論主義が訴訟ごとに適用される。そうすると、同原則を認めると弁論主義第3テーゼ(職権証拠調べの禁止)に形式的に抵触する。しかし、弁論主義第3テーゼの機能は自己が証拠調べ手続きに関与していた証拠が自己に関する事実認定に用いられることによる不意打ちを防止することにあるところ、共同訴訟では各訴訟が同一期日に共同で実施されるため共同訴訟人は自分以外の共同訴訟人が提出した証拠の取調べ手続に関与する機会を有する。そこで、通常共同訴訟人間の証拠共通の原則が認められると解する。

(2) 同原則を肯定すると、共同訴訟人の一方は、他方が提出した証拠によって自己に有利な事実認定を受けうるという訴訟上有利な地位を取得する。原告が証拠を提出した共同訴訟人に対する訴えを取り下げることにより、上記の既得の地位が失われるという事態を許容するべきでない。そこで、原告が共同訴訟人の1人に対する訴えのみを取り下げても、同人が提出した証拠を他の共同訴訟人に関する事実認定に用いることができるという効果は失われないと解するべきである。

 したがって、Y1が本件日誌の取調の結果を援用していなくても、XがY2に対する訴えを取り下げた後においても、裁判所は本件日誌の取調の結果をXY1間訴訟における事実認定に用いてよい。以上

今回の「リアル解答速報」の答案は、秒速・総まくり2021、秒速・過去問攻略講座2021及び労働法講座(BEXA)だけを使って1週間程度で準備をした上で、本試験の日程に準するスケジュールに従って制限時間内に書き上げたものです。秒速講座と労働法講座を使った答案の作り方や水準も含めて、参考にして頂きたいと思います。

 

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講師紹介

加藤 喬 (かとう たかし)

加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
司法試験・予備試験の予備校講師
6歳~中学3年 器械体操
高校1~3年  新体操(長崎インターハイ・個人総合5位)
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
労働法1位・総合39位で司法試験合格(平成26年・受験3回目)
合格後、辰已法律研究所で講師としてデビューし、司法修習後は、オンライン予備校で基本7科目・労働法のインプット講座・過去問講座を担当
2021年5月、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立

執筆
・「受験新報2019年10月号 特集1 合格
 答案を書くための 行政法集中演習」
 (法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 令和元年」
 憲法(法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 令和元年」
 行政法(法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 平成30年」
 行政法(法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 平成29年」
 行政法(法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 平成23~
 25年」行政法(法学書院)

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