「令和2年司法試験リアル解答速報」企画で作成した手書き答案を文字起こししたものを公開いたします。
科目ごとの雑感については、下記の記事をご覧ください。
労働法 憲法 行政法
民法 商法 民事訴訟法
刑法 刑事訴訟法
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憲法
所要時間
119分(読む21分 構成21分 答案77分)
想定順位
100位以内
答案(手書き答案を文字起こししたもの)
- 約3400文字、1行あたり平均40文字
- PDF化した答案はこちら
第1.規制①
1.規制①には、高速専業だった乗合バスの事業者の選択した高速路線バス事業を継続する自由を侵害するものとして憲法22条1項に反し違憲ではないかという問題がある。
2.狭義の「職業選択の自由」(憲法22条1項)には、選択した職業を継続する自由も含まれると解される。選択した職業の継続が保障されないのでは職業選択の自由を保障した意味が失われるからである。したがって、高速専業だった乗合バス事業者が選択した高速路線バス事業を継続する自由も狭義の「職業選択の自由」として憲法22条1項により保障される。
3.規制①では、高速路線バスの運行主体を生活路線バスを運行する乗り合いバス事業者に限定した上で、生活路線バスの新規参入についても許可制に服せしめている(骨子3条1項、4条)。これは、高速専業だった乗合バス事業者が高速路線バスの事業を継続できなくするものであるとして、事業継続の自由に対する制約に当たるのではないか。
(1) 規制①では、生活路線バスに新規参入すれば高速路線バス事業を継続できるという仕組みになっているのだから、高速路線バス事業の遂行方法について生活路線バス事業と並行するという条件が付されているにすぎないとして、職業遂行の自由が制約されているにとどまるという見解も想定される。
(2) しかし、薬事法事件大法廷判決では、薬局開設に関する適正配置規制が単なる開業場所の制限にとどまらず薬局開設そのものの断念につながるおそれがあるとして狭義の「職業選択の自由」に対する制約に当たると解されているように、職業遂行の方法に関する制約が狭義の「職業選択の自由」に対する制約に当たることもある。
高速専業だった乗合バス事業者は、規制①前段の要件を満たすために死活路線バス事業へ新規参入する場合、生活路線バス用の車両の購入や営業所の設置・維持、運転手の再教育に多くの費用を要することになる。また、例えば県庁所在地に近い駅と繁華街を結ぶ生活路線のように多くの利用者が見込まれる高収益の生活路線における生活路線バス事業に新規参入することは、規制①後段の許可要件を満たさず認められない。そうすると、新規参入する際には多くの費用がかかる上、高収益の路線に新規参入することもできないから、仮に新規参入しても生活路線バス事業の収益が極めて悪いためにこれを継続できなくなり、結果として、規制①前段の要件を満たさなくなって高速路線バス事業も継続できなくなるおそれがある。したがって、規制①は高速路線バス事業を継続する自由を制約するものである。
4.では、規制①による制約は合憲といえるか。
(1) 職業規制の違憲審査基準の厳格度は、立法裁量の広狭によって異なり、立法裁量の広狭は事の性質により異なる。事の性質としては、主として、規制の態様と規制の目的を考慮する(薬事法判決参照)。
規制①は狭義の「職業選択の自由」である事業継続の自由を制約するものだから、職業の自由に対する強力な制約である。規制①の目的は、地域における住民の移動手段の確保にあるところ、これは国民の生命・健康に対する危険の防止を内容とする消極目的とはいいがたいものの、積極目的や財政目的のように政策的判断や専門技術的判断が多分に要求されるようなものではない。そのため、規制①を支える立法事実の司法的把握が比較的容易であるといえる。そこで、規制①の合憲性は、㋐立法事実が重要であり、かつ、㋑手段が目的との間で実質的関連性を有するか否かで判断すべきである。
(2) 生活路線バスについて路線が廃止されたり減便されたりすると、これに依存する高齢者や高校生等が不可欠な移動手段をうばわれ日常生活に極めて大きな支障を生じることになる上、高齢者が免許証を返納することなく自家用車を運転することを継続することにより高齢者の自動車交通事故が増えるおそれがある。生活路線バスという地域における住民の移動手段を確保するという目的は、上記の弊害の防止につながるものだから重要である(㋐)。
規制①前段は、高速専業の乗合バスを認めないことで、生活路線バスを運行する乗り合いバス事業者の収益を高めるものであり、ひいては生活路線バスの確保につながるから、立法目的を促進するものといえ手段適合性がある。規制①後段は、生活路線バスの新規参入を促すことで生活路線バスが拡充されるという効果を有するから、生活路線バスの確保という立法目的を促進するといえ手段適合性がある。
過疎化が進み、地方のバス事業者の経営環境が悪化している現在、高速路線バスの収益と自治体からの補助金による赤字補填だけでは対応できなくなっており、新たなてこ入れが必要となっているため、手段必要性がある。
生活路線バスに参入しなかったあるいは参入できなかった事業者も貸切バス事業に転業すれば高速路線バス事業について受託する形で継続することができるため、重大な副作用を伴うともいえず、相当性もある。
したがって、手段の実質的関連性もある(㋑)から、規制①は憲法22条1項に反せず合憲である。
第2.規制②
1.規制②には、自家用車での一時的な移動の自由を侵害するものとして憲法22条1項に反し違憲ではないかという問題がある。
2.「居住、移転の自由」は本来的に住所・居所の決定・変更を意味するから、住所・居所の決定・変更を伴わない一時的な移動はこれに含まれないとの見解も想定される。
しかし、「居住、移転の自由」には、自由な経済活動の基礎的条件、人身の自由、及び精神的自由としての側面があるところ、一時的な移動にもこれらの側面がある。そこで、「居住、移転の自由」には住所・居所の決定・変更を伴わない一時的な移動の自由も含まれると解する。したがって、自家用車での一時的な移動の自由も「居住、移転の自由」として憲法22条1項により保障される。
3.規制②は、知事が定める特定の渋滞区域について特定の時間帯における域外からの自家用車の乗り入れについて罰則により禁止する(骨子5条各項)ことで、前記自由を制約している。
4.では規制②による制約は合憲か。
(1) 「居住、移転の自由」に対する制約についての違憲審査基準の厳格度は、主として制約されている「居住、移転の自由」の性質と制約の態様を考慮して判断する。
制約される移動には観光地への移動も含まれる。観光地への移動には、観光地へ赴きそこで様々な人・文化等に接することで自分の人格を形成、発展させるという意味で精神的自由としての側面がある。また、特定の地域・時間帯においてではあるものの、自家用車での乗り入れ自体が禁止されるのだから、制約が弱いとはいえない。そこで、規制②の合憲性は規制①と同じ基準で判断する。
(2) 規制②の目的は、深刻な交通渋滞の解消にある。大都市の一部地域や観光地における交通渋滞が住民生活に著しい支障を来す程度に達しており、住民の安全・安心した生活まで脅かす事態に至っていることから、このような事態の解消につながる上記目的は重要である(㋐)。
実際に、渋滞によって住民・自家用車やバスによる移動が著しく困難になるという事例が各地から報告されていること、歴史的な街並みが保存されている地域や住宅密集地では道路の拡幅できず歩くのも危ないし緊急車両の通行もままならないということで住民の不安も広まっている。そのため、このような深刻な交通渋滞の原因になっている自家用車での乗り入れを規制することは上記目的を促進するといえ手段適合性がある。これにつき、渋滞の原因は観光バス等にもあるから自家用車のみを規制してもあまり意味がないとして手段適合性は認められないとの見解も想定される。
しかし、自家用車による乗り入れも渋滞の原因になっている以上、これを規制することは目的達成を促進することになるから、手段適合性が認められる。
規制の広さとしては最大でも渋滞がひどい数平方キロメートル、時間帯は例えば観光地では週末や休日の午前9時から午後5くらいを、住宅地では通勤通学の時間帯が想定されているため、規制の広さ・時間帯は目的を達成するために必要な範囲に限定されている。したがって、手段必要性もある。
当該区域の住民による移動までは禁止されないこと、身体障害者が乗車する場合その他やむを得ない事由がある場合についても規制が解除されること(骨子5条1項かっこ書)からすれば、重大な副作用を伴うとはいえず手段相当性もある。
したがって、手段の実質的関連性もあり(㋑)、規制②は憲法22条1項に反せず合憲である。以上
行政法
所要時間
120分(読む38分 構成10分 答案72分)
想定順位
100~200番
答案(手書き答案を文字起こししたもの)
- 約3000文字、1行あたり平均40文字
- PDF化した答案はこちら
設問1(1)
1.「処分」(行訴法3条2項)とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、それにより国民の権利義務が直接形成され又はその範囲が確定されることが法律上認められているものをいう。これは、基本的には公権力性及び直接具体的な法効果性により判断されるが、権利救済の必要性が考慮されることもある。
2.本件計画変更
(1) 本件計画変更は、都道府県又は市町村が農振法13条を根拠とする優越的地位に基づき一方的に行うものだから、公権力性を有する。
(2) 本件計画(農振法8条)には、①農用地区域内の農地の用途が指定されたものに制限される(同法10条3項)、②指定された用途に従わなかった場合には、勧告がなされ、これに従わなかった場合等には協議勧告がなされ、さらには調停申請がなされることにより調停をすることになる(同法14条、15条)、及び③開発行為の制限(同法15条の2)という効果がある。これにつき、B市は、①・③は一般的抽象的な法効果にとどまる。②は事実上の効果しか伴わないと反論することが想定される。
まず、①・③は、土地区画整理事業計画決定における建築制限と同様、一般的抽象的な法効果にすぎないと解すべきである。
次に、②における勧告はいずれも行政指導にすぎないから、それ自体として法効果を有しない。調停申請までされて調停まで行われる可能性があるとしても、調停は公権的判断により強制的に権利関係を確定変動させる判決をする場ではないから、勧告と調停申請との連動性に着目して調停に至るという事態を勧告の効果として前倒し的に読み込んだとしても勧告に法効果を認めることはできない。
そうすると、①ないし③の効果を有するにとどまる本件計画について変更することを内容とする本件計画変更について直接具体的な法効果性を認めることはできない。
(3) 最高裁判決は、病院開設中止勧告について、法効果性を否定しつつも、勧告段階での抗告訴訟による救済の必要性を根拠として処分性を肯定している。
しかし、本件計画変更の処分性が否定された場合、Xは同変更を経ることなく農地転用許可(農地法4条)の申請をして不許可処分を受けてから同不許可処分の取消訴訟(行訴法3条2項)と申請型義務付訴訟(同法3条6項2号)を提起することになる。そして、上記判例の事案における保健医療機関の指定の申請と異なり、農地転用許可申請をする際に相当な投下資本を要するという事情もない。そうすると、農地転用不許可処分の段階で争えば足りるから、本件計画変更の段階での抗告訴訟による救済の必要性を根拠としてその処分性を肯定することもできない。したがって、処分性は認められない。
3.申出の拒絶
(1) 申出の拒絶は運用指針で定められている。これにつき、B市は運用指針は行政の内部基準たる行政規則にすぎず外部的効果を有しないため、運用指針で定められている申出の拒絶には法律上の根拠がないから公権力性が認められないと反論する。
(2) 確かに、農振法13条は職権による変更と申出による変更の双方を予定しており、同条が申出による変更の手続として予定している具体的内容について運用指針が明らかにしていると解することにより、申出の拒絶について農振法13条の根拠があると解することもできそうである。しかし、上記解釈の手がかりになる規定が農振法には存在しないため、上記解釈は運用指針という下位基準による法律の書き換えに当たるものとして許されないというべきである。そうすると申出の拒絶には法律上の根拠がないため公権力性が否定される。したがって、処分性が認められない。
設問1(2)
1.Xは、本件申請書の返送は「申請」に対する不作為に当たるとして、不作為の違法確認訴訟(行訴法3条5項)を提起する。
2.訴訟要件
(1) 「法令に基づく申請」権が認められるのは、行政庁が内容申請に基づき許認可等に関する拒否の応答をすることを法令上義務つけられている場合である。
申出の拒絶に処分性がある場合、運用指針が農振法13条申出による変更の手続として予定している具体的内容を明らかにしたものであるという解釈を採用していることになるから、申出による変更に関する具体的手続の内容が運用指針の内容と合致することになる。運用指針4条4項では「変更の可否については、申出人に通知するものとする」と定められているから、都道府県又は市町村が申出の内容や農振法13条所定の変更要件に該当するのかを審査した上で変更の可否について判断をして応答するということが農振法13条において義務付けられているといえる。したがって、申出は法令に基づく「申請」に当たる。
(2) Xは本件申出書を郵送することで(指針4条1項)、「法令に基づく申請」をした者に当たる。
(3) これに対してB市は変更の可否・通知をしていないから、「申請に対する何らかの処分」が「ない」といえ、訴訟要件を満たす。
3.本案上の主張
(1) B市が農用地区域からの除外に1年ほどを要する旨を公表しているところ、これは標準処理期間に当たる(行手法6条)。Xが本件申出書を郵送してそれが到着したのが令和元年5月10日であり、令和2年5月中旬になってもB市から通知がないから、標準処理期間を経過している。したがって、「相当の期間」の経過(行訴法3条5項)がある。
(2) これにつき、B市は、標準処理期間は行政の内部基準であり外部的効果を有しないから、これの経過を根拠として「相当の期間」が経過したとはいえないと反論する。
(3) 確かに、標準処理期間は行政の内部基準であり外部的効果を有しないから、「相当の期間」の経過の判断において積極的な意味を持たない。しかし、行政の自己拘束ゆえ、標準処理期間を経過した場合、合理的な理由がない限り、「相当の期間」の経過が認められると解すべきである。
前記の通り、Xが申出をしてから1年が経過しているため、1年間程度という標準処理期間の経過がある。しかも、Xと同時期にB市に申出をした他の農地所有者らに対しては既に先月中に通知がなされているため、Xの申出に対する通知が標準処理期間内にされていないことについて合理的な理由があるとはいえない。したがって、「相当の期間」の経過がある。
よって、本案上の主張も認められる。
設問2
1.農振法13条2項5号の趣旨は、同法10条3項2号に係る事業の効用を維持することにある。そこで、上記事業の効用を阻害しないと認められる場合には、農振法13条2項5号該当性が満たされると解すべきである。
本件事業は農地の冠水の防止を主たる目的とするもので、これによって関係する農地の生産性が向上するとは考えにくいし、とりわけ、本件農地は高台にあるため、ほとんど本件事業の恩恵は受けない。そうすると、「農業地域を保全し及び形成」する(農振法2条)という本件計画のために農地の冠水を防止するという本件事業の効用が阻害されたと認められる事情がある。したがって、同法13条2項5号を満たす。
2.農振法施行令9条が定める8年という制限は、農地所有者に対する相当強度な制限であるから、比例原則の観点から、その目的を達成するために必要な限度に限定して適用されると解するべきである。本件事業は、本件農地を直接の受益地とする上流部分については平成20年末頃に完了していたのだから、それから10年以上も経過した時点で上記制限を適用することは、目的達成手段として過剰である。したがって、上記制限が適用されないため13条2項5号を満たすから、違法事由がある。以上
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今回の「リアル解答速報」の答案は、秒速・総まくり2021、秒速・過去問攻略講座2021及び労働法講座(BEXA)だけを使って1週間程度で準備をした上で、本試験の日程に準するスケジュールに従って制限時間内に書き上げたものです。秒速講座と労働法講座を使った答案の作り方や水準も含めて、参考にして頂きたいと思います。
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