刑事訴訟法では、来年以降も、学説の対立が出題される可能性があります。
学説対立が問われる可能性がある分野の一つとして、無令状捜索・差押えが挙げられます。
無令状捜索・差押えについては、実質的根拠について相当説(合理説)と緊急処分説が対立しており、両説の対立が無令状捜索・差押えの許容範囲(時間的範囲・場所的範囲・物的範囲)に影響します。
無令状捜索・差押えについては、相当説と緊急処分説の違い(特に、緊急処分説の立場)について、正確に理解する必要があります。
相当説は、逮捕に伴う捜索・差押えが無令状で許容される実質的根拠について、逮捕の現場には証拠が存在する蓋然性が一般的に高く、令状裁判官の事前審査を介さなくても捜索・差押えの「正当な理由」が一般的に認められるという点にのみ求めます。
緊急処分説は、実質的根拠について、逮捕の現場には証拠が存在する蓋然性が一般的に高いことに加え、被逮捕者による証拠隠滅を防止して証拠を保全する緊急の必要性にも求めます。
このように、緊急処分説も、逮捕の現場に証拠が存在する蓋然性が一般的に高いことを前提としているため、相当説と緊急処分説の差異は、令状主義の例外である無令状捜索・差押えを、事前に裁判官の令状を得ることが不可能な緊急状況に限定すべきか否かという点に関する考え方の違いにある、と理解することになります(川出敏裕「判例講座〔捜査・証拠篇〕」初版151頁、宇藤崇ほか「リーガルクエスト刑事訴訟法」第2版リークエ140頁)。
つまり、相当説と緊急処分説の本質的な対立点は、無令状捜索差押えの許容範囲を画する際に、証拠存在の蓋然性の一般的な高さ(+管理権の同一)に加え、令状を求める余裕のない緊急状況(証拠保全の緊急の必要性)まで要求するかということにあるといえます。
このように考えると、緊急処分説については、相当説が述べる根拠(証拠存在の蓋然性の一般的な高さ)が妥当することを前提として、証拠保全の緊急の必要性の存在も加味して、無令状捜索・差押えの許容範囲を相当説よりも限定する見解であると理解されることになります(川出敏裕「判例講座〔捜査・証拠篇〕」初版151頁・160頁等、宇藤崇ほか「リーガルクエスト刑事訴訟法」第2版140~141頁)。
そうすると、相当説から許容されない無令状捜索・差押えは、緊急処分説からも許容されないという理解になります。
そのため、凶器・逃走道具については、緊急処分説から”も”、220条1項2号・3項に基づく捜索・差押えは許されないが、逮捕の効力に基づき逮捕完遂に必要な措置として捜索と一時的な保管(差押え×)をすることは許されると理解することになります。(川出敏裕「判例講座〔捜査・証拠篇〕」初版153頁、宇藤崇ほか「リーガルクエスト刑事訴訟法」第2版146頁)。
これが、元考査委員(堀江教授、川出教授)の理解です。
試験対策としては、上記のように理解するべきです。
なお、無令状捜索・差押えに関する学説対立が問われた場合、相当説と緊急処分説の対立点を明確にするために、両説を取り入れたどっちつかずの曖昧な見解(例えば、東京地判S44.6.20・百23等)の採用は避けるべきです。
無令状捜索・差押えは、出題可能性の高い頻出分野ですから、川出敏裕「判例講座〔捜査・証拠篇〕」や宇藤崇ほか「リーガルクエスト刑事訴訟法」を参照して、相当説と緊急処分説の対立及び各説からの要件解釈についてしっかりと確認しておきましょう。
両説の対立を深く正確に理解するためには、上記の2冊がお薦めです。
なお、秒速・総まくり2021と秒速・過去問攻略講座2021では、無令状捜索・差押えについても、学説対立にまで対応できる教材・解説になっているので、これらの講座を受講される方につきましては、学説対立も含めて論点学習を秒速講座に委ねて頂きたいと考えております。
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