加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

共謀共同正犯の成立要件

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共謀共同正犯の成立要件については、教科書ごとに整理の仕方が異なるため、試験対策としてどのように整理すればいいのか悩ましいところです。

以下では、複数の見解を紹介した上で、試験対策上どの見解に立つべきかと、答案を書く際の留意点について説明しております

1.共謀共同正犯の成立要件

共謀共同正犯の成立要件については、複数の理解があります。

以下では、著名な基本書・参考書で紹介されている要件整理について紹介いたします。

1つ目は、実行共同正犯と共謀共同正犯の成立要件を、①共謀+②共謀者の全部又は一部による共謀に基づく実行行為+③正犯性という3要件により統一的に理解する見解です(大塚裕史ほか「基本刑法Ⅰ」第3版325頁参照)。

この見解では、①共謀=意思連絡と理解することになります。

なお、「意思連絡」と「共同犯行の認識」を区別する説明もありますが、前者に後者を包摂させることも可能であるため、本記事では「意思連絡」という概念を「共同犯行の認識」を包摂するものとして説明させて頂きます。

実行共同正犯についても独立の要件として③正犯性が要求されるものの、実行行為を担当したこと自体により③が認められるのが通常ですから、③正犯性が疑わしい事案でない限り、当てはめでは「共同実行の事実から③正犯性も認められる」と書けば足ります。

2つ目は、実行共同正犯と共謀共同正犯の成立要件を、①共謀+②共謀者の全部又は一部による共謀に基づく実行行為という2要件により統一的に理解する見解です(大塚裕史ほか「基本刑法Ⅰ」第3版322頁以下では、2つ目の見解を採用しています)。

この見解では、①共謀を「意思連絡+正犯意思(共同犯行の意識)+重大な寄与」と整理したり(大塚裕史ほか「基本刑法Ⅰ」第3版322~324頁)、「意思連絡+正犯意思」と整理します。

1つ目の見解で独立の要件とされていた③正犯性に対応する要素(正犯意思や重大な寄与)が、①共謀の構成要素として取り込まれているわけです。

3つ目は、実行共同正犯と共謀共同正犯の成立要件を区別した上で、実行共同正犯の成立要件を①共謀(意思連絡)+②共謀に基づく実行行為という2要件で理解する一方で、共謀共同正犯の成立要件を①共謀(意思連絡)+②共謀者の一部による共謀に基づく実行行為+③プラスアルファという3要件で整理する見解です(佐伯仁志「刑法総論の考え方・楽しみ方」初版404~405頁)。

共謀共同正犯の成立要件を①共謀+②共謀者の一部による共謀に基づく実行行為という2要件で整理した上で、①共謀=意思連絡+プラスアルファと理解することで、③プラスアルファを独立の要件に位置づけないで①共謀の構成要素として取り込む見解もあります(佐伯仁志「刑法総論の考え方・楽しみ方」初版406頁・脚注37)参照)。

これに対し、佐伯仁志「刑法総論の考え方・楽しみ方」初版406頁では、③プラスアルファが客観的行為である場合にはこれを①共謀に含めることにはかなり無理があることや、実行共同正犯では共謀を「意思連絡」と捉える一方で共謀共同正犯では共謀を「意思連絡+プラスアルファ」と捉えるというように共謀を二種類の意味で用いると混同が生じてしまい意思連絡だけで共謀共同正犯が認められてしまう危険があるなどの理由から、③プラスアルファを独立の要件として捉えるのが望ましいと説明されています。

③プラスアルファについては、㋐「実行に準ずるような重要な事実的寄与」という客観的な基準として構成した上で、その判断の際に行為者の主観も必要な限度で考慮に入れるという見解(佐伯仁志「刑法総論の考え方・楽しみ方」初版407頁)や、㋑シンプルに「正犯性(正犯意思)」と捉える見解(高橋則夫「刑法総論」第4版463頁)などがあります。

これら3つの見解と異なる要件整理の仕方も複数ありますが、かえって受験生の皆さんを混乱させることにもなりかねないため、本記事で紹介する見解は上記3つに限らせて頂きます。

2.司法試験委員会の理解

著名な基本書で複数の要件整理が紹介されているとはいえ、どの要件整理を前提にしても構わないというわけではありません。

できるだけ、司法試験委員会の理解に合わせるのが望ましいです。

ここが、司法試験論文式の厄介なところでもあります。

司法試験委員会は、少なくとも平成24年司法試験の時点では、前記1の3つ目の見解のうち、「共謀共同正犯の成立要件=①共謀(意思連絡)+②共謀者の一部による共謀に基づく実行行為+③正犯性」という見解に”近い”理解に立っています

平成24年司法試験の出題趣旨では、「乙は、実行行為自体を行っていないため、いわゆる共謀共同正犯の成否が問題となるが、検討を行う際には、問題文中に現れている具体的な事実を丁寧に拾い上げて、共謀の成否(特に犯罪を行う意思の相互認識,相互利用補充意思)及び乙の正犯性を論じる必要がある。」と書かれています。

他方で、それまでの出題趣旨・採点実感・ヒアリングでは、実行共同正犯の成立要件を3要件で整理する見解を前提とした記述や、実行共同正犯における共謀の認定過程で意思連絡以外にも言及する必要があることを示唆する記述は一切ありません。

そうすると、兵士24年司法試験の時点では、司法試験委員会は、実行行為の成立要件を①共謀(意思連絡)+②共謀に基づく実行行為という2要件で整理する一方で、共謀共同正犯の成立要件を①共謀(意思連絡)+②共謀者の一部による共謀に基づく実行行為+③正犯性という3要件で整理する見解に”近い”理解に立っているといえます。

なお、”近い”という留保をつけているのは、共謀の要素として要求されている「相互利用補充意思」の捉え方によっては、「共謀=意思連絡」と捉えているとは言い難くなるからです。

これに対し、司法試験委員会は、平成28年司法試験の時点では、前記1の3つ目の見解のうち2要件説に立っていると思われます

平成28年司法試験の出題趣旨では、共謀共同正犯の成否が問題となる甲の罪責に関するものとして、「まず、甲は、乙に対して本件強盗の実行を持ち掛け、乙はこれを了承しているところ、甲と乙との間に共謀が成立していることを論じる必要がある。その際には、甲が乙に対してVが金庫内に多額の現金を保管している旨の情報を提供したこと、甲が乙に対してVから現金を奪う際にはナイフを用いるように指示したこと、甲が乙に対してナイフなど必要な道具を購入するための資金として現金3万円を提供したこと、乙は分け前欲しさもあり甲の指示を了承したこと,乙は甲の配下組員であること、甲はVから手に入れた金員の7割を手にすることにしていたこと、甲は組長からの指示で現金を手に入れる必要があったことなどの各事実を指摘した上,これらの事実を用いて共謀共同正犯が成立することをその要件を踏まえて論じることが求められる。」と書かれているからです。

※ 令和3年司法試験刑法設問1の出題趣旨・採点実感では共同正犯と幇助犯の区別基準に関する記述において「乙の正犯性」という表現が何度も用いられているため、共謀共同正犯の成立要件を「特定の犯罪を共同する効する旨の意思連絡という意味での共謀、共同者の一部による共謀に基づく実行行為、正犯性」と整理することは、司法試験委員会の理解と整合するものであると考えられます(2022.02.14追記)。

3.論文試験ではどの見解によるべきか

私は、3つ目の見解のうち、2要件説でも3要件説でも構わないと考えています。

司法試験の出題趣旨・採点実感では、ある法律用語や要件整理に関する理解が年度を跨いで異なっていることがあります。

刑事訴訟法の伝聞・非伝聞における「要証事実」の意味も、その一例です。

平成28年司法試験の出題趣旨では、3つ目の見解の2要件説と整合する記述がなされていますが、同年の採点実感では特定の要件整理を前提とした記述がされていませんから、平成28年司法試験の出題趣旨・採点実感が3つ目の見解の3要件説を排斥しているとまではいえません。

平成27年司法試験の出題趣旨では、平成28年司法試験の出題趣旨の公表に先立つものではありますが、「共謀共同正犯と教唆犯の区別について、自らの区別基準を踏まえて、その基準に事実関係を的確に当てはめることが求められる。」とされており、”自らの”という留保があることから、一部のマイナーな見解を除けば複数の見解による論述が許容されていると考えられます。

私は、実行共同正犯と共謀共同正犯の区別の明確性、要件整理の理由の説明のしやすさ、及び答案での使いやすさといった理由から、3つ目の見解のうち、共謀共同正犯の成立要件=①共謀(意思連絡)+②共謀者の一部による共謀に基づく実行行為+③正犯性という見解を論文試験用の見解として採用しています

4.答案を書く際の留意点

まず、共謀共同正犯については、その肯否及び成立要件について抽象論として説明するのが望ましいです。

平成27年司法試験の出題趣旨では、「いわゆる共謀共同正犯の肯否が問題となり得るが、これは判例の立場を踏まえて、簡潔に論ずれば足りる。その上で、共謀共同正犯と教唆犯の区別について、自らの区別基準を踏まえて、その基準に事実関係を的確に当てはめることが求められる。」とあるからです。

答案戦略上、共謀共同正犯の肯否を飛ばすのはありですが、成立要件を抽象的に示す(=規範定立)ことは必須です。

次に、どの見解に立つにせよ、採点者に実行共同正犯と共謀共同正犯を区別できていないと評価されないように気を付ける必要があります

例えば、2つ目の見解や3つ目の見解の2要件説に立つ場合、単に「共謀共同正犯の成立要件は、①共謀及び②共謀者の一部による共謀に基づく実行行為である」と書いたのでは、採点者から実行共同正犯と共謀共同正犯を区別することができないと評価される可能性があります。

2つ目の見解なのか3つ目の2要件説なのかもわかりません。

考慮要素レベルの理解は当てはめで示せば足りますが、要件(上記規範)レベルのことは抽象論として正確に分かりやすく明示する必要があります。

共謀共同正犯の肯否でも成立要件でも、「自手実行がない」という点が問題の本質ですから、「自手実行がない」ことを踏まえて成立要件をどう整理するのかということは示したいところです。

そのため、3つ目の見解のうち、2要件説に立つのであれば、共謀共同正犯の成立要件については、「共同正犯の成立要件は①共謀及び②共謀に基づく実行行為であり、共謀共同正犯においては、自手実行がないことを補うために、①共謀の構成要素として意思連絡に加えて正犯意思も必要であると解すべきである。」というように、採点者に誤解を与えないように配慮する説明をする必要があります。

なお、4では「採点者に誤解を与えないように工夫する必要がある」といった趣旨の説明をしていますが、ここでいう採点者としては「司法試験論文式の採点者」だけを想定するべきです。

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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