加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

令和2年予備試験「民法」の参考答案・解説(解説動画あり)

民事系の中では、民法が最も基本的な問題であったと感じています。

本問では、典型論点(無権代理行為に関与した後見人による追認拒絶)についての正確な知識、典型分野(債権者代位権・詐害行為取消権)に関する条文を使いこなす力、及び条文の要件を一つひとつ文言と番号を引用して認定する力が重視されているといえます。

 

解説動画

解説レジュメ(問題文・解説・参考答案)を使い、問題文の読み方、現場での頭の使い方、科目ごとの答案の書き方、コンパクトなまとめ方、出題の角度といった問題の違いを跨いで役立つ汎用性の高いことについても丁寧に解説しています。

 

設問1

訴訟物から考える

論点主義的に考えて、いきなり論点に飛びつくのではなく、訴訟物⇒法律要件という枠組みに従って考え、答案を書くことになります。

設問1では「Cは、本件消費貸借契約に基づき・・請求することができるか」とあるため、訴訟物は契約上の請求に限られ、法定債権に基づく請求(事務管理、不当利得、不法行為)は訴訟物から除外されていることが分かります。

本問では、契約上の請求のうち、本件消費貸借契約(民法587条)に基づく貸金返還請求権が訴訟物にすることとなります。

法律要件を検討する

次に、本件消費貸借契約に基づく貸金返還請求権の発生要件、行使要件、及び同契約の効果帰属要件について確認します。

問題文には、「BとCは、同日、返還の時期を定めずに、CがAに100万円を貸すことに合意し、CはBに100万円を交付した。」とあります。BはAの代理人として契約を締結し、Cから100万円の交付を受けているのですから、CがBに100万円を交付したことをもって要物性を満たすといえます。

したがって、本件消費貸借契約に基づく貸金返還請求権の発生要件を満たします。

行使要件については、「当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる」と規定する民法591条1項が適用されることになります。

残るは、契約の効果帰属要件です。ここで、論点が顕在化します。

契約の効果帰属要件

Bは、Aから本件消費貸借契約を締結する代理権を授与されていないにもかかわらず、Cに対してAの代理人であることを示すことで顕名し(民法99条1項)、Aの代理人としてCとの間で本件消費貸借契約を締結しています。

したがって、本件消費貸借契約の効果は、Bには帰属しないですし(Bが顕名をしているため)、無権代理として原則としてAにも帰属しません(民法113条1項)。

もっとも、Bは、無権代理行為をした後に、Aの後見人に就任することにより、本件消費貸借契約の追認又はその拒絶をする権限を取得しています(859条1項)。そこで、無権代理人であるBは、後見人として本件消費貸借契約の追認を拒絶することができなくなり、その結果として、Aに契約の効果が帰属することになるのではないか、という形で「無権代理行為に関与した後見人による追認拒絶の可否」の論点が顕在化します。

最三小判平成6・9・119(百選Ⅰ6)は、「後見人は、禁治産者を代理してある法律行為をするか否かを決するに際しては、その時点における禁治産者の置かれた諸般の状況を考慮した上、禁治産者の利益に合致するよう適切な裁量を行使してすることが要請される。ただし、相手方のある法律行為をするに際しては、後見人において取引の安全等相手方の利益にも相応の配慮を払うべきことは当然であって、当該法律行為を代理してすることが取引関係に立つ当事者間の信頼を裏切り、正義の観念に反するような例外的場合には、そのような代理権の行使は許されないこととなる。」と判示した上で、例外的に後見人による追認拒絶が信義則違反として否定される「例外的場合」に該当するかを判断する際の考慮要素として、㋐「右契約の締結に至るまでの無権代理人と相手方との交渉経緯及び無権代理人が右契約の締結前に相手方との間でした法律行為の内容と性質」、㋑「契約を追認することによって禁治産者が被る経済的不利益と追認を拒絶することによって相手方が被る経済的不利益」、㋒「契約の締結から後見人が就職するまでの間に右契約の履行等をめぐってされた交渉経緯」、㋓「無権代理人と後見人との人的関係及び後見人がその就職前に右契約の締結に関与した行為の程度」、㋔「本人の意思能力について相手方が認識し又は認識し得た事実」などを挙げています。

論文対策として㋐~㋔の考慮要素を全て記憶する必要はありません。これを記憶していなくても、超上位答案を書くことができます。もっとも、判例では後見人が無権代理行為に関与した程度(㋓の一部)が非常に重視されており、後見人が無権代理行為に立ち会ったに過ぎない事案では追認拒絶が肯定されている(最三小判平成6・9・19・百選Ⅰ6)一方で、後見人自身が無権代理行為を行った事案では追認拒絶が否定されること(最二小判昭和47・2・18)については、事前に押さえておいて頂きたいところです(秒速・総まくり2021でも、Bランク論点に位置づけた上で、両者の判例の違いについてアンダーラインの指示をしております)。

本問では、㋒本件消費貸借契約がAの入院費用の資金を調達するために締結されたものであり、実際に、交付された100万円が全てAの入院費用に充てられているため、契約による利益が全てAに帰属しているから、追認拒絶を否定することによりAが被る経済的不利益が小さいことと、㋓Bが自ら無権代理行為を行ったことの2点が極めて重要です。

この2点を指摘し、追認拒絶を否定する方向で評価することができるかが肝になっています。上記の考慮要素を記憶していなくても、問題文のヒントから、この2点には気が付けると思います。

それから、BがAの入院費用を調達するために本件消費貸借契約を締結していることから、Bによる本件消費貸借契約の締結には事務管理(民法697条)が成立するとして、「事務管理として行われた法律効果の帰属」(秒速・総まくり2021ではBランク)という論点も問題になるのではないかと思いました。

これについて、最一小判昭和36・11・30は、「事務管理は、事務管理者と本人との間の法律関係を謂うのであつて、管理者が第三者となした法律行為の効果が本人に及ぶ関係は事務管理関係の問題ではない。従つて、事務管理者が本人の名で第三者との間に法律行為をしても、その行為の効果は、当然には本人に及ぶ筋合のものではなく、そのような効果の発生するためには、代理その他別個の法律関係が伴うことを必要とするものである。」として本人への効果帰属を否定しています。

本問において「事務管理として行われた法律効果の帰属」まで問われていると断定することまではできませんが、私の答案では、問われていた場合に備えて、「無権代理行為に関与した後見人による追認拒絶の可否」に先立ち、軽く言及しています。

結 論

前述した事実関係からすると、追認拒絶を肯定することには相当無理がありますから、追認拒絶を否定してAへの効果帰属を認めることが正解筋であると考えます。

したがって、CがAに対して「相当の期間を定めて返還の催告」をし、それから「相当の期間」が経過すれば(591条1項)、Cの請求が認められることになります。

 

設問2

設問2では、「本件不動産について強制執行をするための前提として」とあることから、直ぐに債権者代位権(民法423条)と詐害行為取消権(民法424条)を想起することになります。いずれも、秒速・総まくり2021でAランクの分野に位置づけた上で、特に出題可能性が高い分野として指定していました。

1つ目として、Dが、Aの「債権者」として詐欺を理由とするAの取消権(96条1項)を代位行使(423条1項本文)した上で、これにより発生するAのEに対する原状回復請求権としての本件登記の抹消登記請求権(121条、121条の2)を代位行使することが考えられます。

私の答案では、紙面が足りないため言及していませんが、詐欺を理由とする取消権が行使上の一身専属権を意味する「債務者の一身に専属する権利」(民法423条1項但書)に当たるかが論点になると思われます。

例えば、潮見「プラクティス民法債権総論」第5版補訂197~198頁では、錯誤を理由とする取消権の代位行使について、代位債権者にとっての債権保全の必要性と取消権者の自己決定権保護の必要性との衡量により判断するとの考え方が示されています。この議論は、詐欺を理由とする取消権の代位行使についても妥当すると思われます。

2つ目として、Dが、Aの「債権者」として、Dを被告として、本件売買契約の詐害行為取消請求訴訟(424条1項)を提起して、本件登記の抹消登記手続を求める(424条の6第1項本文)ことが考えられます。

論点は、本件売買契約の詐害行為該当性くらいだと思います。本件売買契約は、相当価格処分行為(民法424条の2)、既存の債務についての担保提供・債務消滅行為(民法424条の3)、及び過大な代物弁済(民法424条の4)のいずれにも該当しませんから、改正前民法下におけるのと同様、「債務者が債権者を害することを知ってした行為」(424条1項本文)に当たるかについては、相関関係説に従い、行為の主観と客観の相関的考慮により判断されることになると思われます。

改正民法に対応した基本書・解説書では明言されていませんが、おそらく、改正民法下においても、特例に該当しない場合には、改正前民法下における相関関係説に従って詐害行為該当性を判断することになると思います。

潮見「プラクティス民法債権総論」第5版補訂241~242頁では「行為の詐害性に関する判断の一般的な枠組み」として「責任財産の計数上の減少」を内容とする客観的要件と「詐害の意思」を内容とする主観的要件の2点から判断するという枠組みが示されている上、特例のうち民法424条の2及び3では行為の客観的な詐害性の強弱に応じて主観的要件の厳格度を決するという構造になっていることから、改正民法は相関関係説を排除する趣旨ではないと考えられます。

事実認定上の論点として、債務者Aの債権者を害する認識(詐害行為該当性の当てはめ)と受益者Eの悪意(問題文には、Aには本件不動産以外にめぼしい財産がないことについてEが認識していたとは書かれていないため)が挙げられます。

設問2は、論点主義的に考えるのではなく、法律要件を一つ一つ、条文の文言と事実を結び付けながら認定することが非常に重視されている問題であると考えられます。

 

参考答案

設問1

1.Cは、Bとの間で、BをAの代理人として、返還の時期を定めずに、CがAに100万円を貸す旨の本件消費貸借契約(民法587条)を締結し、同契約に基づき100万円をBに交付した。BがAの代理人として100万円を受領したことをもって、要物性も満たす。したがって、上記契約が成立する。では、契約の効果はAに帰属するか。

2.Bは、Aから代理権を授与されることなく上記契約を締結している。もっとも、上記契約は、BがAの入院費用を調達するために締結したものであるため、「義務なく他人のために事務の管理を始めた」(697条本文)ものであり、Aの意思・利益に反することが明白であるともいえない(700条但書参照)から、事務管理が成立する。

 しかし、事務管理法は管理者・第三者間の法律行為の効果を本人に帰属させるにふさわしい対外的な権限付与までは目的としていないから、管理者が本人の代理人として行った法律行為は無権代理行為となり、本人の追認がない限り、その効果は本人に帰属しないと解すべきである(113条1項)。したがって、上記契約は無権代理であり、原則としてAに効果帰属しない。

3.上記契約後、BはAの後見人に就任することで、上記契約の追認又はその拒絶をする権限を取得している(859条1項)。そこで、無権代理人Bは後見人として上記契約の追認を拒絶することができなくなり、その結果としてAに効果帰属するということにならないか。

(1) 後見人には、成年被後見人の利益のための裁量行使が要請される一方で、取引安全等の相手方の利益にも相応の配慮をすることが要請される。そこで、後見人が、後見人就職前に成年被後見人を本人として行われた無権代理行為について追認を拒絶することは、それが取引関係に立つ当事者の信頼を裏切り、正義の観念に反するような例外的場合には、信義則違反として許されないと解する。

(2) Bは、自らAの代理人として上記契約を締結し、100万円を受領しているから、無権代理行為への関与が極めて強い。また、Bは、Aの娘としてAと密接な人的関係にある上、後見開始の審判を申立てることで自らの意思で後見人に就任している。このようなBが後見人として追認を拒絶することはCにとっては全くの予想外のことであるから、Cの取引上の信頼を著しく害することになる。他方で、上記契約に係る利益が全てAに帰属しているため、追認拒絶を否定してもAの利益を害する程度は小さい。したがって、Bが追認を拒絶することは、それが信義則に反する例外的場合に当たるといえ、許されない。よって、上記契約の効果がAに帰属する。

 以上より、「相当の期間を定めて返還の催告」及びその期間の経過があれば(591条1項)、Cの請求が認められる。

設問2

1.Dは、Aの「債権者」として詐欺を理由とするAの取消権(96条1項)を代位行使(423条1項本文)した上で、これにより発生するAのEに対する原状回復請求権としての本件登記の抹消登記請求権(121条、121条の2)を代位行使することが考えられる。

(1) Dは、Aに対し、弁済期を令和5年4月末日とし、無利息で500万円を貸し付けたことにより、金銭消費貸借契約に基づく500万円の返還請求権を有するから、Aの「債権者」に当たる。この債権は、「強制執行により実現することができないもの」(423条3項)ではない。

(2) Aが本件不動産以外にめぼしい財産がないにもかかわらず本件不動産を300万円でEに売却(555条)したことにより無資力に陥ったため、Dの「債権を保全するため必要がある」といえる。

(3) EがAに対して本件不動産の価値は300万円を超えないと言葉巧みに申し向け、これによりAが錯誤に陥り上記売買に応じたのだから、「詐欺…による意思表示」があったとして、AはEに対する取消権(96条1項)を取得する。この取消権は「被代位権利」(423条1項本文)に当たり、かつ、「債務者の一身に専属する権利」でも「差押えを禁じられた権利」(同条項但書)でもない。

(4) 令和5年4月末日を経過しているため、「債権の弁済期が到来」している(423条2項本文)。

(5) Aは、Dからの申し向けを拒否しているため、取消権を行使しているはずがない。したがって、取消権の代位行使が認められる。

(6) 取消権の代位行使により発生する原状回復請求権としての本件登記の抹消登記請求権は「被代位権利」であり、423条1項但書にも当たらないし、(5)の事情からAによる権利行使もない。したがって、(6)の権利の代位行使も認められる。

2.Dは、Aの「債権者」として、Dを被告として、本件売買契約の詐害行為取消請求訴訟(424条1項)を提起して、本件登記の抹消登記手続を求める(424条の6第1項本文)ことが考えられる。

(1) Dの貸金返還請求権は、本件売買契約の「前の原因に基づいて生じた」「債権」である上(424条3項)、「強制執行により実現することができないもの」(同条4項)ではない。

(2) 前記1(2)の事情により、Dは、本件売買契約時と現時点のいずれにおいても無資力である。

(3) 「債務者が債権者を害することを知ってした行為」(424条1項本文)に当たるかは、行為の主観と客観の相関的考慮により判断される。Aが代金を債務の弁済等に充てるつもりだったことを踏まえても、3000万円相当の本件不動産をその10分の1にすぎない300万円で売却することによる詐害性は強い。そのため、主観面では債権者を害することの認識だけで足りる。Aは、Eに欺かれ本件不動産の価値は300万円を超えないと誤信しているものの、本件不動産を処分しやすい金銭に代えることが債権者Dを害することの認識はある。したがって、本件売買契約は「債務者が債権者を害することを知ってした行為」に当たる。

(4) 本件売買契約は「財産権を目的としない行為」(同条2項)ではないし、本件不動産の価値を知っていた「受益者」Eは本件売買契約が「債権者を害することを知っていた」(424条の5第1項)。

(5) したがって、詐害行為取消請求も認められる。以上

※1. 参考答案は、2時間くらいで、総まくり講座及び司法試験過去問講座の内容だけで書いたものです。
※2. 答案の分量は「1枚 22行、28~30文字」の書式設定で4枚目の最終行(88行目)までで、文字数だと2400~2500文字くらいです。

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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