憲法判例を学習する際のコツ

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憲法は、行政法と同様、「答案の型」と「最低限の判例知識の水準(広さ・深さ)」が不明瞭になりがちな科目です。

だからこそ、論文対策をする際には、常に上記2点を意識する必要があります。

憲法判例の学習では、特にそうです。

以下では、憲法の論文対策のうち、憲法判例を学習する際のコツについて説明いたします。

Step1:違憲審査の基本的な枠組みについて具体的かつ正確な知識を身につけることで、「答案の骨格」を整える

司法試験委員会は、「保障⇒制約⇒違憲審査基準の設定⇒当てはめ」を違憲審査の基本的な枠組みであると理解しています(平成30年以降の司法試験の出題趣旨・採点実感参照)。

したがって、学説上、上記の違憲審査の基本的な枠組みが採用されている領域では、利益較量論に立っている判例を上記の違憲審査の基本的な枠組みに引き直して使うことになります。

上記の違憲審査の基本的な枠組みが「答案の骨格」であり、憲法判例が答案の骨格に対する「肉付け」に位置づけられるわけです。

よって、憲法判例を学習する際には、その前提として、違憲審査の基本的な枠組みについて具体的かつ正確な知識を身につけることで、「答案の骨格」をしっかりと整える必要があります。

違憲審査の基本的な枠組みに関する理解が曖昧な状態で憲法判例を学習するのは、刑法で客観的構成要件要素(主体、客体、結果、因果関係、行為状況)・主観的構成要件要素(故意・過失、主観的違法要素)・違法性・責任(責任能力、責任故意・過失、期待可能性)・客観的処罰条件という刑法の理論体系に関する理解が曖昧な状態で論点学習をしているのと同じです。

なお、「答案の骨格」として正確に理解するべきことは、「保障⇒制約⇒違憲審査基準の設定⇒当てはめ」という一番大きな枠組みだけでなく、「保障」の種類(直接保障、十分尊重に値する、尊重に値する)、「制約」の種類、「違憲審査基準の設定」の仕方(考慮要素と考慮の仕方)、「当てはめ」の前提となる違憲審査基準ごとの目的・手段審査の内容まで意味します(秒速・総まくり2021の第1部第1章の内容)。

Step2:判例を違憲審査の基本的な枠組みに落とし込んで理解する

Step1を終えたら、学説上、上記の違憲審査の基本的な枠組みが採用されている領域では、利益較量論に立っている判例を上記の違憲審査の基本的な枠組みに引き直して(落とし込んで)理解することになります。

例えば、岐阜県青少年保護育成条例事件判決(最三小判平成元・9・9・百Ⅰ50)は、「有害図書」が「青少年の性に関する価値観に悪い影響を及ぼし、…青少年の健全な育成に有害である」という考えに基づき、「有害図書」から「青少年の健全な育成」を守るという目的で、知事により個別又は包括的に「有害図書」として指定された図書を自動販売機に収納することを禁止していた岐阜県青少年保護育成条例の憲法21条1項適合性の判断において、次の通り判示しています。

①「本条例の定めるような有害図書が一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関する価値観に悪い影響を及ぼし、性的な逸脱行為や残虐な行為を容認する風潮の助長につながるものであって、青少年の健全な育成に有害であることは、既に社会共通の認識になっているといってよい。」

②「さらに、自動販売機による有害図書の販売は、売手と対面しないため心理的に購入が容易であること、昼夜を問わず購入ができること、収納された有害図書が街頭にさらされているため購入意欲を刺激し易いことなどの点において、書店等における販売よりもその弊害が一段と大きいといわざるをえない。しかも、自動販売機業者において、前記審議会の意見聴取を経て有害図書としての指定がされるまでの間に当該図書の販売を済ませることが可能であり、このような脱法的行為に有効に対処するためには、本条例6条2項による指定方式も必要性があり、かつ、合理的であるというべきである。」

①・②を論文対策用に学習する際には、(ⅰ)①・②は「保障⇒制約⇒違憲審査基準の設定⇒当てはめ」という違憲審査の基本的な枠組みの「当てはめ」に対応する、(ⅱ)「当てはめ」で前提とされている(と学説上理解されている)違憲審査基準は中間審査基準である、(ⅲ)①は手段適合性(のうち、規制対象が規制目的にとって有害であるという因果関係についての立法事実)に対応し、②は手段必要性に対応する、というように、①・②を違憲審査の基本的な枠組みに落とし込んで理解することになります。

Step3:判例を抽象化・単純化する

どんなに判例を丁寧に勉強しても、理解しきれない・記憶しきれないのでは、学習したことを答案で使うことができませんから、得点に繋がりません。

そこで、完璧を目指すのではなく、自分の理解力・記憶力・可処分時間等を踏まえて、判例を抽象化・単純化してみましょう。抽象化・単純化することで判例の正確性が下がっても構いません。憲法で加点評価を受けるために必要とされる判例知識の正確性は、かなり低いです。

判例を抽象化・単純化することにより、判例が理解・記憶しやすくなるとともに、論文で使いやすくなります。

薬事法判決(最大判昭和50・4・30・百Ⅰ92)なら、次の通りです。

  • 職業の自由には、自己の生計を維持する継続的活動という側面と、各人が自己の個性を全うすべき場として個人の人格的価値との不可分関連性を有する側面がある
  • 職業規制の違憲審査基準の厳格度は、規制の態様と目的を考慮して立法裁量尊重の要請の程度を判断して決する
  • 開業場所の規制も、実質的に狭義の職業選択の自由の制約に当たる場合がある。
    理由:特定の場所における開業不能は、経営上の採算・生活条件等から開業そのものの断念に繋がりうる
  • 職業の自由に対する強力な制限、かつ、裁判所が規制を支える立法事実を把握しやすい規制目的なら、中間審査の基準
  • 適正配置規制における過当競争による経営不安定化の防止という目的は、不良医薬品供給を防止して国民の生命・健康に対する危険を防止するという究極目的のための手段にすぎない
  • 適正配置規制なし⇒薬局等の偏在⇒競争激化⇒経営不安定化⇒相当規模での不良医薬品供給という因果関係のうち、「経営不安定化⇒相当規模での不良医薬品供給」は観念上の想定にすぎないため、規制対象(適正配置規制がないことによる薬局等の偏在)が規制目的(不良医薬品供給から国民の生命・健康を守る)にとって有害であるという因果関係について立法事実による支持がないから、手段適合性すらない。

初めは、これくらい抽象化・単純化して構いません。

ここまで抽象化・単純化すると、理解・記憶がしやすく、答案にも書きやすいですし、別事案での利用・応用もしやすいです。

これくらい抽象化・単純化した判例の知識が安定してきて、余裕が出てきたならば、可能な範囲で、さらに理解を深めれば足ります。

なお、薬事法判決では、他にも言及されていることがありますが、Step4で説明する通り、無理に全ての事項を理解・記憶する必要はありません。

Step4:言及事項が複数ある判例では重要事項から優先して理解・記憶する

薬事法判決のように、複数の事項に言及している判例については、無理に初めから全ての事項について抽象化・単純化して理解・記憶しようとする必要はありません。

重要性が高い事項(あるいは、汎用性が高い事項)から優先的に学習し、残りは後回しにしたり、最後まで学習しなくても構いません。

例えば、三菱樹脂事件大法廷判決(最大判昭和48・12・12・百Ⅰ9)のポイントは、以下の2つです。

①憲法の人権規定の私人間効力について、憲法の人権規定が対国家的なものであるから私人間に直接適用されないとする一方で、私法の一般条項の解釈・適用の際に憲法の趣旨・精神を取り込むという形で憲法の人権規定が私人間に間接的に適用されることを肯定した。

②企業者による労働者の思想・信条を理由とする採用拒否等について、㋐憲法22条・29条を根拠として企業者に雇い入れの自由を認めることで、思想・信条を理由とする採用拒否は当然に違法とはならないとするとともに、㋑そうである以上、企業者が採用決定に当たり労働者の思想・信条を調査したり、これに関連する事項の申告を求めることも違法ではないとした。

①・②のいずれか一方だけをまとめるというのであれば、①を優先します。

①が②の前提になっているという意味で、①のほうが汎用性の高い論点だからです。

Step5:判例の使い方のパターンまで意識する

判例の使い方には、積極的利用と消極的利用があります。

積極的利用には、㋐判例を典型事案に直接適用する場合と、㋑判例・学説を典型事案とは異なる事案や異なる論点に転用(応用)する場合があり、消極的利用には、㋒判例・学説の理論自体を否定する場合と、㋓判例・学説の射程を否定する場合があります。

それぞれの使い方に対応する書き方まで意識することで、答案で使える判例知識が完成します。

もっとも、Step5は、最後の仕上げとしてやることですから、まずはStep1からstep4までをやりましょう。


これは憲法に限らず、全科目の論文対策に共通することですが、論文対策としてのインプットは、答案で使う意識を身につけるためにやるものです。

したがって、自分が理解・記憶することができるところまで知識の水準を下げることと、知識を答案で使う形にして理解・記憶することの2点を常に意識する必要があります。

答案で使える実践的な知識を身につけたいという方には、科目特性まで踏まえた知識の論文最適化を最重要視している総まくり講座総まくり論証集を使って論文知識の強化を図って頂ければと思います。

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講師紹介

加藤 喬 (かとう たかし)

加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
司法試験・予備試験の予備校講師
6歳~中学3年 器械体操
高校1~3年  新体操(長崎インターハイ・個人総合5位)
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
労働法1位・総合39位で司法試験合格(平成26年・受験3回目)
合格後、辰已法律研究所で講師としてデビューし、司法修習後は、オンライン予備校で基本7科目・労働法のインプット講座・過去問講座を担当
2021年5月、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立

執筆
・「受験新報2019年10月号 特集1 合格
 答案を書くための 行政法集中演習」
 (法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 令和元年」
 憲法(法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 令和元年」
 行政法(法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 平成30年」
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・「予備試験 論文式 問題と解説 平成29年」
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・「予備試験 論文式 問題と解説 平成23~
 25年」行政法(法学書院)

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