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「公訴事実の同一性」を狭義の同一性により判断する場合における非両立性基準の位置づけ

いつもお世話になっております。「公訴事実の同一性」(刑訴法312条1項)のうち、狭義の同一性のあてはめ方について質問がございます。
前提として、私は、狭義の同一性について、①事実的共通性を一次的基準とし、②非両立性も補完的に考慮して判断する見解に立っています。その上で、通説によると、「公訴事実の同一性」について狭義の同一性により判断するのは、新旧訴因が「事実上ないし法律上、そのいずれか一方しか被告人に対する刑事責任追及事由の内訳として存在ないし成立しないものとして主張されている場合」(宇藤崇ほか「リーガルクエスト刑事訴訟法」第2版241頁)だと理解しております。
そうだとすると、新旧訴因が非両立だからこそ狭義の同一性が問題になっているのであるから、「公訴事実の同一性」について狭義の同一性により判断する場合には、②非両立性により狭義の同一性が認められるとの結論が既に決まっているのではないかと疑問に思いました。結局のところ、狭義の同一性が認められるか否かは、①のあてはめ次第となり、②のあてはめは、確認的・形式的なものになってしまわざるをえないのでしょうか。
ご回答いただけますと幸いです。

ご指摘の通り、「公訴事実の同一性」は、公訴事実の横の広がりが問題となっている場合(新訴因が事実及び犯罪として旧訴因と両立し得るものとして主張される場合)には単一性により判断され、公訴事実の縦の変化が問題となっている場合(新訴因が事実又は犯罪として旧訴因と両立しないものとして主張される場合)には狭義の同一性により判断されることになります。

例えば、検察官が被告人を住居侵入罪で起訴した後に、侵入先の住居内で窃盗も行っていたとして窃盗罪でも起訴するために訴因に窃盗を追加する場合(これは、狭義の「追加」ですが、広義では「変更」です)には、単一性が問題となり、両者は牽連犯(刑法54条1項前段)として実体法上科刑上一罪となりますから、単一性、ひいては訴因の追加が認められることになります。

これに対し、検察官が被告人を犯行日時を令和2年10月30日とするVに対する殺人罪で起訴した後に、犯行日時を令和2年10月20日に変更するために訴因を変更しようとする場合(これは、狭義の「変更」です)には、狭義の同一性が問題となります。

以上を前提として回答します。

「公訴事実の同一性」が狭義の同一性により判断されるのは、あくまでも、検察官により新訴因が事実又は犯罪として旧訴因と両立しないものとして”主張される”場合です。なので、実際に非両立性が認められるかどうかは別問題です。

新旧両訴因が殺人既遂の事案であれば、人の死亡の論理的一回性ゆえに法律上の非両立性が認められますが、新旧両訴因が殺人未遂罪である場合は、同一人物が機会を異にして同一人物に対する殺人未遂を侵すことは理論上も事実上あり得るため、法律上の非両立性は認められないのは勿論のこと、当然には事実上の非両立性も認められません。犯行の態様、場所及び日時が近接していれば、その分だけ、一方の殺人未遂とは別に他方の殺人未遂が存在するとはいい難くなるため、事実上の非両立性が認められやすくなります。逆に、犯行の態様、場所及び日時が異なっているのであれば、その分だけ、一方の殺人未遂とは別に他方の殺人未遂が存在するとはいい易くなるため、事実上の非両立性が認められにくくなります。

従いまして、「公訴事実の同一性」が狭義の同一性により判断される場合において、事実的共通性の基準だけでなく、非両立性の基準も実質的に機能します。

2021年04月28日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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