加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

行政指導である勧告に服従する義務の不存在の確認を求めることに意味はあるのか?

お世話になております。
過去問講座を受講しております。
平成20年行政法について質問させてください。
本講座では、勧告の処分性を否定した場合、次に、勧告服従義務の不存在確認を求める公法上の確認訴訟の提起+仮の地位を定める仮処分の申立てという手段を検討するという流れになっていますが、事例研究行政法第3版220頁では、「勧告に従う義務のないことの確認を求める当事者訴訟は、勧告が行政指導であるとすると、義務がないことについては争いの余地がないので無意味である」と記載されています。
事例研究行政法の事案と何か差異があるのでしょうか?
講座での指導と事例研究の記載を整合的に理解するために教えていただければ大変ありがたいです。
どうかよろしくお願いします!!!

2008「法学セミナー 新司法試験の問題と解説」36頁では「本件勧告…の内容の違法確認をするか、服従義務不存在確認をする(実質的当事者訴訟、行訴法4条後段)…」とあり、2008.8「受験新報 新司法試験論文問題の分析」47頁では「勧告の処分性を否定した場合、実質的当事者訴訟として、勧告に従うことがないことの確認訴訟(あるいは勧告の違法確認訴訟)が可能だろう。」とあります。

勧告の違法確認訴訟は、「処分性の認められない行政の行為(行政指導や通達など)…の違法ないし無効を確認の対象とする訴え(ダイレクト・アタック型)」として、原則として確認対象の適切性を欠くはずであるため(櫻井・橋本「行政法」第6版351頁参照、中原茂樹「基本行政法」第3版401頁参照)、平成20年司法試験の出題趣旨でいう「勧告に対して公法上の当事者訴訟を提起する」こととは、勧告服従義務不存在確認訴訟を意味すると理解するべきであると考えておりました。

もっとも、勧告不服従の場合における公表は、勧告服従義務があることを前提として同義務違反に対する措置として予定されたものではないでしょうから、その意味では、「勧告に従う義務のないことの確認を求める当事者訴訟は、勧告が行政指導であるとすると、義務がないことに争いの余地がないので無意味である」とする事例研究行政法第3版221頁の記述は正しいと思います(とはいえ、原告側が訴訟で勧告の違法性を主張することに伴い、勧告服従義務不存在を確認する判決の理由中で勧告の違法性が認定されるはずですから、判決の理由中にも生じる拘束力により勧告不服従を理由とする公表を阻止できるため、公表を阻止する手段としては無意味ではないように思えます)。

仮に勧告服従義務不存在確認訴訟を適法に提起することができない、あるいは、同訴訟の勝訴判決では公表を阻止することができないと理解するのであれば、「原告の現在の権利義務や法的地位に引き直した請求」では原告の権利を救済することができないとして、例外的にダイレクト・アタック型である勧告違法確認訴訟について確認訴訟の適切性を肯定することができるでしょうから((櫻井・橋本「行政法」第6版351頁参照、中原茂樹「基本行政法」第3版401頁参照)、勧告違法確認訴訟を選択するのもありです。

以上を踏まえると、①勧告服従義務の不存在を確認しても勧告服従義務を前提としない公表を阻止することができないから、勧告服従義務不存在確認は公表の阻止に役立たない⇒②勧告違法確認訴訟を提起する⇒③前記①の理由から「原告の現在の権利義務や法的地位に引き直した請求」では原告の権利を救済することができないためダイレクト・アタック型である②にも確認訴訟の適切性が認められる、という流れで論じるのがベストだと思います。

参考にして頂けますと幸いです。

2021年03月08日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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