加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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強盗致死傷罪の成否を論じる際、「強取」にも言及するべきか

いつもお世話になっております。強盗致死傷罪における「強盗」(刑法240条)の論じ方について質問がございます。
最判昭和23年6月12日刑集2巻7号676頁によれば、「強盗」(刑法240条)とは、強盗犯人のことを意味し、これには強盗罪の実行に着手しただけの者も含まれるため、強盗罪の既遂・未遂は問わないと解されています(大塚裕史ほか「基本刑法Ⅱ-各論」第2版211頁)。
そうすると,例えば1項強盗既遂犯人が被害者を負傷させたという事案では、強盗罪と強盗致傷罪の双方を順を追って検討するのではなく、いきなり強盗致傷罪の検討から入り、刑法236条1項との関係では「暴行又は脅迫」だけを認定すれば足り、「他人の財物を強取した」ことは答案上認定しなくてもよいということになるでしょうか。

1.例えば、甲がVに暴行を加えて傷害を負わせ、反抗を抑圧されたVから財物を奪取したという事案(単独犯事例)では、「強取」を認定しなくても、犯罪の成否に影響はありません。もっとも、一応、「強取」についても軽く認定するべきです。犯罪の成否に影響しないとはいえ、強盗致傷罪において強盗自体が既遂に達しているか否かは、量刑事情(のうち犯情に関する事実)として重要だからです。強盗自体が既遂に達している場合における強盗致傷罪の起訴状でも、公訴事実として「強取」まで記載するのが通常です(司法研修所検察教官室「検察講義案」平成24年版235頁)。

2.次に、甲がVに暴行を加えて傷害を負わせ、Vの犯行を抑圧した後に、乙が甲との現場共謀に基づきVから財物を奪取したという事案(承継的共同正犯の成否が問題となる事例)では、①甲についての強盗致傷罪の成否⇒②乙についての強盗既遂罪又は強盗致傷罪の成否という流れで答案を書くことになります。この場合、「強取」の有無は、①甲についての強盗致傷罪の成否には影響しませんが、②乙についての強盗既遂罪又は強盗致傷罪の成否には影響します。②では、承継的共同正犯の成否が問題となり、最高裁平成24年決定の立場であると理解されている因果性を基準とする見解からは、強盗致傷罪については承継的共同正犯は成立しないが強盗既遂罪の限度では承継的共同正犯の成立が認められます。そして、②乙について強盗既遂罪の限度で承継的共同正犯を認めるためには、その前提として、甲のところで「強取」を認定しておく必要があります。

2021年01月18日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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