加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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食品衛生法違反通知の処分性に関する問題の所在

お世話になっております。
「処分」(行訴法3条2項)の公権力性について、質問させていただきます。食品衛生法違反通知の判例(最判平成16年4月26日)についてです。
本判例で通知が通達に基づくものとなっているため、法律に基づくものでないことの問題意識(公権力性は法律の規定に従うことが前提にされている(基礎演習行政法第2版74頁))ことを公権力性で論述することは適切でしょうか。それとも法効果性の論述に吸収されるのでしょうか。
令和2年の予備試験について、通知に法令上の根拠がないことから、公権力性が問題になると先生の解答例に記されていたので気になりました。

食品等を適法に輸入するための手続は、以下の通りです(中原「基本行政法」第3版289~292頁)。

①検疫所長に対する輸入の届出(当時:食品衛生法16条、現在:同法27条)
②検疫所長による㋐食品等輸入届出済証又は㋑食品衛生法違反通知書の交付(㋐㋑につき、食品衛生法上は明確に定められておらず、輸入食品等監視指導業務基準(行政規則)により明確に定められているにとどまる)
③税関長に対して輸入許可を求めて輸入申告(関税法67条)をする
④関税法70条2項が輸入許可の要件として定める「当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備」の証明・確認があれば、税関長が輸入許可をすることになる。関税法70条2項が輸入許可の要件として定める「当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備」の証明・確認の方法について、関税法基本通達(行政規則)では、②において㋐食品等輸入届出済証が交付されていない食品等に関する輸入申告書は受理しないと定めているが、そのようなことは関税法上明確には定められていない

まず、食品衛生法違反通知(②・㋑)については、食品衛生法上は明確に定められておらず、輸入食品等監視指導業務基準(行政規則)により明確に定められているにとどまるため、法律上の根拠を欠くとして、公権力性が認められないのではないかが問題となります。これについて、最高裁平成16年判決では、(改正前)食品衛生法16条は、検疫所長が輸入届出に対する応答として㋐食品等輸入届出済証又は㋑食品衛生法違反通知書のいずれかを交付することを予定しており、輸入食品等監視指導業務基準(行政規則)はそのことを確認する趣旨で定められたものであると解釈することにより、食品衛生法違反通知は(改正前)食品衛生法16条に基づくものであるといえ公権力性があると判断しました。

次に、関税法70条2項が輸入許可の要件として定める「当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備」の証明・確認の方法について、関税法基本通達(行政規則)では、②において㋐食品等輸入届出済証が交付されていない食品等に関する輸入申告書は受理しないと定めているものの、そのようなことは関税法上明確には定められていないので、関税法上は食品等輸入届出済証が交付されていなくても輸入許可の要件を満たすとして税関長により輸入許可がなされる余地がある(つまり、輸入許可の要件である「当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備」の証明・確認の手段が②において㋐食品等輸入届出済証が交付されたことに限定されない)のであれば、②において㋐食品等輸入届出済証ではなく㋑食品衛生法違反通知書が交付されたことには、輸入許可を受けられなくなる結果として食品等を適法に輸入することができなくなるという法的効果が認められないことになります。そこで、関税法上は食品等輸入届出済証が交付されていなくても輸入許可の要件を満たすとして税関長により輸入許可がなされる余地があるのか(換言すると、食品衛生法違反通知書の交付には、輸入許可をしてはならないとして税関長の許否に関する判断を法的に拘束する力があるのか)が問題となります。これについて、最高裁平成16年判決は、関税法70条2項では、輸入許可の要件である「当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備」の証明・確認の手段として②において㋐食品等輸入届出済証が交付されていることを要求するという取扱いが予定されており、輸入食品等監視指導業務基準(行政規則)はそのことを確認する趣旨で定められたものであると解釈することにより、食品衛生法違反通知書の交付には輸入許可をしてはならないとして税関長の許否に関する判断を法的に拘束する力があるとして、輸入許可を受けられなくなる結果として食品等を適法に輸入することができなくなるという法的効果を認めました。

このように、処分性が問題となっている行為自体について行政規則では明確に定められている一方で法令上は明確に定められていないという場合には、公権力性の有無が問題となり、処分性が問題となっている行為に対する行政側の応答内容について行政規則では明確に定められている一方で法令上は明確に定められていないという場合には、法効果性が問題となる、というイメージです。

2020年12月31日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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