加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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平成21年司法試験設問3 即時取得の成否と善意占有者の果実収受権の関係

お世話になっております。秒速講座2021の受講生です。
いつも質問に答えて頂き、大変勉強になっております。
司法試験平成21年民法設問3について疑問に思ったことがあったため質問致します。
模範答案では、即時取得が否定された場合について、使用利益の返還について189条・190条の類推適用により処理しています。
即時取得が否定されるということは、Y社の即時取得の抗弁に対するX社の再抗弁が認められたことを意味すると思います。
そのため、Y社に悪意があった又は過失があったことになると思います。
そうすると、Y社が動産甲の引渡しを受けた時点である平成20年2月15日には、Y社には上記悪意(前主を権利者であると信じていなかったこと。半信半疑も含まれる)又は過失(不審事由及び調査確認義務の懈怠)があるため、189条類推適用の「善意」(果実収取権を含む本権を有すると信じたこと)になり得ず、引渡しを受けた時点で「悪意」(果実収取権を含む本権を有すると信じていなかったことを意味し、かかる本権の存在を疑っていた場合は「悪意」となる)になるのではないかと疑問が生じました。
上記の疑問について、お答え頂けますと幸いでございます。

まず、189条・190条の適用(類推適用を含む)の前提についてですが、189条・190条でいう「占有者」とは、所有権をはじめとする本権(占有を正当化する権利)に基づかないで物を占有する者を意味します(佐久間「民法の基礎2」第2版258頁、286頁参照)。Y社による即時取得が成立しているのであれば、Y社が動産甲の所有権を原始取得することになる結果、Y社は初めから所有権という本権に基づいて動産甲を占有していたことになりますから、Y社は「占有者」に当たらないことになり、189条・190条を適用する前提を欠くことになります。したがって、本問において189条・190条を適用しているということは、Y社による即時取得の成立が否定されていることを意味します。

次に、即時取得の成否と善意占有者の果実収受権の関係についてですが、Y社は占有取得時から「悪意」(192条)であったとして即時取得の成立が否定されている場合には、Y社は占有取得時から果実収取権を含む本権を有すると信じていたとはいえないという意味で190条1項の「悪意」でもあったということになりますから、Y社は占有取得時からの使用利益について返還義務を負うことになります。これに対し、Y社には占有取得時から「過失」(192条)があったとして即時取得の成立が否定されている場合には、Y社は占有取得時から果実収取権を含む本権を有すると信じていたという意味で190条1項の「悪意」でもあったということになりますから、Y社が占有取得時からの使用利益について返還義務を負うということにはなりません。189条1項でいう「善意」では無過失まで要求されていないからです。

2020年12月25日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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