加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

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行政裁量の逸脱濫用に関する判断枠組み

加藤先生、いつもお世話になっております。『秒速・過去問攻略講座2020』を受講している者です。
行政裁量について質問させていただきたいのですが、同講座行政法テキストでは、「実体法上の司法審査の手法」として、社会観念審査と判断過程審査の2つが紹介されていました。もっとも、最高裁はエホバの証人事件(最判平成8年3月8日)や呉市公立学校施設使用不許可事件(最判平成18年2月7日)において、両者を「結合させる」(基本行政法134頁)手法を取ることもあります。つまり、①判断過程審査、②社会観念審査、③上記判例のような①②を結合させた規範という3つの審査手法があると理解しております。
そこで、加藤先生に2つ質問があります。
⑴まず、「(4)裁量基準と関係なく判断過程審査をする場合」(講座テキスト8頁)には、上記の3つの審査手法のうち、規範として②ではなく③を用いることは可能でしょうか(③で書くと社会観念審査の部分が余事記載と評価されるのでしょうか)。
⑵また、「(4)裁量基準と関係なく判断過程審査をする場合」、3つを使い分けるのではなく、③の規範をメインで使うと決めておいても問題ないでしょうか。
お忙しいところ恐縮ですが、ご回答のほど、よろしくお願いたします。

まずは、1つ目のご質問についてです。

令和1年司法試験・採点実感では、「裁量権の逸脱濫用という一般的な論述はされているものの、その後の本件の事例での当てはめにおいて、調査における考慮不尽イコール裁量権の逸脱濫用とするのみで、その判断過程において社会通念に照らして著しく妥当性を欠くとまでいえるようなものかという点の検討がされているのかどうか、答案上、明らかでないものがある。」と言及されているので、司法試験委員会は、「判断過程が合理性を欠く結果、処分が社会観念上著しく妥当を欠く場合には、裁量権の逸脱・濫用に当たる」という、判断過程審査と社会観念審査とを結合させた判断枠組みを前提にしていると考えられます。

したがって、「(4)裁量基準と関係なく判断過程審査をする場合」には、㋐「判断過程が合理性を欠く結果、処分が社会観念上著しく妥当を欠く場合には、裁量権の逸脱・濫用に当たる」という判断枠組みを上位規範として書いた上で、㋑「判断過程が合理性を欠く」かについて他事考慮・考慮不尽・考慮事項に対する評価の明白な合理性欠如の有無などから判断し、「判断過程が合理性を欠く」との結論に至った場合には、さらに㋒「判断過程が合理性を欠く結果、処分が社会観念上著しく妥当を欠く」といえるかについて検討することになります。これが、理想的な書き方です。

もっとも、㋒まで書いている時間がないことも多々あると思いますし、㋒は採点上あまり重視されていないと思われますから、時間がない場合には、㋒の当てはめを飛ばし、他事考慮・考慮不尽・考慮事項に対する評価の明白な合理性欠如のいずれかがあることをもって直ちに「判断過程が合理性を欠く結果、処分が社会観念上著しく妥当を欠く」と結論付けても構わないと思います。

次に、2つ目のご質問についてですが、事案ごとに判断枠組みを使い分けることまで意識する必要はなく、「判断過程が合理性を欠く結果、処分が社会観念上著しく妥当を欠く場合には、裁量権の逸脱・濫用に当たる」という判断過程審査と社会観念審査とを結合させた判断枠組みを使えば足りると思います。

2020年12月07日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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