加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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詐欺罪における重要事項性は、経済的損害が発生する蓋然性がなくても認められるのか

いつも大変お世話になっております。
詐欺罪の欺罔行為である「交付判断の基礎となる重要な事項を偽る行為」のうち、「重要な事項」の判断基準について、ご質問がございます。
橋爪先生の法学教室連載(刑法各論の悩みどころ・2016・No434・106頁参照)によりますと、「重要な事項」か否かは、当該取引や業務内容の性質・目的に照らして、被害者が財物・利益を交付する際に十分に配慮する必要性が高い事情をいい、経済的損害が発生する蓋然性がなくても、当該業務や経営上の判断として、常に念頭に置くべき事情はこれに該当する、との判断基準を示されております。
ですが、詐欺罪が個別財産に対する罪であることからすると、欺罔行為も財産的損害を生じさせるおそれのある行為である必要があり、「経済的損害が発生する蓋然性がない」場合にまで、「重要な事項」にあたる(=詐欺罪の欺罔行為にあたる)と判断してもよいのでしょうか?
結局のところ、「交付判断の基礎となる重要な事項」にいう「重要な事項」とは、実質的個別財産説の立場に立ったうえで、どのような基準で判断されるのでしょうか?

宜しくお願いいたします。

確かに、詐欺罪は財産犯ですから、財産的損害が発生する蓋然性がない事情については重要事項性を認めることはできません。

しかし、財産的損害=経済的損害ではありません。財産的損害とは、経済的損害を包摂する、経済的損害よりも広い概念です。

したがって、経済的損害が発生する蓋然性がなくても、財産的損害が発生する蓋然性があるのであれば、重要事項性を認める余地があります。例えば、「財物」については「財産的価値が不可欠」であるものの、それは①「金銭的価値ないし経済的価値」に限られず、②「所有者・管理者の主観的価値」、さらには③「他人の手に渡ると悪用されるおそれがあることから自分の手元に置く利益(消極的利益)」も含むと解されています(山口厚「刑法各論」第2版175頁)。「財物」は、経済的価値のある物としてだけ保護されているわけではないということです。財産的損害は経済的損害よりも広い概念であるということは、上記と似た話です。

詐欺罪における法益である「財産」は、生命・身体等のようにそれ自体として保護されているものとは異なり、財産交換目的の達成手段として保護されるものです。つまり、物・利益がそれ自体として保護されているのではなくは、被欺罔者が認識していた財産交換目的の達成手段として保護されるということです。

そうすると、詐欺罪における重要事項性については、被欺罔者が認識していた交換目的の達成手段と直接関係する事項であるかどうかにより判断されることになります。被欺罔者が財物・財産上の利益を喪失したにもかかわらず財産交換目的を達成することができなかったことが、詐欺罪における法益侵害の内容だからです。

なお、被欺罔者が移転する対象である財物・財産上の利益について十分に認識することができていない場合には、財産交換目的の不達成という観点による判断が機能しにくいこともあります。

参考文献:山口厚「刑法各論」第2版175頁・267~268頁、山口厚「新判例から見た刑法」第3版272~273頁

2020年11月30日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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