加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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任務懈怠責任(会社法423条1項)における故意過失の検討の要否

423条1項の責任追及を検討する場面で、任務懈怠を認定しておいてから、別途、「423 条 1 項の責任については、役員等に故意・過失が必要である(428 条 1 項参照)」として故意過失の当てはめをする答案を見ました。任務懈怠責任を検討する際には、故意過失の検討も必要なのでしょうか。

平成28年司法試験設問3の出題趣旨では、内部統制システムの構築・運用に関する任務懈怠責任(会社法423条1項)が問題となった事案において、「設問3においては、取締役は、株式会社に対し、その任務を怠ったこと(任務懈怠)によって生じた損害を賠償する責任を負うこと(会社法第423条第1項)や、任務懈怠責任は、取締役の株式会社に対する債務不履行責任の性質を有するため、任務懈怠、会社の損害、任務懈怠と損害との間の因果関係に加え、取締役の帰責事由が必要であること(会社法第428条第1項参照)について理解していることが前提となる。」とあります。したがって、任務懈怠とは別に帰責事由まで認定することが、理想的な答案であるとされています。

任務懈怠と帰責事由の関係についてですが、①善管注意義務違反による任務懈怠は少なくとも過失を包含するため、善管注意義務違反による任務懈怠が認められる場合には帰責事由が否定されることはありません(善管注意義務違反を結果債務的に認定する場合には、善管注意義務違反の認定が過失を包含するとはいえないため、善管注意義務違反が認められる一方で帰責事由が否定される余地がありますが、このようなケースは稀です)。他方で、②法令違反、株主総会決議取消遵守義務違反、定款遵守義務違反というように、結果に着目して任務懈怠が認定される場合には、上記()内の説明と同様、任務懈怠の認定が過失を包含することにはなりませんから、任務懈怠が認められる一方で帰責事由が否定される余地があります。

②の場合は、当然、帰責事由も検討します。問題は、①の場合です(上記()内の場合を除きます)。①の場合には、善管注意義務違反による任務懈怠が認められた時点で、少なくとも過失があることも確定するため、帰責事由も当然に認められることになります。なので、帰責事由について別途認定する実益は乏しいです。帰責事由ありとの結論が決まっているからです。もっとも、あくまでも任務懈怠と帰責事由は別々の要件であり、善管注意義務違反による任務懈怠が認められる場合(上記()内の場合を除きます)には、任務懈怠の認定が帰責事由の認定を包含しているだけですから、帰責事由が要件から除外されるわけではありません(民法で、手段債務の債務不履行に基づく損害賠償請求を検討する際、手段債務違反があれば当然に免責事由も否定されることになるにもかかわらず、手段債務違反とは別に、一応、免責事由がないことも認定するのと同じです。債務不履行が任務懈怠、免責事由が帰責事由に対応します)。なので、「善管注意義務違反があるため、少なくとも過失があるといえるから、帰責事由も認められる」という感じで構いわないので、帰責事由も認定するのが理想的な答案です。もっとも、それはあくまでも理想論にすぎず、①の場合(上記()内の場合を除きます)に帰責事由に振られている点数はごく僅かですから、時間がなければ飛ばしても構いません。

2020年10月27日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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