加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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「過剰防衛としての一体性」の議論の射程

秒速・過去問攻略講座2021 刑法 総論56頁[論点1]「量的過剰の場合における過剰防衛としての一体性」について、質問がございます。
ここでは、「『急迫不正の侵害』の終了後に行われた量的過剰であるという場合において‥」との問題提起がなされています。加藤先生の講義中、この問題提起における「侵害の終了後」という部分と、論証集の判断要素の一つである「②侵害の継続性」が矛盾するのではないかというお話があり、どのような場合にこの論点を論じるべきなのかについて少し混乱してしまいました。
第一行為には正当防衛が成立し、第二行為には(侵害の終了後の場合に限らず)暴行等の犯罪が成立する事案であれば、この論点を検討するという理解で大丈夫でしょうか。
その際、問題提起において、「『急迫不正の侵害』の終了後に行われた」という部分を抜かして、「全体的考察により一個の過剰防衛とみることができないか」のように示した上で、⑴侵害の終了後の事案(判例1)では②の要素を欠くとして全体的考察を否定し、⑵防衛行為の相当性の欠如を理由に第二行為に暴行罪が成立するとされた事案(判例2)では全体的考察を肯定するという区別の仕方でも大丈夫でしょうか。
自分自身理解が曖昧であるため質問が分かり にくくなってしまい大変恐縮ですが、どうぞ宜しくお願い致します。

「過剰防衛としての一体性」という議論は、元々は、侵害終了後に更に反撃行為に及んだという量的過剰の事案において、第二行為を純然たる犯罪行為としないで、第一行為と第二行為を一連の行為として評価することで一個の過剰防衛の成立を認めることができるかという形で登場したものです。過剰防衛の一体性を肯定した最一小判昭和34・2・5も、第一暴行(正当防衛の成立要件充足)⇒侵害終了⇒防衛の意思に基づく第二暴行(正当防衛の成立要件のうち「急迫不正の侵害」不充足)という事案に関するものです(佐伯仁志「刑法総論の考え方・楽しみ方」初版167頁)。

もっとも、拘置所暴行事件・最一小決平成21・2・24(平成21年度「重要判例解説」2)は、第一暴行(正当防衛の成立要件充足)⇒侵害継続⇒第二暴行(正当防衛のうち相当性を欠く)という事案において、全体的に考察して一個の過剰防衛の成立を肯定することで、「過剰防衛としての一体性」という議論の射程を、量的過剰の事案から、質的過剰の事案にまで拡大しています。

したがって、拘置所暴行事件・最一小決平成21・2・24のように第一行為・第二行為間における侵害の継続性がある事案であれば、問題提起では「『急迫不正の侵害』の終了後に行われた」という部分を抜かして、「全体的考察により一個の過剰防衛とみることができないか」と書くことになります。これに対し、灰皿投げつけ事件・最一小決平成20・6・25(「刑法判例百選Ⅰ」事件27)のように第一行為・第二行為間における侵害の継続性がない事案であれば、問題提起では「第二行為が『急迫不正の侵害』の終了後に行われた場合であっても、全体的考察により一個の過剰防衛とみることができないか」と書くことになります。なお、いずれの場合でも、考慮要素は①~③です。

疑問に感じるのは、侵害の継続性を欠く灰皿投げつけ事件のケースだと、どうせ②侵害の継続性がないと判断されることで、過剰防衛の一体性が否定されるのだから、当てはめをする前に結論が出るのではないか、という点です。しかし、①~③はあくまでも考慮要素にすぎませんから、②を欠いたとしても、①時間的場所的近接性が強く、③防衛の意思の連続性もあるのであれば、「防衛行為としての一体性が認められる」(これが上位規範です)のであれば、過剰防衛の一体性が認められます(もちろん、③を欠く場合には、①・②の程度に関わらず、過剰防衛の一体性を認めることはできないと思いますが)。例えば、高橋則夫「刑法総論」第4版305頁でも、灰皿投げつけ事件と拘置所暴行事件「では、侵害の継続性という点のみならず、意思の一貫性(防衛の意思の存否)という点が、行為の分断か結合かという判断において重要な基準となっているように思われる」とありますし、②を欠いても過剰防衛の一体性が認められる余地があると理解しないと②を欠く事案で過剰防衛の一体性を肯定した最一小判昭和34・2・5の説明がつきませんので。

参考にして頂ければと思います。

2020年10月19日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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