加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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単独犯の事例における犯行計画メモの使い方

伝聞法則についてご質問がございます。
単独犯の事例において、犯行計画メモを甲の犯人性を立証するために用いる場合、㋐メモの記載内容と犯行状況との非偶然的一致、㋑メモが甲により作成されたことが認められる場合には、①要証事実を「メモ作成当時の甲の意思計画(心理状態)」として伝聞法則の例外とすることに加えて、②要証事実を「メモの存在・記載自体」として非伝聞とすることもできると理解しております。(そもそもこの理解が間違いでしたらご指摘の程宜しくお願い致します)。
これに対して、甲の殺意を立証するために「○月○日 V殺害」などと記載された犯行計画メモを用いる場合には、②のように非伝聞と捉えることはできないのでしょうか。殺意を認定するには犯行計画メモを甲の供述書とみる必要があるために、①の方法でしか利用できないという理解でよろしいでしょうか。どうぞよろしくお願い申し上げます。

単独犯の事例における甲の犯人性を立証する場合

㋐メモの記載内容と犯行状況との非偶然的一致(メモと被告事件との結びつき)、㋑メモが甲により作成されたこと(メモと甲との結びつき)が認められる場合には、①メモ(証拠)⇒メモ作成当時の甲の意思計画(要証事実)⇒甲の犯人性(主要事実)、②メモ(証拠)⇒メモの存在・記載自体(要証事実)⇒甲の犯人性(主要事実)という2つの推認過程が、経験則に適う合理的なものとして許容されます。基本書等では㋐が推認過程の合理性の条件として説明されているのは②の推認過程ですが、私は、①の推認過程でも㋑だけでなく㋐も必要であると思います。なので、ここまでは、質問者様の理解が正しいです。

②の推認過程では、メモは非伝聞です。問題は、①です。現在の心理状態を要証事実とする場合に証拠能力を肯定する説明の仕方としては、(ⅰ)伝聞法則は証拠の価値と危険性の比較衡量を基礎に置いているという考えを前提として、現在の心理状態を要証事実とする場合には表現・叙述の正確性が問題になるため伝聞証拠の定義には一応該当するものの、知覚・記憶の正確性が問題にならないため通常の供述証拠に比べて誤謬が介在する危険性が小さいことと、最良の証拠であるが故の証拠価値の高さから、証拠価値が証拠の危険性を上回るとして、非伝聞証拠であるとする見解と(「法律学の争点シリーズ6 刑事訴訟法の争点」第3版184頁(大澤裕執筆)、酒巻匡「刑事訴訟法」初版534~536頁)、(ⅱ)伝聞証拠に当たるとしたうえで、不文の伝聞例外を解釈上認める見解(酒巻匡「刑事訴訟法」初版536頁)があります。

宇藤崇ほか「リーガルクエスト 刑事訴訟法」第3版382頁、古江賴隆「事例演習刑事訴訟法」第2版326頁及び酒巻匡「刑事訴訟法」初版534~536頁では(ⅰ)が通説であるとされ、川出敏裕「判例講座 刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕」初版では(ⅱ)が多数説であるとされています。過去の出題趣旨・採点実感を読む限り、司法試験委員会も(ⅰ)に立っていますから、①の場合に証拠能力を肯定する説明の仕方を(ⅱ)から(ⅰ)に修正しましょう。

 

単独犯の事例における甲の殺意を立証する場合

犯人性立証の場面における②の推認過程は、「甲は、犯行に関与しているからこそ、犯行状況と偶然とはいえないほど一致している記載内容のメモを作成することができた」という経験則を使って、「甲が作成し、犯行状況と偶然とはいえないほど一致している記載のメモが存在している」という間接事実から甲の犯人性を推認するというものです。これとパラレルに考えて、「甲は、殺意を有していたからこそ、犯行状況と偶然とはいえないほど一致している記載内容のメモを作成することができた」という経験則を観念し、「甲が作成し、犯行状況と偶然とはいえないほど一致している記載のメモが存在している」という間接事実から甲の殺意を推認することも可能なように思えます。

もっとも、上記②の推認過程は、メモ(証拠)⇒「甲が作成し、犯行状況と偶然とはいえないほど一致している記載のメモが存在している」こと(要証事実)⇒メモ作成時の甲の意思計画(間接事実)⇒甲の殺意(主要事実)となるため、メモ(証拠)⇒メモ作成時の甲の意思計画(要証事実)⇒甲の殺意(主要事実)という①の推認過程に「甲が作成し、犯行状況と偶然とはいえないほど一致している記載のメモが存在している」という間接事実を介在させてだけなので、①の推認過程を迂遠にしているだけです。

従って、①の推認過程に限られると考えます。

2020年10月13日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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