加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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「宴のあと」事件判決が示したプライバシー侵害の3要件の射程

憲法における、プライバシー権に対する制約について、質問がございます。
某予備校答練の模範解答では、プライバシー権に対する制約を認定する際に、「宴のあと」事件判決が提示した3要件(私事性、秘匿性、非公知性)が認められるとして「制約」を肯定していました。もっとも、この3要件は、私人対私人の事案における民事訴訟上でのプライバシー侵害の要件として示されたものであるため、私人対国家の事案におけるプライバシー権に対する「制約」の要件に流用することはできないのではないかと疑問に思いました。
加藤先生のお考えをお聞かせ頂ければと思います。

「宴のあと」事件判決(東京地判昭和39・9・28・百Ⅰ60)は、民事訴訟においてモデル小説の出版によるプライバシー侵害を理由とする損害賠償請求(民法709条)の可否が問題となった事案において、プライバシー権を「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」と理解した上で、その侵害要件として、私事性・秘匿性・非公知性という3要件を示しています(渡辺・宍戸ほか「憲法Ⅰ基本権」初版226~227頁、小山剛ほか「憲法上の権利の作法」第3版99~100頁)。

この3要件は、「モデル小説」による「情報の公開」による「伝統的なプライバシー権」侵害が「私人間で問題となった」事案における「不法行為に基づく損害賠償請求の要件」として示されたものですから、プライバシー侵害が問題となる事案全般にそのままの形で適用されるわけではありません。

例えば、性犯罪者継続監視法によるプライバシー侵害が問題となった事案(平成28年司法試験)では、対象となっているプライバシー情報が「位置情報」であるという点で私事性・秘匿性・非公知性という3要件による判断になじみませんし、プライバシー情報の公開ではなく収集が問題となっているという点でも上記3要件による判断になじみません。

このように、上記3要件の射程は限られますので、無理をして上記3要件を使うということは避けたほうが良いと思います。

①そのまま妥当する事案では「宴のあと」事件判決を引用した上で上記3要件に従って判断する、②部分的に妥当する事案では、「宴のあと」事件判決を引用した上で、事案類型の違いを踏まえて上記3要件がこういった形に修正されて適用されることになるということを説明し、修正後の要件に従って判断する、③部分的にも妥当する余地がない事案(性犯罪者継続監視法の事案など)では、そもそも「宴のあと」事件判決に言及しない、という整理になると思います。

2020年10月05日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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