加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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雑誌編集長甲がある殺人事件について「捜査関係者は『Aが犯人であると確信を持っている』と語っている」旨の記事を掲載した事案における、「事実を摘示」や真実性の証明の対象となる事実

刑法の名誉毀損罪についての質問です。
例えば、雑誌編集長甲が、ある殺人事件について「捜査関係者は『Aが犯人であると確信を持っている』と語っている」旨の記事を掲載したとします(想定しているのは、井田良ほか「刑法事例演習教材」第2版の設問19です)。
井田良ほか「刑法事例演習教材」第2版の解説によると、この事例において、刑法230条の2第1項の真実性が問題となるのは、「捜査関係者が「Aが犯人であると確信を持っている」と語った」ことではなく、捜査関係者の発言の内容を構成している事実である「Aが犯人である」ことです。
そうすると、刑法230条1項でいう「事実を摘示」における「事実」についても、「Aが犯人である」ことを対象として判断することになるのでしょうか。

刑法230条1項でいう「事実を摘示」における「事実」についても、「Aが犯人である」ことを対象として判断することになると考えます。理由は3つです。

1つ目は、名誉毀損罪の構成要件要素について定めた刑法230条1項における「事実を摘示」でいう「事実」と、名誉毀損罪の違法性阻却事由について定めた刑法230条の2における「事実の真否」でいう「事実」が異なる事実を対象とするということは、不自然であるというか、不整合であるということです。

2つ目は、刑法230条の2における「公共の利害に関する事実」と刑法230条1項における「事実を摘示」でいう「事実」とは同じ事実を対象とするものであるため、仮に刑法230条の2における「事実の真否」でいう「事実」が「Aが犯人である」ことを対象とする一方で、刑法230条1項における「事実を摘示」でいう「事実」が「捜査関係者が「Aが犯人であると確信を持っている」と語った」ことを対象とすると理解すると、刑法230条の2における「公然の利害に関する事実」でいう「事実」と刑法230条の2における「事実の真否を判断し」でいう「事実」とが異なる事実を対象とすることになり、これも不整合である、ということです。

3つ目は、受け手の捉え方です。「捜査関係者は『Aが犯人であると確信を持っている』と語っている」旨の記事を読んだ人は、「捜査関係者は『Aが犯人であると確信を持っている』と語っている」ということは、Aが犯人なのではないかと考えることになります。このように、Aは、Aが犯人であると不特定又は多数人に認識されることにより、その社会的評価が低下し得るわけです。このことからも、刑法230条1項における「事実を摘示」でいう「事実」が「Aが犯人である」ことを対象とすると考えることになります。

2020年10月03日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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