加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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司法試験・予備試験で求められている法的三段論法に従った答案

司法試験・予備試験で求められている法的三段論法に従った答案とは、どういった形式の答案を意味するのでしょうか。

例えば、刑法で横領罪(刑法252条1項)の成否が問題となっている場合は、①「甲が~した行為について、横領罪(刑法252条1項)が成立するか」と問題提起をした後、②「横領罪の構成要件要素は、㋐客体が「他人の物」、㋑客体が「自己の占有する・・物」であること、㋒「占有」が所有者その他の権限者との委託信任関係に基づくこと、㋓「横領」、及び⑤横領の故意と不法領得の意思である」として構成要件要素を書き、③㋐~㋔に関する規範定立⇒事実の摘示・評価、④最後に横領罪の成否に関する結論を示す、という流れで検討することになると思います。

まず、①では、「甲が~した行為について、横領罪(刑法252条1項)が成立するか」と書く前に、横領罪の構成要件要素を示す必要はないのでしょうか。①では、横領罪の構成要件要素を前提として、横領罪の成否を検討する行為をピックアップしているので、先に横領罪の構成要件要素を示しておかないと法的三段論法に従った答案としては評価されないのではないかとも思えます。

次に、②では、㋐~㋔の全部について先に規範定立をした上で、㋐~㋔ごとに事実の摘示・評価による当てはめに入るべきでしょうか。それとも、㋐~㋔ごとに1つひとつ、規範定立⇒事実の摘示・評価という流れで検討すればいいのでしょうか。

法的三段論法とは、本来は、「法規の適用において用いられる三段論法」を意味します。例えば、甲について横領罪(刑法252条1項)の成否が問題となっている場面では、大前提:「自己の占有する他人の物を横領した者」には横領罪が成立する、小前提:甲の行為等の具体的事実、結論:甲についての横領罪(刑法252条1項)の成否、となります。そこで、甲が「自己の占有する他人の物を横領した者」に該当するかを検討することになり、その際、「他人の物」、「自己の占有」及び「横領」について規範を定立した上で、事実の摘示・評価によりその該当性について一つひとつ検討することになります。下線部分までやって初めて、法的三段論法に従った答案として評価されます。

確かに、大前提・小前提・結論について、大前提:「自己の占有する他人の物を横領した者」には横領罪が成立する、小前提:甲の行為等の具体的事実、結論:甲についての横領罪(刑法252条1項)の成否と整理していることからすると、「自己の占有」、「他人の物」及び「横領」について規範を定立しなくても、法的三段論法に従った答案になるように思えます。しかし、司法試験・予備試験(さらには、法律科目の論文試験全般)では、「自己の占有」、「他人の物」及び「横領」といった法律要件について、規範を定立した上で、事実を摘示・評価して、その充足性を検討することが、法的三段論法に従った答案であると理解されています。

なので、便宜上、(1)大前提:「自己の占有する他人の物を横領した者」には横領罪が成立する、小前提:甲の行為等の具体的事実、結論:甲についての横領罪(刑法252条1項)の成否、という「大きな法的三段論法」があり、(2)この「大きな法的三段論法」の中にさらに、大前提:「自己の占有」、「他人の物」及び「横領」の規範、小前提:甲の行為等の具体的事実、結論:「自己の占有」、「他人の物」及び「横領」への該当性、という「小さな法的三段論法」がある、と整理すると良いと思います。

以上を前提に、ご質問について回答いたします。

まず、①では、「甲が~した行為について、横領罪(刑法252条1項)が成立するか」と書く前に、横領罪の構成要件要素を示す必要はありませんし、むしろ示すべきではありません。再現答案集で超上位答案の書き方を確認してみましょう。

次に、②は、不要です。論文試験で法的三段論法における「大前提」として示すことが要求されているのは、「小さな法的三段論法」における法律要件ごとの意味としての規範だけです。「大きな法的三段論法」における大前提である法律要件そのものは、受験生が試験中に参照することができる六法全書に明記されていることからしても、わざわざ答案に列挙することは要求されていません。

そして、②では、「自己の占有」の規範定立⇒事実の摘示・評価、「他人の財物」の規範定立⇒事実の摘示・評価、「横領」の規範定立⇒事実の摘示・評価、というように、法律要件ごと規範定立⇒当てはめを書くのが望ましいです。先に規範や論証を全部まとめて書いてから、要件ごとの当てはめに入るという構成だと、かなり読みにくい答案になると思います。

2020年10月15日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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