加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

司法試験論文の過去問分析をする際には、超上位答案と1000番付近の答案のどちらを参考にするべきか

現在、ロースクールの2年生です。自主ゼミで司法試験過去問を解き、分析する予定です。加藤先生なら、辰已法律研究所の「論文合格答案再現集」に掲載されているような超上位答案を参考にしますか。個人的には、そんな水準の高い答案をいきなり読むよりも、1000番付近の答案とギリギリ不合格の答案を見比べて、どの論点を落としてはいけないのかを把握したいのですが、早めに超上位答案を見るべきでしょうか。

自分の実力、可処分時間及び目標(合格順位)を踏まえて、「自分が目指すべき現実的な合格答案像」を把握するという姿勢は、方向性として正しいです。もっとも、仮に「自分が目指すべき現実的な合格答案像」の水準が1000番くらいであったとしても、1000番付近の答案と1500番~2000番付近の答案を比較しているだけでは、「自分が目指すべき現実的な合格答案像」を正しく把握することができません。下記で説明する通り、加点・失点に関する考え方が”論点の抽出及び論証という表面的な次元での”正解思考に偏ることにより、間違った合格答案像をイメージしてしまい、その結果、勉強の方向性までも間違えてしまう危険があります。

司法試験論文における点差の主たる要因としては、①典型論点を拾ったか、②典型論点でそこそこ正しい論証(特に、規範)を書くことができたか、③「書き方」が重視される論点における「書き方」、④論点を落として正解筋を外した場合でも採点上加点(救済)される論述をすることができたか、⑤現場思考問題でどう書いたか、⑥答案全体から窺われる思考力・文章力などを挙げることができます。

①・②も大事ではあるものの、①・②に偏った答案分析をすると、”論点の抽出及び論証という表面的な次元での”正解思考に陥ってしまい、自分が意識的にやろうとする点の取り方が①・②に限定されてしまいます。大部分の受験生が①・②を満たしてくる典型論点(例えば、刑事訴訟法で「強制処分該当性」と「任意捜査の限界」)では③・⑥で差がつきますし、相当数の受験生が論点を落とす場面では④で差がつきますし、現場思考問題では⑤・⑥で差がつきます。そのため、③~⑥も重要であり、問題によっては①・②よりも③~⑥が重要になります。

このように、司法試験論文では、「何を」書いたかだけでなく、「どう書いた」のかで差がつきます。読解力、思考力、応用力、文章力、事案解決の姿勢、基本事項の深い理解といった、底力を試すために、敢えて、そのような問題になっています。

例えば、刑事訴訟法で「強制処分該当性」と「任意捜査の限界」が出題された場合、大部分の受験生が、「強制処分該当性」と「任意捜査の限界」の論点を拾い、判例・学説を踏まえたそれなりに正しい論証を書き、問題文の事実を使って当てはめをします。論点を拾い、法的三段論法という論述形式も守り、判例・学説を踏まえた論証を書いて当てはめをする、という同じ構成の答案どうしで、数十点も差がつきます。それは、「強制処分該当性」を強制処分法定主義や令状主義とどのように関連付けて問題にするのか、「強制処分該当性」の当てはめで規範の正しい意味と関連する判例を踏まえて論じることができているか、「任意捜査の限界」では規範の意味を踏まえて正しい流れで論じることができているか、事実の摘示と評価を区別することができているか、個々の事実ごとの評価だけでなく事実群としての評価まで書いているかといった、「書き方」が非常に重視されているからです。大部分の受験生が拾うことができる論点では、このように、「書き方」で圧倒的な差がつきます。この分野・論点ごとの「書き方」は、1000番~2000番付近の答案から学ぶことは出来ません。1桁~2桁前半の超上位答案から学ぶべきことです。なお、1桁~2桁前半の超上位答案から正しい書き方を学んだ後であれば、ダメは書き方を学ぶ上では1500番以下の答案も役に立ちますし、現実的な書き方(理想的な書き方をどこまで崩すか)を探る上では500番付近の答案も役に立ちます。いきなり1000番付近の答案と1500番~2000番付近の答案を比較すると、「書き方」で差がついているという視点すら持つことができないでしょうし、仮にこうした視点を持っていたとしても「正しい書き方」を知らないため答案を正確に比較することができず、加点・失点のポイントを見誤る危険性が高いです(例えば、論証が短いから点数が低い、この見解で書いていないから点数が低い等)。

相当数の受験生が論点を落とす場面や現場思考問題でも、「どう書いたか」で差がつきます。こんなに正解筋が不明瞭な問題なのですから、出題者側が”正解筋”として想定している筋ドンピシャで書ける答案は、ごく僅かです。なので、大部分の受験生の間では、出題者側が”正解筋”として想定している筋で書けたかではなく、採点上加点(救済)される論述をするための底力がどれだけあるのかで差がつくことになります。ここでいう底力とは、「問題文のヒントを大きな枠組み・条文・規範の適用を通じて法的に構成し、文章化して答案に反映する」ために必要とされる、読解力、思考力、応用力、文章力、事案解決の姿勢、基本事項の深い理解です。要するに、こうした難しい問題では、出題者側が”正解筋”として想定している筋に乗れたかではなく、「読解力、思考力、応用力、文章力、事案解決の姿勢、基本事項の深い理解」が答案にちゃんと現れているかが大事なわけです。こうしたことを学ぶためにも、初めは超上位答案を参考にするべきです。超上位答案から、その背後にある、思考・読解・応用のコツ、書き方のコツ、事案解決の姿勢、基本事項の理解の水準等を把握しましょう。500番~1000番付近の答案や1500番~2000番付近の答案を読んで、自分が目指すべき答案の水準を現実的なところまで下げようとするのは、その後です。

参考にして頂けますと幸いです。

2020年10月01日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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