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動産の二重売買において、第一買主が占有改定による引渡しを先に受けていた場合における、買主相互の優劣関係

BがAに動産を売却し、占有改定によりAに引き渡した後、さらにCに売却し、現実の引渡しによりCに引き渡したという事案における、AとCの優劣関係について質問がございます。
この場合、AとCの優劣は対抗関係として178条により処理されることにより、Aが保護されるのでしょうか。それとも、BC間の売買契約に先立ちAが引渡しによる対抗要件を具備したことにより、BC間の売買契約の時点では既にBは無権利者になっているとして、BC間の売買契約は他人物売買となり、対抗関係は問題とならず、Cは即時取得(民法192条)が成立しない限り動産所有権を取得することができない、となるのでしょうか。

178条は、公示の原則を定めた規定です。公示の原則は、有るものを有るものとして扱ってもらえるかの問題です。つまり、実際に存在する権利変動(等)を、第三者との関係でも存在するものとして扱ってもらうためには、公示する必要があるかという問題です。したがって、公示の要否・有無を問題にする前提として、権利変動(等)の存在が必要です。仮に、公示の有無・要否を問題とするべき権利変動(等)が存在しないのであれば、「引渡し」による公示の有無・要否に関する178条は問題になりません。

上記事例では、BC間の売買契約に先立ちAが引渡しによる対抗要件を具備したことにより、BC間の売買契約の時点では既にBは無権利者になっています。そのため、BC間の売買契約は他人物売買ですから、AからCに対する動産所有権の移転という物権変動(ここでは、不完全物権変動)は存在しないことになります。したがって、AからCに対する動産所有権の移転という物権変動についての「引渡し」による公示の有無・要否を論じるまでもなく、Cは動産所有権を取得することができないという原則的結論が導かれます。

もっとも、Cが即時取得(192条)の成立要件を満たすのであれば、例外的に、Cが動産所有権を原始取得することになり、その反射的結果としてAが動産所有権を喪失します。この場合、二重譲渡という扱いにはなりませんから、178条の対抗問題は生じません。Cは、Aに遅れて動産の引渡しを受けているにもかかわらず、Aに勝つことができます。

以上は、要件事実論を無視した説明です。以下では、要件事実論に従った説明をいたします。

AはCに対して、Bもと所有、AB間売買、及びC現在占有を請求原因事実として主張して、動産所有権に基づく返還請求権を行使して、動産の引渡しを求めることになります。これに対し、Cが、㋐対抗要件の抗弁(抗弁事実は、BC売買+権利主張)や㋑対抗要件具備による所有権喪失の抗弁(抗弁事実は、BC売買+Cへの引渡し)を主張することが考えられます。Aは、㋐対抗要件の抗弁に対しては、対抗要件具備の再抗弁(再抗弁事実は、Aへの引渡し)を主張することができ、㋑対抗要件具備による所有権喪失の抗弁に対しては、先立つ対抗要件具備の再抗弁(再抗弁事実は、AがCへの引渡しに先立ち引渡しを受けたこと)を主張することができます(改訂「紛争類型別の要件事実」117~119頁)。Cは、㋐に対する対抗要件具備の再抗弁に対して、先立つ対抗要件具備の再々抗弁を主張することは出来ません(厳密には「主張しても、立証ができないため、認めらない」ということです)。㋑の対抗要件具備による所有権喪失の再抗弁に対する再々抗弁なるのはそもそもありません。したがって、Cは、㋐対抗要件の抗弁や㋑対抗要件具備による所有権喪失の抗弁では、これに対するAの再抗弁が認められることになるため、Aに勝てないわけです。そこで、Cは、㋐・㋑とは異なる抗弁として、㋒即時取得による所有権喪失の抗弁を主張することになるわけです。

2020年09月29日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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