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前訴で敗訴した前訴被告が前訴確定判決の不正取得を理由として不法行為に基づく損害賠償を求めて後訴を提起する場合 その2

確定判決の不正取得について質問させてください。
予備校模試でこの問題が出題されたのですが、模試の解説では、①前訴確定判決の既判力が先決関係を理由として損害賠償請求の後訴に作用するから、原則として前訴被告が前訴確定判の不正取得を主張することは前訴確定判決の既判力に抵触するため許されないとしつつ、②例外的に、最高裁平成10年判決でいう「当事者の一方の行為が著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情」がある場合には、上記の主張も既判力に抵触せず許される、という構成でした。しかし、これは判例の理解として一般的ではないと思います。勅使川原和彦「読解民事訴訟法」初版143頁・166~168頁でも、先決関係でも矛盾関係でもないとして既判力の作用を否定した上で、最高裁平成10年判決について「不法行為訴訟の要件のかさ上げ」をしたものであると説明されています。

前訴で敗訴した前訴被告が前訴確定判決の不正取得を理由として不法行為に基づく損害賠償を求めて後訴を提起する場合について、後訴を制限する方法としては、①前訴確定判決の既判力が後訴に作用するとしたうえで、後訴における前訴被告の主張のうち前訴確定判決の主文中の内容と矛盾するものを排斥することで、請求を棄却するというものと、②前訴確定判決の既判力が後訴に作用することを否定しつつ、請求認容のために必要とされる請求原因として、本来的要件(故意過失、権利利益侵害、損害、因果関係)に加え「特別の事情」も要求する(請求原因を加重する)というものがあります。

勅使川原和彦「読解民事訴訟法」初版143頁・166~168頁では、「確定判決・・の成立過程における相手方の不法行為を理由として、確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求をすることは、確定判決の既判力による法的安定を著しく害する結果となるから、原則として許されるべきではなく、当事者の一方の行為が著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情がある場合に限って、許される」とした最一小判平成10・9・10・百39の立場について、②で理解しています。

前訴被告が前訴の訴訟物である給付請求権の不存在自体を後訴の請求原因として構成しているため先決関係を認めることができるだとか、会話文で既判力の作用を認める方向で論じるように指示があるなどの事情がない限り、①を否定した上で、②を論じることになると思います。

なお、田中豊「論点精解 民事訴訟法」改訂増補版44頁では、最高裁10年判決について、予備校模試の解説に近い構成で理解しているように思えます。同書44頁は、最高裁平成10年判決で問題となった後訴の請求のうち、前訴確定判決に従い債務の弁済として支払った28万円の賠償を求める請求について、㋐「請求原因事実そのものから前訴確定判決と実質的に矛盾する請求であること(すなわち、前訴判決で既判力に抵触すること)が明らかになっている」とした上で、㋑「前訴確定判決の存在が請求原因事実の一部となっていることから、そのままでは主張自体失当になってしまうため、「特段の事情」ありを請求原因事実に「せり上げて」主張しなければならなくなる」としています。㋐は、おそらく、既判力が作用する場面のうち矛盾関係について、「訴訟物同士」を比較するのではなく、「前訴確定判決の判断内容と後訴の訴訟物」を比較する立場を前提として(勅使川原和彦「読解民事訴訟法」初版146頁参照)、「実質的に矛盾」することをもって矛盾関係を認め、既判力の作用を肯定するものであると思われます。㋑は、既判力が作用することを前提として、既判力が作用する後訴において、請求原因事実の主張が既判力に抵触するものではないことを基礎づけるものとして、本来的要件(故意過失、権利利益侵害、損害、因果関係)に加え「特別の事情」も予め主張する必要がある、と考えるものだと思われます。この構成は、「不法行為訴訟の要件のかさ上げ」という点では勅使川原和彦「読解民事訴訟法」初版143頁・166~168頁の立場と共通しますが、既判力が作用することを前提として既判力の消極的作用による遮断を掻い潜るためのかさ上げ要件として「特段の事情」を要求している点で、勅使川原和彦「読解民事訴訟法」初版143頁・166~168頁の立場とは異なります。会話文等で矛盾関係を理由として既判力の作用を肯定する方向で論じることが求められる可能性もありますから、一応、田中豊「論点精解 民事訴訟法」改訂増補版44頁の立場もおさえておきましょう。

2020年09月26日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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