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平成30年司法試験設問2 本件領収書を詐欺の故意を立証するための証拠として使用することの可否

平成30年司法試験設問2の出題趣旨・採点実感では、甲のVに対する詐欺を公訴事実とする甲の被告事件において、本件領収書の立証上の使用方法として、①本件領収書の記載という間接事実から記載内容通りの現金授受があったという主要事実を推認するという推認過程を前提として、要証事実を本件領収書の記載という間接事実と捉える方法(非伝聞証拠)と、②本件領収書の記載の内容たる事実を要証事実と捉える方法(伝聞証拠)の2つが想定されています。もっとも、③本件領収書から「本件領収書の交付時に、甲がVから必要のない屋根裏工事代金として100万円を騙し取るという心理状態であったこと」を証明し、この間接事実から甲の詐欺の故意を推認するという推認過程を前提として、本件領収書の要証事実を「 」の甲の心理状態と捉えることで、本件領収書を非伝聞証拠であると説明することもできると思ったのですが、如何でしょうか。

確かに、理論上は、本件領収書(間接証拠)⇒甲の本件領収書交付時の心理状態(間接事実)⇒詐欺の故意(主要事実)という推認過程も、経験則に適った合理的なものとして成り立ち得るものです。

しかし、要証事実を設定する際に前提とする推認過程(当該証拠から主要事実を証明するための推論の過程)は、原則として、当該証拠の取調べ請求をした当事者が示した立証趣旨に従って考えることになります。これが、原則ルールです(最二小決平成17・9・27・百83)。「立証趣旨を前提とした推認過程ではおよそ証拠として無意味になる場合には立証趣旨に従わないで推認過程を組み直し、組み直した推認過程を前提として要証事実を設定することができる」という例外ルールが適用されない限り、上記原則ルールに従って推認過程を組み、これを前提として要証事実を設定することになります。

本問では、検察官は、本件領収書について、「甲が平成30年1月10日にVから屋根裏工事代金として100万円を受け取ったこと」を立証趣旨として取調べ請求しています。そのため、原則ルールに従うと、本件領収書を甲V間の交付行為を証明するための証拠として使うことを前提として推認過程を組むことになり、それ以外の主要事実を証明するための証拠として使うことを前提として推認過程を組むことは許されません。本事例では、本件領収書を交付行為を証明するための証拠として使うことを前提として推認過程としては、出題趣旨・採点実感でも言及されている通り、①本件領収書(証拠)⇒本件領収書の記載(間接事実)⇒甲V間の交付行為(主要事実)、②本件領収書(証拠)⇒甲V間の交付行為(主要事実)という2パターンあり、いずれも経験則に適う合理的なものとして許容されるため、例外ルールは適用されません。したがって、原則ルールに従い、本件領収書を甲V間の交付行為を証明するための証拠として使うことを前提として、①・②という推認過程を組むことになり、原則ルールから逸脱する、③本件領収書(間接証拠)⇒甲の本件領収書交付時の心理状態(間接事実)⇒詐欺の故意(主要事実)という推認過程を組むことは許されません。

2020年09月15日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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