加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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平成30年司法試験設問2 Vが作成した供述書には甲の発言も含まれているにもかかわらず、V作成の供述書が再伝聞に当たらないのは、どうしてか

平成30年司法試験設問2の採点実感では、甲のVに対する詐欺を公訴事実とする甲の被告事件において、検察官により「甲が、平成30年1月10日、Vに対し、本件メモに記載された内容の文言を申し向けたこと」を立証趣旨として証拠調べの請求がなされた本件メモ(被害者Vが犯人が言った内容を記載したもの)について、伝聞証拠であり、再伝聞証拠ではないとされています。Vが作成した本件メモ記載のVの供述の中には甲の発言も含まれているにもかかわらず、再伝聞証拠ではないとされているのは、どうしてでしょうか。

平成30年司法試験設問2の採点実感では、本件メモについて、「「内容の真実性が問題となる」という表現の意味をなお正確に理解できていないため、本件メモの全体を非伝聞証拠とした答案も少数ながら見られた。本件メモによる立証の対象には、甲が発言したとおりにV宅の耐震金具に不具合があることなど(Vが記載した甲の発言の内容の真実性)は含まれていないが、そのことは、Vの供述を記載したものとしての本件メモの伝聞証拠該当性を否定するものではない。他方、甲の発言の真実性が問題となるとして、再伝聞証拠とする答案も散見されたが、これも、「内容の真実性が問題となる」との表現の意味及び本件メモによる立証の対象を正しく理解したものとはいえない。」(下線は私が付したもの)とされています。

本件メモは、甲のVに対する「欺」罔行為(最終的な立証命題としての主要事実)を立証するために、「甲がVに対して本件メモに記載された内容通りの発言をしたこと」を要証事実(直接の立証事項)として証明するための証拠として使用されるものです。つまり、①「甲がVに対して本件メモに記載された内容通りの発言をした」という事実(これを本件メモから直接に立証する)と、②①における甲の発言の内容が客観的事実に反するという事実(他の証拠から直接に立証する)さえ認められれば、甲の①の発言が欺罔行為に当たる(主要事実)を推認することができるため、このような推認過程を前提とした場合における本件メモの要証事実(直接の立証事項)を「甲がVに対して本件メモに記載された内容通りの発言をしたこと」と設定することになるわけです。

本件メモによって①を証明するためには、本当に甲がVに対してそのような内容の発言をしたのかという意味で、Vの知覚・記憶・表現・叙述の正確性が問題となります。しかし、甲の知覚・記憶・表現・叙述の正確性は問題になりません。甲の発言は甲の知覚・記憶を経るものではありませんし、甲は冗談でそのような発言をしただけである(表現の誤り)、言い間違えをしただけである(叙述の誤り)という可能性も、本件メモによる①の証明の妨げにならないからです。甲は冗談でそのような発言をしただけである(表現の誤り)、言い間違えをしただけである(叙述の誤り)という可能性は、詐欺の故意という、本件メモの最終的な」立証命題である欺罔行為とは別の主要事実との関係で問題になるにとどまります。

したがって、本件メモは、要証事実との関係でVの供述内容の真実性が問題になる一方で、甲の供述内容の真実性までは問題にならないとして、再伝聞証拠ではなく伝聞証拠に該当するにとどまります。

2020年09月15日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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