加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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プレテスト・平成19年司法試験 預かった財物の返還を免れるために嘘をついたことについて委託物横領罪が成立するか

平成19年司法試験では、BからAに対する120万円の損害賠償請求権について取立てを依頼された甲が、恐喝によりAからBに対する賠償金として20万円を受け取り、それをBに手渡した後、さらに、恐喝によりAからBに対する賠償金として100万円を受け取ったにもかかわらず、Bに対して「残り100万円のうち50万円しか受け取れなかった」と嘘を言って現金50万円のみを手渡し、残金50万円を自己のものとして費消したことについて、Bに対する委託物横領罪が成立することになると思います。

他方で、プレテストでは、丙が経営する居酒屋Tの店長である甲が、乙との間で「泥棒が入ったようにして店の売上金を領得する、領得した売上金は甲乙で山分けにする」ということについて合意した上で、店のダイヤル式の金庫から2月9日の売上金である現金合計18万円を取り出した後、取り分をごまかすために、乙に対して「今日の売上げは10万円だったので、山分けして5万円ずつだ」と嘘を言い、乙にそのように信じ込ませることで、13万円を自分のものにしています。売上金18万円のうち、甲の取り分である9万円を超える4万円については、甲が費消していないため、委託物横領罪が成立しないということになるのでしょうか。

大塚裕史「基本刑法Ⅱ」第2版282頁では、「預かった物の返還を求められた際にそれを拒絶したりすれば、それだけで既遂に達する」とされていますから、委託信任関係に基づき「他人の物」を「占有」する者が、当該「他人」からの返還要求に対して嘘をつくなどしてこれを拒絶した場合には、それだけで「横領」に達するとして委託物横領罪が成立します。平成19年司法試験の事例において、甲が費消した残金50万円は、甲がBとの委託信任関係に基づき「占有する」「他人」B「の物」ですから、委託物横領罪の客体に当たります。そうすると、甲がBに対して「残り100万円のうち50万円しか受け取れなかった」と嘘を言った時点で「横領」が既遂に達するとして委託物横領罪の成立を認める余地があります。もっとも、その後、費消までしているわけですから、わざわざ嘘を言った時点で「横領」が既遂に達するという論点に言及する必要はないと思います。なので、私の答案では、費消した行為について委託物横領罪の成立を認めています。

これに対し、プレテストの事案では、売上金4万円(甲が自分のものにした売上金18万円のうち、甲の取り分である9万円を超える4万円)は、甲が無権限者である乙との間における委託信任関係に基づいて占有する、丙所有の物にすぎません。委託物横領罪は所有権を第一次的な保護法益とするものであり、委託信任関係(これは、副次的な保護法益にすぎない)をそれ自体として保護しようとするものではありません(西田典之「刑法各論」262~263頁、高橋則夫「刑法各論」374~375頁参照)から、甲乙間の委託信任関係の要保護性は否定されます。したがって、売上金4万円の「占有」が委託信任関係に基づくという要件が否定されるため、甲の行為には委託物横領罪が成立しないことになります。なお、プレテストでは、ここまで書くことは求められていないと思います。

2020年09月11日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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