加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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平成29年司法試験設問1 AがYの代理人としてXと売買契約を締結したという事実は、主要事実ではなく、請求原因事実に対する否認の理由たる間接事実ではないか

平成29年司法試験設問1では、XがYを被告として、Yから本件絵画の贈与を受けたとして、贈与契約に基づく本件絵画の引き渡しを求めるために訴えを提起したところ、Xが売買契約に基づく本件絵画の引渡請求権を追加するための訴えの追加的変更をしていない状況下で、裁判所がXYのいずれからも主張されていない「AがYの代理人としてXと売買契約を締結したという事実」を判決の基礎にすることの可否が問われています。旧訴訟物理論を前提にすると、本件訴えにおける訴訟物は贈与契約に基づく本件絵画の引渡請求権であり、その請求原因事実はXY間における本件絵画を目的物とする贈与契約の締結ですから、「AがYの代理人としてXと売買契約を締結したという事実」は請求原因事実に対する否認の理由たる消極的間接事実であり、主要事実に当たらないのではないでしょうか。にもかかわらず、平成29年司法試験設問1に関する出題趣旨・採点実感では、「AがYの代理人としてXと売買契約を締結したという事実」が主要事実に当たることを前提としているため、疑問を抱きました。

ご指摘の通りです。確かに、売買契約に基づく本件絵画の引渡請求権という訴訟物との関係では、「AがYの代理人としてXと売買契約を締結したという事実」は、有権代理による請求原因事実(AX間の売買契約の締結、Aの顕名、YからAに対する先立つ代理権授与)に直接該当する事実として主要事実に該当することになります。

しかし、設問1では、Xが売買契約に基づく本件絵画の引渡請求権を追加するための訴えの追加的変更をしていません。そうすると、旧訴訟物理論を前提にすると、本件訴えにおける訴訟物は贈与契約に基づく本件絵画の引渡請求権だけとなります。贈与契約に基づく本件絵画の引渡し請求権という訴訟物における請求原因事実は、「XY間における本件絵画を目的物とする贈与契約の締結」です。そして、「AがYの代理人としてXと売買契約を締結したという事実」は、本件絵画に関する契約が贈与ではなく売買であることも意味しますから、「XY間における本件絵画を目的物とする贈与契約の締結」に対する否認の理由たる消極的間接事実に位置づけられることになります。

にもかかわらず、平成29年司法試験設問1に関する出題趣旨・採点実感では、「AがYの代理人としてXと売買契約を締結したという事実」が主要事実に当たることを前提としています。おそらく、この出題趣旨・採点実感では、設問1の段階で、Aが訴えの変更により売買契約に基づく本件絵画の引渡請求権を訴訟物として追加したということを前提にしているのだと思います。しかし、設問1の事実関係を前提にすると、Aによる訴えの追加的変更があったと認めることはできませんし、そのような認定は、設問2の段階でAによる訴えの追加的変更の要否(さらには、有無)が問われていることと整合しません。そのため、設問1には出題不備があるのではないかと考えております。過去に、平成23年司法試験刑事訴訟法設問1において、問題文で現行犯逮捕の主体をQではなくPであると書き間違えていたという事案もありましたので、あり得ると思います(同年6月6日の公表では、「逮捕者が万引きの現認者とは別人であるのか否かが読みにくい不適切な設問となってしまいました」とあり、記載ミスについて正面から認めるということはしていませんが、逮捕者をPQいずれで認定しても構わないとしたうえで、「試験問題に不適切な点があったことを心からお詫び申し上げます」とまであるため、実際には記載ミスだったのだと思います)。

2020年09月10日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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