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請求異議の訴えに既判力が作用する理由

請求異議の訴えに既判力が作用する理由は、前訴の訴訟物と請求異議の訴えの訴訟物との間における同一関係・先決関係・矛盾関係のいずれを根拠とするのでしょうか。そもそも、請求異議の訴えにおける訴訟物はどのように捉えられるのでしょうか。

まず、請求異議の訴えに前訴確定判決の既判力が作用する形式的根拠として、確定判決についての請求異議の訴えについては、民事執行法35条2項の適用により、異議事由として主張することができることが前訴確定判決の「口頭弁論の終結後に生じたもの」に限られるため、前訴確定判決の既判力が作用することが前提にされているということが挙げられると考えられます。

次に、実質的根拠について、訴訟物どうしが同一関係にあると説明することも可能であると考えられます。請求異議の訴えの訴訟物については、複数の見解があり、現在は、給付判決についての請求異議の訴えについては、これが給付訴訟(前訴)の反対形相であるとして、その訴訟物を給付請求権の不存在確認と捉える見解が有力です(すなわち、給付訴訟は給付請求権(実体法上の権利)の確認を訴訟物として執行機関に対する執行命令を求めるものであるのに対して、請求異議の訴えは給付請求権の不存在の確認を訴訟物として執行機関に対する執行禁止命令を求める訴えである、と考えます)(中野貞一郎「民事執行・保全法概説」第3版61~62頁)。この見解によると、給付訴訟と請求異議の訴えの訴訟物は、いずれも、同一の給付請求権となりますから、訴訟物の同一関係が認められます。

さらに、実質的根拠について、前訴確定判決と請求異議の訴えの訴訟物との間における矛盾関係によって説明することも可能であると考えられます。髙橋宏志「重点講義  民事訴訟法  上」第2版補訂版597頁では、既判力が後訴に作用するかについては、「一度決められたことの蒸し返しは許されない」という既判力の基本に戻って、「前訴判決と後訴訴訟物の矛盾、先決で考える」べきであり、「訴訟物が前後で同一、矛盾、先決だけにこだわって考える必要はなく生産的でもない」とされています。この見解を前提にすると、次のように考えることが可能です。請求異議の訴えは、債務名義の執行力を排除し、強制執行を阻止することを目的として、主として債務名義に表示された請求権の存在や態様に関することを異議事由として主張するものです(中野貞一郎「民事執行・保全法概説」第3版60~63頁)。そして、前訴確定判決が債務名義である場合(民事執行法22条1号)には、異議事由として、前訴確定判決の既判力により確定されている前訴の訴訟物たる給付請求権の存在や態様が前訴確定判決の既判力により確定されたものとは異なるということを主張することになります。そうすると、請求異議の訴えにおける訴訟物についてどのように捉えようが、前訴確定判決の既判力により確定されている前訴の訴訟物たる給付請求権の存在や態様と(=前訴判決)と、訴確定判決の既判力により確定されている前訴の訴訟物たる給付請求権の存在や態様が前訴確定判決の既判力により確定されたものとは異なるということを内容とする異議事由により基礎づけられる導かれる請求異議の訴えの訴訟物とは、矛盾関係に立つといえます(仮に前訴確定判決の既判力により確定されている前訴の訴訟物たる給付請求権の存在や態様が正しいのであれば、その存在や態様が判決により確定されたものとは異なるということを内容とする異議事由により基礎づけられる請求異議の訴えの訴訟物の存在が否定されるからです)。

なお、前訴確定判決の既判力が前訴確定判決についての請求異議の訴えに作用するということは、判例・学説上、当然のことと理解されています。したがって、論文試験では、特段の指示・誘導のない限り、上記の形式的根拠や実質的根拠について言及することなく、既判力が作用すると書いて構いませんし、むしろそうするべきです。

2020年09月10日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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