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被告側の死者名義訴訟における解決方法

原告が訴えを提起し、訴状が被告に送達される前に被告として表示された者が死亡していたところ、相続人が死者名義で応訴したという場合(被告側の死者名義訴訟)、被告が訴状送達前に死亡しているために潜在的な訴訟係属の発生が認められないから、任意的当事者変更の手続によるべきであり、原告は当事者を死者から相続人に変更することができるといったことが、伊藤塾のテキストや工藤北斗先生の論証集には書いてあります。もっとも、被告として表示された死者を被告として確定する場合、被告が訴状送達前に死亡しているため、訴状の有効な送達はなく、二当事者対立構造は発生していないとして訴訟係属の発生が認められないので、任意的当事者変更の旧訴の取り下げを観念することはできないのではないでしょうか。

原告が訴えを提起し、訴状が被告に送達される前に被告として表示された者が死亡していた場合(被告側の死者名義訴訟)、被告を死者として確定する限りにおいては、①当事者の実在を欠くために訴え自体が不適法になる上、②訴状送達の無効により訴訟係属の発生も認められず、③判決も無効になるという理解が一般的であると思われます(伊藤眞「民事訴訟法」第6版118頁、和田吉弘「基礎から考える民事訴訟法」初版89頁)。その上で、④原告を救済するための法律構成としては、訴訟承継の規定(124条1項1号・2項)の類推を選択することになります(伊藤眞「民事訴訟法」第6版118頁、和田吉弘「基礎から考える民事訴訟法」初版89頁)。

訴訟係属は、訴え提起に基づいて裁判所が訴状を「被告に送達」する(138条1項)ことにより発生するものです(伊藤眞「民事訴訟法」第6版171頁)。被告に訴状が送達された時点で、二当事者対立構造が発生するからである。そうすると、訴状に被告として表示された死者を被告として確定する場合、有効な訴状送達がないし、実在しない死者を被告としているのだから二当事者対立構造を求める余地もないから、いわゆる潜在的な訴訟係属すら認められないと思います。仮に、いわゆる潜在的な訴訟係属すら認められないのであれば、訴訟係属を前提とする任意的当事者変更も、訴訟承継の規定(124条1項1号)の類推適用(④)も認められないように思えます。なお、任意的当事者変更とは、訴訟係属後に新たな当事者との間における訴訟係属を発生させることを目的とする訴訟行為ですから(伊藤眞「民事訴訟法」第6版121頁、和田吉弘「基礎から考える民事訴訟法」初版92頁)、訴訟係属を前提とするものです。

もっとも、伊藤眞「民事訴訟法」第6版118~119頁は、「外観上訴訟係属が発生する」とする一方で、「表示説にもとづいて訴状に表示された死者が当事者であるとすれば、存在しない者を当事者とする訴訟係属が発生する余地は認められな」いとしつつ、表示説を前提とした解決手段の1つとして「訴訟係属後の死亡に準じて、訴訟承継を前提とする黙示の受継がなされたものとみなす」という構成を挙げています。これは、適法な訴訟係属の発生は認められないものの、外観上訴訟係属が発生していることに鑑み、訴訟係属を前提とする124条1項1号・2項を類推適用する見解(上田徹一郎「民事訴訟法」85頁)であると思われます。このように、外観上訴訟係属が発生していることに着目して、訴訟係属を前提とする124条1項1号・2項の類推適用が肯定されるのであれば、同じく訴訟係属を前提とする任意的当事者変更も可能なのではないかと思います。

2020年09月09日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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