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合併承認決議の取消事由と合併差止事由の関係

著しく不当な対価による吸収合併について、合併承認決議に831条1項3号の取消事由がある場合において、合併承認決議に3号取消事由があること自体が合併差止事由に該当すると理解することは、748条の2が略式合併以外の場合については合併対価の著しい不当性を差止事由から除外していることと矛盾するのではないでしょうか。また、合併承認決議に3号取消事由があること自体が合併無効原因に該当すると理解することは、合併対価の不公正が合併無効原因に該当しないと解することと矛盾するのではないでしょうか。

まず、合併承認決議に著しく不当な対価による吸収合併が可決されたことを「著しく不当な決議」とする3号取消事由があることと、合併無効原因との関係についてです。3号取消事由が認められる場合、合併対価が著しく不当であること(=「著しく不当な決議」を基礎づける)に加え、「特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって」当該議案が可決されたというプラスアルファの事情も認められます。そうすると、合併承認決議に3号取消事由があることが合併無効原因に該当すると理解しても、合併対価が著しく不当であること自体を合併無効原因としていることにはなりませんから、合併対価が著しく不当であることが合併無効原因に該当しないと解することと矛盾しません。実際、著名な基本書・演習書でも、合併対価が著しく不当であること自体は合併無効原因に該当しないと解する一方で、合併承認決議に3号取消事由があればそのことが合併無効原因に該当するという立場が採用されています(髙橋ほか「会社法」第2版500頁、田中亘「会社法」第2版670頁、伊藤靖史ほか「事例で考える会社法」第2版98~99頁)。

次に、合併承認決議に著しく不当な対価による吸収合併が可決されたことを「著しく不当な決議」とする3号取消事由があることと、合併差止事由との関係についてです。ここでは、取消事由のある株主総会決議であっても決議取消しの訴えが提起された決議取消判決が確定するまでは有効なのだから、合併承認決議に取消事由があること自体は合併差止事由に当たらず、取消判決の確定が必要なのではないかという、合併承認決議に取消事由がある場合全般を対象とした問題が生じます。これには、①合併承認決議に取消事由があること自体が「法令・・違反」に該当すると考える見解(江頭憲治郎「株式会社法」第6版883~884頁、弥永真生「リーガルマインド会社法」第14版318頁、髙橋ほか「会社法」第2版496頁)と、②合併承認決議の取消判決が確定された段階で初めて承認決議を欠くという意味での「法令・・違反」が認められると考える見解(田中亘「会社法」第2版654頁、「リーガルクエスト会社法第4版418頁」)があります。①は、合併承認決議に取消事由があることについて、それを理由として合併承認決議が取り消されることで合併承認決議を欠くという「法令・・違反」が生じるおそれがあるにとどまらず、それ自体が「法令・・違反」に該当すると考える見解です(髙橋ほか「会社法」第2版496頁)。合併承認決議の取消事由を1号2号と3号とで区別して、3号取消事由の場合には、実際には差止請求が差止仮処分命令申立事件として争われ、仮処分に関する数日という短い審理期間内に3号取消事由の有無を判断することが困難であるために合併対価が著しく不当であることが差止事由から除外されたという784条の2の立法趣旨に抵触との理由から、取消判決がなければ差止事由に該当しないと解する見解もあるようです(伊藤靖史ほか「事例で考える会社法」第107頁)。なお、①・②の対立点を形成判決である取消判決の確定の要否に求めるならば、②の見解からも、確認訴訟の対象にとどまる承認決議の無効原因・不存在原因については、それ自体が「法令・・違反」として差止事由に該当すると理解することになると思われます。論文対策として、いずれの見解に立っても構わないと思います。

2020年09月08日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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