加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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直接取引の限界事例における処理の流れ

加藤先生の秒速・総まくり2020を受講している者です。会社法の利益相反取引について質問です。秒速・総まくり2020では、直接取引における「ために」について名義説に立った上で、⓪取締役本人が会社との取引の相手方となる場合、①甲社代表取締役Aが甲社・乙社双方を代表した場合のみならず、②甲社代表取締役Aが乙社だけを代表した場合、③甲社代表取締役Aが甲社だけを代表し、形式的には乙社を代表していない場合、⑤甲社代表取締役Aが乙社の事実上の主宰者である場合、⑥甲社代表取締役Aが乙社の100%株主である場合、⑦甲社代表取締役Aが乙社の過半数株主である場合、及び⑧甲社代表取締役Aが取引相手方Dの配偶者等である場合についても、誰の名義であるかについて実質的に判断する立場から直接取引に該当する余地を認めています。私はこれまで、直接取引における「ために」について名義説に立ち、誰の名義であるかについて形式的に判断し、「ために」に該当しない場合には間接取引の成否を検討するという理解に立っていました。答案では、秒速・総まくり2020の考えと従来の私の考えのいずれに従うべきでしょうか。

直接取引における「ために」についての名義説の内部でも、誰の名義であるのかをどこまで実質的に判断するかについて見解の対立があります。会社の承認を経ない直接取引の効力は絶対的無効であるため、相手方の取引安全を図るためには、誰の名義であるかを形式的に判断するべきという要請が働きます。この要請を重視して、誰の名義であるかは形式的に判断するべきであり、具体的には、取締役本人が会社との取引の相手方となる場合、取締役が取引相手方を代表又は代理する場合だけが直接取引に該当すると理解する見解もあります(髙橋ほか「会社法」第2版195頁参照)。この見解からは、⓪・①・②だけが直接取引に該当し、③・⑤・⑥・⑦・⑧については直接取引該当性を否定した上で間接取引の成否を検討することになります。

平成24年予備試験の出題趣旨は、③に属する事案について、直接取引であると認定することを解答の本筋として想定しています。そのため、少なくとも、⓪・①・②に加え、③については、直接取引と認定するのが無難であると思います。

⑤・⑥・⑦・⑧については、事案に応じて複数の構成があり得ると思います。例えば、(1)会社承認がない事案で取引の効力が問われており、かつ、取引相手方の主観的事情(会社承認の有無に関する認識等)が問題文にある場合には、相対的無効説で論じたほうが出題者の想定に沿うので、「誰の名義であるかについて形式的に判断する見解に立ち直接取引該当性を否定する⇒間接取引該当性を認定する⇒相対的無効説の論証・当てはめ」という構成によるべきです。直接取引で認定すると、絶対的無効説が適用されることにより、問題文中の取引相手方の主観的事情を拾うことができず、配点項目を落とすことになるからです。これに対し、(2)取締役の損害賠償責任(423条1項)が問われている場合には、免責事由の主張・立証による免責の可否(428条1項)との関係で、直接取引と間接取引とで違いが生じる余地があります。(ア)会社ひいては株主の利益を重視するのであれば、直接取引を認定することで、428条1項直接取引により、自己のために直接取引をした取締役について免責事由の主張・立証による免責を否定するという構成が考えられます。もっとも、(イ)428条1項は間接取引にも類推適用できると解するのであれば、間接取引と認定しても、428条1項類推適用により自己のために直接取引をした取締役について免責事由の主張・立証による免責を否定することが来ますから、会社ひいては株主の利益の保護という制度趣旨との関係で不都合はありません(髙橋ほか「会社法」第2版195頁参照)。

2020年09月08日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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