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改正民法下における不当利得の体系

改正民法下では、不当利得について、衡平説ではなく、類型論を前提として、4類型(給付利得・侵害利得・費用利得・求償利得)ごとに要件を区別して論じるべきでしょうか。そうだとした場合、例えば、XがYに侵害利得の返還請求をする場面では、請求原因として①Yの受益と②Yの受益がXに帰属すべきものであることを認定すれば足り、Yの抗弁として権利喪失の抗弁等を主張できるかを検討していく、ということになるのでしょうか。つまり、「損失」や「因果関係」に明示的に言及する必要はないのでしょうか。

潮見佳男「民法(全)」第版483頁及び潮見佳男「基本講義  債権各論Ⅰ 」第3版321頁では、潮見佳男教授の見解として、民法が費用利得・求償利得・給付利得に対応する各規定を設けている(費用利得:595条・608条・650条等、求償利得:459条・702条等、給付利得:121条の2・545条等)ことを根拠として、「703条・704条の規定は、もっぱら、侵害利得の類型について妥当する。-給付利得・費用利得・求償利得には適用されない。-とみるのが適切である。あわせて、民法典が採用している不当利得の体系は、もはや(債権法改正後においては)衡平説では説明が付かないものとなっている。」と書かれています。

もっとも、注意するべきは、あくまでも「民法は、類型論を基礎に据えた不当利得の体系を基礎に据えている」だけであり、703条・704条以外の規定(不当利得としての観点からの個別規定)が設けられていない場面については、一般規定である703条・704条を条文の文言通りに適用して処理して構わないということです(「構わない」というのは、類型論で処理する必然性はないという意味であり、類型論を排斥する趣旨ではありません。)。

試験対策としては、衡平説と類型論の対立についてあまり気にする必要はないと思います。703条・704条以外の規定(不当利得としての観点からの個別規定)が設けられている場面では当該個別規定を適用して処理する、703条・704条以外の規定(不当利得としての観点からの個別規定)が設けられていない場面については703条・704条を条文の文言通りに適用して処理する、という整理で構いません。例えば、潮見佳男「民法(全)」第版483頁及び潮見佳男「基本講義  債権各論Ⅰ 」第3版321頁では、「703条・704条の規定は、もっぱら、侵害利得の類型について妥当する。」とありますが、この理解からも、厳密には、侵害利得のうち、個別規定が適用される物の果実・使用利得の返還については189条・190条の適用(使用利益の返還については類推適用)により処理され、個別規定が適用されない場面については一般規定である703条・704条を適用しても構いません(もちろん、後者の場面についても類型論を採用して、侵害利得固有の要件で処理することも可能です)。

2020年09月08日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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