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抵当権侵害を理由とする妨害排除請求の要件

抵当権者が、抵当権設定後に抵当不動産の所有者から占有権限の設定を受けてこれを占有する者に対して、抵当権侵害を理由とする妨害排除請求として、直接自己への抵当不動産の明け渡しを求め積場合、①「抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状況があるとき」、②「その占有権限の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ・・る・・とき」、③「抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない」ことという3つの要件のうち、③の要件だけを満たせばいいのでしょうか。判例(最一小判平成17・3・10・百Ⅰ89)の判旨を見ると、③だけが要件のようにも見えます。ところが、某予備校答練で、③だけでなく①・②も満たす必要があると書いてありました。加藤先生はどのようにお考えでしょうか。

㋐抵当権に基づく妨害排除請求が「不法占拠者」を相手方とするものであり、かつ、抵当権者への直接明け渡しを求めるものでない場合には、①だけで足ります。

㋑抵当権に基づく妨害排除請求が「占有権限を有する者」を相手方とするものであり、かつ、抵当権者への直接明け渡しを求めるものでない場合には、①に加え②も必要です。②まで必要とされるのは、抵当不動産所有者の賃貸権限(抵当権は非占有担保であるから、抵当不動産の使用収益権限(賃貸権得を含む)は抵当不動産所有者に留保される。)との調整を図るためです(道垣内弘人「担保物権法」第3版183頁、171頁)。なお、①の中に②の趣旨が含まれているとして、②を独立の要件とすることに批判的な見解もありますが、②は①と区別された加重要件であると捉えるのが一般的な理解です(「民法判例百選Ⅰ」第8版89事件の解説参照)。

㋒抵当権に基づく妨害排除請求が「不法占拠者」を相手方とするものであり、かつ、抵当権者への直接明け渡しを求めるものである場合には、①に加え③も必要です。請求の相手方が「不法占拠者」であるため、抵当不動産所有者の賃貸権限との調整は不要ですから、かかる調整を趣旨とする②は不要です。

㋓抵当権に基づく妨害排除請求が「占有権限を有する者」を相手方とするものであり、かつ、抵当権者への直接明け渡しを求めるものである場合には、①・②に加え③も必要です。

抵当権に基づく妨害排除請求の原則的効果は「抵当権設定者への明け渡し」であり、「抵当権者への明け渡し」は例外的効果です。そのため、例外的効果に属する「抵当権者への明け渡し」を求める場合は、原則的効果に属する「抵当権設定者への明け渡し」を求める場合と比べて、要件として③が加重されることになります。㋐・㋑は原則的効果に属する「抵当権設定者への明け渡し」を求める場合であるため過重要件である③は不要とされ、㋒・㋓は例外的効果に属する「抵当権者への明け渡し」を求める場合であるため過重要件である③が必要とされるわけです。

2020年09月08日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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