加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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公法上の確認訴訟と無名抗告訴訟の

令和1年司法試験の出題趣旨では、土地収用法47の2第1項に基づく権利取得裁決の無効確認訴訟の補充性が問題となっている設問2(1)について、無効確認訴訟の比較対象としては「C市に対する土地所有権確認請求や本件土地の移転登記の抹消登記請求を内容とする民事訴訟たる争点訴訟」を挙げるべきだとされており、同年採点実感では、比較対象として「明渡裁決を受けない地位の確認訴訟」を挙げる答案について「抗告訴訟との関係の整理がされていない訴訟を挙げる答案」として批判されています。ここから、司法試験委員会は、本事例にける「明渡裁決を受けない地位の確認訴訟」を無名抗告訴訟に位置づけていると理解できます。
一方で、二項道路一括指定処分(建築基準法42条2項)がなされ、自己所有地の一部が「2項道路に該当しないことをAが訴訟によって確定させるためには、どのような訴訟を提起し、どのような主張をすべきか」が問われた平成18年司法試験設問1について、平成18年司法試験の出題趣旨では、Aは法定抗告訴訟である二項道路一括指定の無効確認訴訟と公法上の当事者訴訟であるセットバック義務不存在確認訴訟を提起することが想定されているようです。これに対し、平成18年司法試験の類似事例に関する最一小判平成14・1・17(百Ⅱ154)の調査官解説では、2項道路一括指定の不存在確認訴訟について、「結局、公権力行使に関する不服の実体を有するものといえ・・いわゆる無名抗告訴訟として理解せざるを得ず、これを実質的当事者訴訟として構成することは困難ではないかと考えられる」とされています。
これらを踏まえ、公的義務不存在確認訴訟について、公法上の確認訴訟と無名抗告訴訟とを区別するためには、どのように考えればよろしいでしょうか。

公法上の確認訴訟と無名抗告訴訟の区別については、中原茂樹「基本行政法」第3版400頁の記述が参考になると思います。

最高裁平成24年判決(最一小判平成24・2・9・百Ⅱ207)は、職務命令に基づく公的義務の不存在確認訴訟について、それが「将来の不利益処分たる懲戒処分の予防を目的とする」ものである場合には、「本件職務命令の違反を理由とする懲戒処分の差止めの訴えを本件職務命令に基づく公的義務の存否に係る確認の訴えの形式に引き直したもの」であり、「行政処分に関する不服を内容とする訴訟」として「無名抗告訴訟」に当たると判示しています。これについて、中原茂樹「基本行政法」第3版400頁では、公的義務不存在確認訴訟を①公的義務の不存在を確認することにより将来の行政処分を制約する可能性のある訴訟と②行政処分以外の不利益の予防を目的とする訴訟に大別した上で、①について、㋐将来の行政処分を予防することを主たる目的とするものと㋑現に義務(権利制限)が課されていること自体による損害の発生・拡大の予防を主たる目的とするものに分類します。その上で、①・㋐は無名抗告訴訟、①・㋑と②は公法上の確認訴訟(実質的当事者訴訟)であると整理しています。

二項道路の一括指定処分に関して問題となる行政事件訴訟は、(1)二項道路の一括指定処分の取消訴訟・無効確認訴訟、(2)二項道路の一括指定処分の不存在確認訴訟、(3)二項道路の一括指定処分に基づくセットバック義務の不存在確認訴訟の3つです。これらのうち、(1)は法定抗告訴訟です。(2)は、調査官解説でも指摘されている通り、法定抗告訴訟としての処分不存在確認訴訟です。(3)は、平成18年司法試験の出題趣旨では公法上の確認訴訟であるとされており、上記①②の分類からしても、①・㋑として「公法上の確認訴訟」に位置づけられることになります。

令和1年司法試験の採点実感では、「確認の対象が、例えば、明渡裁決を受けない地位の確認訴訟のように、抗告訴訟との関係の整理がされていない訴訟を挙げる答案が見られた。」と指摘されており、ここでは「明渡裁決を受けない地位の確認訴訟」が無名抗告訴訟であると理解されていると思われます。明渡裁決は事業認定処分を前提とする将来の行政処分ですから、「明渡裁決を受けない地位の確認訴訟」は、(公的義務不存在確認訴訟ではありませんが)将来の行政処分(明渡裁決)を予防することを主たる目的とするものとして、①・㋐に当たり、無名抗告訴訟に位置づけられることになります。

令和1年司法試験の採点実感では、「市に対する訴訟として、「現在の法律関係に関する訴え」としての民事訴訟のほかに、「収用されない地位の確認訴訟」・・など、不適切なものを一緒に羅列している答案があったが・・、このような答案は、仮に一部に適切なものを含んでいたとしても、基礎的理解の正確性を疑わせるものがある。」との指摘もされています。この指摘が何を意味しているのかはっきりしませんが、おそらく、「収用されない地位の確認訴訟」は事業認定処分を前提とする将来の行政処分である権利取得裁決又は明渡裁決を予防することを主たる目的とするものとして、①・㋐に当たり、無名抗告訴訟に位置づけられるという理解を前提とした指摘であると思われます。

上記の①・㋐、①・㋑、及び②という3つの分類に従って考えてみるといいと思います。

2020年09月07日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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