加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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平成23年司法試験において、営業の自由や知る権利・知る自由を問題にすることが不適切であるとされる理由

平成23年司法試験の出題趣旨では、「公道から当該地域の風景を撮影したZ機能画像をインターネットで見ることができる機能に基づくサービス」を規制する法令の憲法21条1項適合性が問われた事案において、知る権利・知る自由を問題にすることについても批判されています。営業の自由という弱い権利を選択することについて「センスが悪い」と批判されることは理解できるのですが、憲法21条1項で保障される知る権利・知る自由は弱い権利ではないので、どうして知る権利・知る自由で論じることまで批判されているのでしょうか。

営業の自由で構成する答案に対する批判と、知る権利で構成する答案に対する批判は、その理由が異なります。

営業の自由で構成する答案に対する批判の理由は、①理論上は「営業の自由」を問題にすることも可能である(憲法22条1項の保護領域と制約を満たす)が、②三者間形式では違憲の結論に向けられた原告主張から論述が始まるにもかかわらず、「表現の自由」を問題にする余地がある事案でわざわざ負け筋の「営業の自由」の侵害を主張させるというのは、違憲の結論に向けられた主張を展開することが求められている原告側の論述としておかしい、というものです。しかも、③問題文には、原告側の言い分として、Z機能画像がこういった意味で受け手(ユーザー)に奉仕するのだということが具体的に書かれており、受け手に奉仕するという観点から「表現の自由」としての保障について論じてほしいというヒントがあるのですから、「表現の自由」を飛ばしていきなり「営業の自由」で論じることは解答筋として予定されていないということを、問題文のヒントから読み取ることもできます。平成23年司法試験の事案でいきなり「営業の自由」で論じることが批判される理由は、訴訟当事者としての視点を欠くという②と、問題文のヒントを無視している(空気を読んでほしい)という③にあります。

知る権利については、「本問において、X社はユーザーの「知る権利」侵害を理由として違憲主張できるとするのは、不適切であり、不十分でもある。まず、ここで「知る権利」と記すことが、「知る権利」に関する理解が不十分なものであることを示している。X社の提供する情報は,政治に有効に参加するために必要な情報ではないし,政府情報等の公開が問題となっているわけでもない。」、知る自由については、「ユーザーは不特定多数の第三者であるので、特定の第三者に関する判例を根拠にX社がユーザーの「知る自由」を理由に違憲主張できるとするのは、不適切であり、不十分である。そもそも「知る自由」は、他者の私生活をのぞき見する自由を意味しない」と批判されています(平成23年司法試験・出題趣旨)。知る権利・知る自由のいずれについても、批判の主たる理由は、④本事例におけるユーザーの権利を知る権利・知る自由として構成することには無理があるという、理論上の問題点にあり、訴訟当事者としての視点を欠くという②や問題文のヒントを無視している(空気を読んでほしい)という③とは異なるものです。

なお、知る権利と知る自由が「表現の自由」を規定する憲法21条1項によって保障されるとする見解の背後には、人間は様々な情報を知ることを通じて表現の対象とする自分の思想・意見を形成するという意味で表現の自由が送り手と受け手の立場の互換性を前提にしているという考えがあります(青柳幸一「憲法」初版170~171頁)。ところが、「他者の私生活をのぞき見する」ことについては、表現の自由が送り手と受け手の立場の互換性が認められないため、「そもそも「知る自由」は、他者の私生活をのぞき見する自由を意味しない」(平成23年司法試験・出題趣旨)として「知る自由」としての保障が否定されることになります。

2020年09月07日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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