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善意者からの背信的悪意者(論点が顕在化する2つの場面)

民法の質問です。善意者からの転得者が背信的悪意者である場合という論点において、善意の第二譲受人が登記を備えた時点で所有権を確定的に取得し、第一譲受人は所有権を喪失するため、転得者に対して物権的返還請求はできないという考えは間違っているのでしょうか?この考えだと転得者が背信的悪意者でも「第三者」に当たるのかという論点がそもそも出てこないことになる気がします。

善意者からの背信的悪意者も「第三者」(177条)に当たるかという論点は、1⃣転得者である背信的悪意者から第一譲受人に対して物権的請求をする場面と、2⃣善意の第二譲受人が登記未了である場面を念頭に置いた議論であり、3⃣善意の第二譲受人が移転登記を完了している場合に、第一譲受人が転得者に対して物権的請求をする場面を想定した議論ではないと思います。

ご指摘の通り、3⃣のケースでは、善意者からの背信的悪意者が「第三者」に当たるかという論点が問題となることなく、転得者による対抗要件具備による所有権喪失の抗弁(第二譲受人が移転登記を具備したことを理由とするもの)が認められ、第一譲受人の物権的請求が棄却されることになるからです。

以下では、1⃣、2⃣、3⃣のケースごとに説明します。

ケース1⃣

①AがBに対し甲土地を譲渡した→②AがC(善意)に対しても甲土地を譲渡し、Cに対する移転登記も完了した→③CがD(背信的悪意者)に甲土地を譲渡し、移転登記も完了した→④DがBに対し甲土地所有権に基づき土地明渡請求をしたという事例を前提とします。

Dは、請求原因として、Aもと所有、AC売買、CD売買、B占有の4点を主張します。

Bは、AB売買(Bの「第三者」該当性)と権利主張の2点を要件事実とする対抗要件の抗弁を主張します。

Dは、自己も「第三者」に当たるため、DとBとが対抗関係に立つことを前提として、移転登記による対抗要件具備を再抗弁として主張します。

これに対する再々抗弁、又は法律上の主張として、Bは、Dは背信的悪意者であるため「第三者」に当たらないから、Dの再抗弁は認められないと主張することになると考えられます。ここで、善意者からの背信的悪意者も「第三者」に当たるかという論点が顕在化します。

ケース2⃣

①AがBに対し甲土地を譲渡した(移転登記未了)→②AがC(善意)に対しても甲土地を譲渡し、明渡しも完了した(移転登記未了)→③CがD(背信的悪意者)に甲土地を譲渡し、明渡しも完了した→④BがDに対し甲土地所有権に基づき土地明渡請求をしたという事例を前提とします。

Bは、請求原因として、Aもと所有、AB売買、D占有の3点を主張します。

Dは、AC売買、CD売買、権利主張の3点を要件事実とする対抗要件の抗弁を主張します。

Bは、背信的悪意者の再抗弁を主張します。

これに対する再々抗弁又は法律上の主張として、Dは、善意者Cから譲り受けたのだから「第三者」に当たると主張することになります。ここで、善意者からの背信的悪意者も「第三者」に当たるかという論点が顕在化します。

ケース3⃣

①AがBに対し甲土地を譲渡した→②AがC(善意)に対しても甲土地を譲渡し、Cに対する移転登記も完了した→③CがD(背信的悪意者)に甲土地を譲渡し、移転登記も完了した→④BがDに対して甲土地所有権に基づき所有権移転登記抹消登記手続を請求したという事例を前提とします。

Bは、請求原因事実として、Aもと所有、AB間売買、D名義の登記の3点について主張します。

Dは、対抗要件具備による所有権喪失の抗弁として、AC間売買(Cの「第三者」該当性」)、Cの移転登記完了の2点について主張します。

Dが上記抗弁を主張するに当たり、Dが「第三者」に当たることは不要ですから、善意者からの背信的悪意者も「第三者」に当たるかという論点が顕在化することなく、Dの上記抗弁が認められることにより、Bの請求が否定されるとの結論が導かれます。

したがって、ケース3⃣では、善意者からの背信的悪意者も「第三者」に当たるかという論点は顕在化しないと考えます。

なお、ケース3⃣において、理論上は、Cの移転登記具備を理由とする対抗要件具備による所有権喪失の抗弁ではなく、Dの移転登記具備を理由とする対抗要件具備による所有権喪失の抗弁や対抗要件の抗弁を主張することが可能であり、後二者の抗弁の場合には、Dの「第三者」該当性が必要となるため、Bの背信的悪意者の再抗弁との関係で、善意者からの背信的悪意者も「第三者」に当たるのかという論点が顕在化します。もっとも、Dとしては、わざわざ後二者の抗弁を主張する実益はないので、Cの移転登記具備を理由とする対抗要件具備による所有権喪失の抗弁を主張するはずです。

2023年03月22日
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講師紹介

加藤 喬 (かとう たかし)

加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
司法試験・予備試験の予備校講師
6歳~中学3年 器械体操
高校1~3年  新体操(長崎インターハイ・個人総合5位)
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
労働法1位・総合39位で司法試験合格(平成26年・受験3回目)
合格後、辰已法律研究所で講師としてデビューし、司法修習後は、オンライン予備校で基本7科目・労働法のインプット講座・過去問講座を担当
2021年5月、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立

執筆
・「受験新報2019年10月号 特集1 合格
 答案を書くための 行政法集中演習」
 (法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 令和元年」
 憲法(法学書院)
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