加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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違憲審査基準の定立過程で考慮し得る「制約の態様」の範囲

いつもブログをありがたく拝見しております。加藤ゼミナールで司法試験対策フルパックを受講している者です。
違憲審査基準の定立に関して質問させて頂きます。
加藤先生は、講座等において、「違憲審査基準の厳格度は、権利の性質と制約の態様を考慮要素として決定する。制約の態様では具体的な規制の態様には言及せず、学説により類型化された規制態様を考慮するにとどめる。」と説明なさっているかと存じます。では、具体的にどこまで具体的な事項を考慮対象に入れてよいのでしょうか。
たとえば、宗教法人の解散命令制度を定める宗教法人法81条の合憲性について違憲審査基準を定立する際、①解散命令が宗教的行為に対する間接的制約にとどまることのみならず、②解散命令により信者に生じる具体的な影響まで考慮してもよいのでしょうか(実際、加藤先生は基礎問題演習講座第11問において②まで考慮されているかと存じます)。
上記の点につきまして、詳細にご教示頂けますと幸いでございます。
ご多用のところ恐縮ですが、宜しくお願い申し上げます。

違憲審査基準の定立過程で考慮し得る「制約の態様」の範囲については、予め厳密に決めることは困難です。類型的なものは違憲審査基準の定立過程で考慮し、具体性のあるものは手段必要性(場合によっては、手段相当性)で問題にするという、アバウトな棲み分けしかできないと思います。

例えば、違憲審査基準の定立過程で罰則の存在に言及することについて、令和2年司法試験(職業の自由を規制する法令)の採点実感では、「罰則があるので緩やかな基準を採れないという答案があったが、審査基準は権利に対する制約の態様、強さで定立されるべきである。罰則の有無は目的達成手段の審査において考慮されるべき事柄であると思われる。」と説明されている一方で、令和4年予備試験(私企業における争議行為を制限する特措法)の出題趣旨では「例えば、全逓東京中郵事件判決…が採った、労働基本権を尊重する必要性と規制する必要性とを比較衡量するという手法のほか、いわゆる厳格な合理性の基準(規制目的が重要なものであり、手段が目的と実質的に関連していなければならないとする基準)のような違憲審査基準を用いるということも考えられる。ただし、「労働基本権が社会権であるから厳格な合理性の基準が妥当する」といった大雑把な理由付けではなく、本問の法律案が労働基本権の行使を禁止し、違反に対して刑罰を科すものであり、労働基本権の自由権的な側面を制限するものであることに着目するなど、規制の性質をも踏まえた理由付けが望ましい。」と説明されています。

このように、違憲審査基準の定立過程で考慮できる「制約の態様」の範囲は、事例ごとに異なり得るものです。

大事なことは、(1)人権ごとの違憲審査基準の厳格度の相場(ベースライン、上限・下限を含む)などを踏まえて人権の性質と制約の態様について丁寧に分析した上で違憲審査基準を定立し、(2)定立した違憲審査基準を正しく運用することで問題文のヒントを正しく網羅的に評価することです。なので、仮に司法試験委員会において「これは違憲審査基準の定立過程ではなく、手段審査で考慮するべきものである」と考えている制約の態様について違憲審査基準の定立過程で考慮していても、減点されることもありません、論述に説得力があれば一定範囲で評価されます(司法試験も予備試験も原則加点方式であり、よほどおかしなことを書かない限り、減点されることはありませんので)。

むしろ、違憲審査基準の定立過程で考慮できる「制約の態様」の範囲について慎重になりすぎた結果、論述が萎縮してしまい、違憲審査基準の定立過程で論じるべき制約の態様を落としてしまうことのほうが問題です。

なお、基礎問題演習講座「憲法」第11問では、宗教法人の解散命令制度の事案において、解散命令により信者の宗教的行為に生じ得る影響について言及しているのは、解散命令が事実上の制約にとどまることを認定するために必要だからであり、事実上の制約にとどまることを認定するために必要とされる限度を超えて具体的な影響に言及しているわけではありません(事実上の制約、間接的制約という「制約の類型」を認定するために必要な限度を超えた具体的な影響については、少なくとも違憲審査基準の定立過程では論じるべきではありませんので。)。

参考にして頂けますと幸いです。

2023年03月22日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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