加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

0

違憲審査基準の定立過程で保護法益の重要性や法益侵害の危険性を考慮することの可否

お世話になっております。
以前から先生は憲法の記事で違憲審査基準設定について複数回言及されてますが、それに関連した質問です。
違憲審査基準設定の前段階では「権利の重要性×規制の強度」を検討した上で、いかなる基準を使用するか検討しますが、その際、権利の重要性では規制対象となる権利と相対する法益は考慮されないと思います(例えば、令和4年予備試験憲法において、「利用者に迷惑かかるから争議権は重要ではない」と書くのは間違いだと思います)。
しかし、集会の自由における集団暴徒化論や営業の自由における「性質上社会的相互関連性が強く公権力による規制の要請が強く、制約の必要性が内在」といった判例法理ではこれらにとどまらず規制対象となる権利に相対する法益について、権利の重要性の段階で言及しているように見られます。
これを踏まえて伺いますが、①上記の私の理解は間違っていますか②間違っている場合にはどこが間違っているか、間違っていない場合には上記の判例法理を説明するロジックを教えていただけますでしょうか。

法令違憲審査の場面では、違憲審査基準の厳格度は、それと逆の相関の関係に立つ立法裁量を尊重する要請の度合いを明らかにすることにより決定され、当該法令に関する立法裁量を尊重する要請の度合いを判定する際の典型的な考慮要素が人権の性質(厳密には、重要性ではなく、重要性も含んだより広い概念としての「人権の性質」です。)と制約の態様(厳密には、制約の強度ではなく、制約の強度も含んだより広い概念としての「制約の態様」です。)です。

確かに、制約されている人権と相対する法益の重要性やその法益が侵害される危険性を理由として、人権の重要性が低いと評価して、違憲審査基準の厳格度を下げることはできません。要するに、保護法益の重要性やそれが侵害される危険性の高さ自体を理由として人権の重要性を下げることは許されません。

しかし、当該人権は他の人権に比べて他者の法益を侵害する危険性が高いということを、人権の性質として考慮することにより、違憲審査基準の厳格度を下げる余地はあります。

例えば、薬事法事件判決では、職業の自由の重要性について言及する一方で、「もつとも、職業は、前述のように、本質的に社会的な、しかも主として経済的な活動であつて、その性質上、社会的相互関連性が大きいものであるから、職業の自由は、それ以外の憲法の保障する自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、公権力による規制の要請がつよく、憲法22条1項が「公共の福祉に反しない限り」という留保のもとに職業選択の自由を認めたのも、特にこの点を強調する趣旨に出たものと考えられる。このように、職業は、それ自身のうちになんらかの制約の必要性が内在する社会的活動である…」と述べています。これは、学説の違憲審査基準論の立場からは、職業の自由が「社会相互関連性が大きいものである」ということを、職業の自由の性質として考慮することで、精神的自由などに比べて立法裁量を尊重する要請が高くなるから、違憲審査基準の厳格度のベースラインが下がると述べていると理解することになります。

また、東京都公安条例事件判決は、「集団行動による思想等の表現は、単なる言論、出版等によるものとはことなつて、現在する多数人の集合体自体の力、つまり潜在する一種の物理的力によつて支持されていることを特徴とする。かような潜在的な力は、あるいは予定された計画に従い、あるいは突発的に内外からの刺激、せん動等によつてきわめて容易に動員され得る性質のものである。この場合に平穏静粛な集団であつても、時に昂奮、激昂の渦中に巻きこまれ、甚だしい場合には一瞬にして暴徒と化し、勢いの赴くところ実力によつて法と秩序を蹂躙し、集団行動の指揮者はもちろん警察力を以てしても如何ともし得ないような事態に発展する危険が存在すること、群集心理の法則と現実の経験に徴して明らかである。従つて地方公共団体が、純粋な意味における表現といえる出版等についての事前規制である検閲が憲法21条2項によつて禁止されているにかかわらず、集団行動による表現の自由に関するかぎり、いわゆる「公安条例」を以て、地方的情況その他諸般の事情を十分考慮に入れ、不測の事態に備え、法と秩序を維持するに必要かつ最小限度の措置を事前に講ずることは、けだし止むを得ない次第である。」と述べています。これは、学説の違憲審査基準論の立場からは、集団行動の自由は、思想・意見を外部に発表するものであり「表現の自由」として憲法21条1項により保障されるものである一方で、集団暴徒化論を理由として、判示に係るような危険性が内在している性質の権利であるとの理由から、通常の「表現の自由」を制約する法令に比べて立法裁量を尊重する要請が高くなると考え、違憲審査基準論の厳格度を下げていると理解することになります。

なお、そもそも判例は、利益較量論に立っているため、違憲審査基準論に比べて違憲審査における自由度が高いです。なので、判例が違憲審査でやっていることだからといって、違憲審査基準論を前提とした答案において当然にできるわけではありません。例えば、酒類販売免許制事件判決では、目的と手段とで違憲審査の厳格度が異なりますが、それは判例が違憲審査基準論ではなく利益較量論に立っているから許されるわけです。

参考にして頂けますと幸いです。

2023年03月10日
講義のご紹介
もっと見る

コメントする

コメントを残す

コメントをするには会員登録(無料)が必要です
※スパムコメントを防ぐため、コメントの掲載には管理者の承認が行われます。
※記事が削除された場合も、投稿したコメントは削除されます。ご了承ください。

加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

kato portrait
加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
質問コーナーのカテゴリ
ブログ記事のカテゴリ