まず、昭和53年判決は、違法収集証拠排除法則による排除の要件として、①「違法の重大性」と②「排除の相当性」の2つを挙げており、この2つは並列要件ではなく重畳要件であると理解されています(リーク第2版423頁、事例演習第3版478頁)。
次に、最高裁は、先行手続には違法があるが後行手続である直接の証拠収集手続には違法がないという事案において、「違法性の承継論」を用いています。すなわち、第1に、密接な関連性の有無により先行手続の違法が後行手続に承継されるかを検討し、第2に、違法性の承継が認められるときは、先行手続の違法の程度も十分考慮して①後行手続の「違法の重大性」と②「排除の相当性」を検討します。なお、平成15年判決のいう「密接な関連性」は、昭和63年決定や平成7年決定のいう「同一目的・直接利用」を包含するところの、違法性承継の基準であると理解されています(つまり、前者が上位概念であり、後者は下位概念の1つにすぎないということです)(事例演習第3版499~505頁、川出判例講座Ⅰ初版454~454頁)。
そして、最高裁は、違法な手続によって収集されたために違法収集証拠排除法則により証拠能力が否定される第一次的証拠に基づいて獲得された第二次的証拠(これは一般に、「派生的証拠」と呼ばれます。)の証拠能力の有無については、「違法性の承継論」ではなく、「毒樹の果実論」を用いて判断しています(事例演習第3版505~506頁)。「毒樹の果実論」は、先行する違法な”手続”と最終的に得られた”証拠”との関係を論じる「違法性の承継論」とは異なり、”第一次的証拠”と”第二次的証拠”との関係を問題として、㋐第一次的証拠の収集方法の違法の程度、㋑収集された第二次的証拠の重要性及び㋒第一次的証拠と第二次的証拠の重要性(事案の重大性は㋒として考慮される)を総合考慮して第二次的証拠の証拠能力を判断します(リークエ第2版427頁、事例演習第3版480頁)。
このように、最高裁は、証拠能力が問題となっている当該証拠の直接の収集手続に違法がない事案において、「違法性の承継論」と「毒樹の果実論」を使い分けています。例えば、大津事件における平成15年判決は、違法な逮捕手続(先行手続)→採尿手続(後行手続)による尿・鑑定書の獲得→尿・鑑定書を疎明資料として発付された捜索差押許可状による捜索・差押えにより覚せい剤を発見・押収という事案において、尿・鑑定書の証拠能力については「違法性の承継論」により判断する一方で(結論として、証拠能力を否定した)、派生的証拠である覚せい剤の証拠能力については「毒樹の果実論」により判断しています(結論として、証拠能力を肯定した)。
もっとも、上記と異なり、「違法性の承継論」と「毒樹の果実論」を使い分けるのではなく「端的に、当該違法行為(先行行為)と因果関係を有する証拠が、どのような場合に、その証拠能力を否定されるのかを検討すればよい」とする川出教授の見解(事例演習第3版509頁、リークエ第2版428頁)や、「違法性の承継論」で一元的に処理すべきとの違法性の承継論一元説(事例演習第3版508頁、512頁)もあります。論文試験では、理論構成をシンプルにして抽象論の論述を減らすために、川出説や違法性の承継論一元説に立つのもありだと考えます。私は、大津事件型の事案では、時間がなければ法性の承継論一元説で処理するべきだと考えます。
なお、違法なエックス線検査の射影写真等を一資料として発付された捜索差押許可状による捜索・差押えにより発見・押収された覚せい剤等の証拠能力が問題となった事案に関する平成21年決定については、「密接な関連性」の有無について明示的に言及していないものの、「違法性の承継論」を採用していると理解されているので(川出判例講座Ⅰ初版464~466頁、事例演習第3版507~508頁)、平成21年決定により「違法性の承継論」が放棄されたと考えるべきではありません。
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