加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

憲法における違憲審査の枠組み(判例と学説の違い)

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判例は、多くの場合、違憲審査の手法として、「一定の利益を確保しようとする目的のために制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を具体的に比較衡量する」という「利益較量」論を採用しており、「違憲審査基準」そのものは採用していないと理解されています。

最高裁は、例えば猿払事件における合理的関連性の基準や薬事法事件における厳格な合理性の基準などのように、違憲審査基準っぽい基準を定立することもありますが、それは大きな判断枠組みである「利益較量」論による判断の指標として言及されているものにすぎないと理解されています(堀越事件における千葉勝美裁判官の補足意見参照)。

  ” 猿払事件大法廷判決は、本件罰則規定の合憲性の審査において、公務員の職種・職務権限、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無等を区別せずその政治的行為を規制することについて、規制目的と手段との合理的関連性を認めることができるなどとしてその合憲性を肯定できるとしている。この判示部分の評価については、いわゆる表現の自由の優越的地位を前提とし、当該政治的行為によりいかなる弊害が生ずるかを利益較量するという「厳格な合憲性の審査基準」ではなく、より緩やかな「合理的関連性の基準」によったものであると説くものもある。しかしながら、近年の最高裁大法廷の判例においては、基本的人権を規制する規定等の合憲性を審査するに当たっては、多くの場合、それを明示するかどうかは別にして、一定の利益を確保しようとする目的のために制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を具体的に比較衡量するという「利益較量」の判断手法を採ってきており、その際の判断指標として、事案に応じて一定の厳格な基準(明白かつ現在の危険の原則、不明確ゆえに無効の原則、必要最小限度の原則、LRAの原則、目的・手段における必要かつ合理性の原則など)ないしはその精神を併せ考慮したものがみられる。もっとも、厳格な基準の活用については、アプリオリに、表現の自由の規制措置の合憲性の審査基準としてこれらの全部ないし一部が適用される旨を一般的に宣言するようなことをしないのはもちろん、例えば、「LRA」の原則などといった講学上の用語をそのまま用いることも少ない。また、これらの厳格な基準のどれを採用するかについては、規制される人権の性質、規制措置の内容及び態様等の具体的な事案に応じて、その処理に必要なものを適宜選択して適用するという態度を採っており、さらに、適用された厳格な基準の内容についても、事案に応じて、その内容を変容させあるいはその精神を反映させる限度にとどめるなどしており(例えば、最高裁昭和58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁(「よど号乗っ取り事件」新聞記事抹消事件)は、「明白かつ現在の危険」の原則そのものではなく、その基本精神を考慮して、障害発生につき「相当の蓋然性」の限度でこれを要求する判示をしている。)、基準を定立して自らこれに縛られることなく、柔軟に対処しているのである(この点の詳細については、最高裁平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁(いわゆる成田新法事件)についての当職[当時は最高裁調査官]の最高裁判例解説民事篇・平成4年度235頁以下参照。)。”(堀越事件における千葉勝美裁判官の補足意見の抜粋)

もっとも、試験対策上は、利益較量論と違憲審査基準論は明確に区別するべきであり、大きな枠組みとして利益較量の判断手法を用い、その際の判断指標として違憲審査基準っぽい基準を用いるという書き方は避けるべきです。

司法試験の出題趣旨・採点実感及び予備試験の出題趣旨では、利益較量論という違憲審査基準論は明確に区別されているからです。

例えば、令和4年予備試験の出題趣旨では、私鉄職員の争議行為等の禁止が問題となった事案に関して、次のように述べられています。

  ” 労働基本権の制限が公共の福祉のための必要やむを得ない限度の制限(全農林警職法事件判決(最大判昭和48年4月25日、刑集27巻4号547頁)参照)に当たるかどうかをどのような枠組み又は基準を用いて判断するかが問題となる。これについては、例えば、全逓東京中郵事件判決(最大判昭和41年10月26日、刑集20巻8号901頁)が採った、労働基本権を尊重する必要性と規制する必要性とを比較衡量するという手法のほか、いわゆる厳格な合理性の基準(規制目的が重要なものであり、手段が目的と実質的に関連していなければならないとする基準)のような違憲審査基準を用いるということも考えられる。ただし、「労働基本権が社会権であるから厳格な合理性の基準が妥当する」といった大雑把な理由付けではなく、本問の法律案が労働基本権の行使を禁止し、…労働基本権の自由権的な側面を制限するものであることに着目するなど、規制の性質をも踏まえた理由付けが望ましい。”(令和4年予備試験憲法の出題趣旨の抜粋)

そして、司法試験委員会は、「保障⇒制約⇒違憲審査基準の設定⇒当てはめ」を違憲審査の基本的な枠組みであると理解しています(平成28年以降の司法試験の出題趣旨・採点実感参照)。

したがって、学説が違憲審査基準を採用している領域では、利益較量論に立っている判例を「違憲審査基準の定立・適用」という枠組みに引き直して理解・使用するのが無難です。

例えば、酒類販売免許制事件判決では、酒類販売業の免許制について、薬事法事件大法廷判決を参照して、①「一般に許可制は、…狭義における職業選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定し得るためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する」と述べる一方で、②当該免許制は「租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的」に基づくものであり、「総合的な政策判断」及び「極めて専門技術的な判断」が必要であるとの理由から、「必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り」合憲であると述べています。このように、規制目的と規制手段とで要求されるハードルの高さがずれており、このようなことが許容されるのは、判例が利益較量論に立っているからです。

これに対し、学説の違憲審査基準論に従って理解するのであれば、目的審査と手段審査とで厳格度を一致させる必要があるため、判例のように規制目的と規制手段とで要求されるハードルの高さが異なるということは許されません。この点については、職業規制が出題された平成26年司法試験の採点実感でも、「定立した審査基準と、目的審査において求められる正当性のレベルがかみ合っていないものが多かった。例えば、厳格な合理性審査を採りながら、目的が「正当」であればよいと記述している答案などである。」として批判されています。

このように、試験対策として判例を学習する際には、学説が違憲審査基準論を採用している領域については、違憲審査基準論に従って答案を書く必要がありますし、それ故に、判例学習の際にも学説の違憲審査基準論に引き直す形で判例を整理する必要があります。

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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