加藤ゼミナールで倒産法講座を担当している深澤直人講師が令和6年司法試験倒産法の即日作成答案を作成しましたので、私のブログでも紹介させて頂きます。
問題ごとの詳細な雑感もありますので、是非参考にして頂きたいと思います。
第1問
【雑感】
設問1について
- 破178条、177条に辿り着くことができたか
- 破178条、177条に辿り着くことができたとして、その双方を挙げることができたか(司H30採点実感参照)
が評価の分かれ目であると考えます。
.
- 取締役が負う善管注意義務の具体的内容
- 本件でとるべき「保全処分」の具体的内容
は、加点部分になるものと思われます。
設問2について
- 破産者の義務として説明義務(破40条)及び重要財産開示義務があることを何らかの形で述べることができていること
- 条文上「破産管財人」が主体となっている何らかの手続を示すことができていること
が評価の分かれ目であると考えます。
私の答案例における郵便等の回送嘱託の上申(2頁(3))及び裁判所による引致命令(破37条。2頁(2))は必須のものではないかもしれませんが、採り得る手段として載せました。
設問3前段部分について
この部分は、本問で唯一判例百選掲載裁判例(32事件)がある部分です。しかしながら、本裁判例について押さえている方はかなり少ないのではないかと存じます。
私の答案例では32事件に拠って答案を作成しておりますが、32事件に沿って書いていないからといって、合否に影響はないと存じます。
むしろ、
破161条1項の否認の要件をしっかり検討しているか、というところが重要です。
この要件充足性の検討をどれだけ丁寧にできたか、というところが評価の分かれ目であると考えます。
以下は、書くことができれば優秀な答案とされる部分だと存じますが、「破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していた」(161条1項2号)といえるかについて、本問の特殊性を踏まえた論述をすることができているかがポイントとなるものと思われます。
すなわち、A社がEから受領した財産を既存債務の弁済に充てたという間接事実から、本件事業譲渡当時に、隠匿等の処分をする意思なかったといえるのではないかという点に気付くことができているかが優秀な答案とされるか否かの分水嶺であると存じます。
この点について、何らかの解釈論を示し、既存債務の弁済を受けた人物が破産者たるA社の内部者と評価されるFだったということを示すことができれば完璧だと思われます。
設問3後段部分について
この部分は、本問の中で(過去問全体を通しても)かなりの難問(奇問)であると考えます。合格レベルという意味では差がつかない問題です。
私の調査不足かもしれませんが、この部分について参考となる下級審裁判例や基本書の記載とは見当たらなかったです。そのレベルの問題です。
ただ、一応の解答は示したいと思い、上記の参考答案例を作成いたしました。
私の参考答案例では、「債務引受け」が併存的債務引受けか免責的債務引受けかで場合分けをしておりますが、私が受験生であれば、①近年の司法試験で場合分けをさせる問題が出るとは考え難いこと、②問題文中に“債務を免除する”とか“債務を免責する”という旨の約定がなされていないこと、から本件の債務引受けを併存的債務引受けと評価して論述をすすめていくと思います。
そのように記載した場合の解答例を添付させていただきます。
第2問
【雑感】
設問1 小問(1)
まず、民再172条の3第1項について摘示することは必須だと思います。
過去の出題趣旨及び採点実感を参照すると、頭数要件及び議決権額要件が定められた趣旨についても触れることができれば加点となると思われます。
頭数要件は再生計画案の可決要件に特有のものであるということから、私の参考答案例では、頭数要件の趣旨について言及しました。
設問1 小問(2)
本小問は、条文検索能力及び条文適用能力を問う問題です。
差が付くポイントは、
-
- 民再87条に辿り着くことができたか
- 民再87条に辿り着くことができなかった場合、3つの債権ごとに議決権額がどのようになるのかを規範を立てる等して説得的に論じられたか、です。
現場で民再87条に辿り着くことができなかったとしても致命傷にはならないかと思いますが、民再87条に従って検討することができた答案は高い評価が得られるかと思います。
設問1 小問(3)
小問(2)と同様に民再87条を検索することができたかを問う問題です。
この点、民再87条に辿り着くことができなかった場合には、現場思考論点という扱いになるものと思われます。
この現場思考において、何らかの理由を付して、再生手続開始決定時の評価額をもとに議決権額を決する旨の解釈論を展開することができていれば、大ダメージということにはならないと考えます。
問題文中に、「再生手続開始決定時には1ユーロ140円であった…」との記載があるので、少なくとも規範は、“債権の額が外国の通貨を基準とする場合には、再生債権の議決権額は、再生手続開始決定時の額を基準として判断するべきであると解する”となることは透けて見えると思います。このような規範を理由付けとともに示すことができれば沈むことはないかな、という印象です。
設問1 小問(4)
小問(4)の差がつくポイントは、
-
- 799人の再生債権とDの再生債権を区別することができたか
- 何らかの形で民再101条3項を摘示することができたか
- 形式的問いに答えることができたか、すなわち、再生計画案の決議における取扱いや、再生計画認可決定が確定した場合の取扱いについて答えることができたか
という部分になるものと思われます。
特に、民再101条3項は摘示することが必要かと思われます。
私の答案例では、Dの再生債権について原則として免責の対象となる(民再178条1項本文)とした上で、民再181条1項3号に該当し、例外的に免責の対象とならないかを検討しています。
また、その中で、「知ってい」た(民再101条3項)の判断基準についても検討しておりますが、この点は合格レベル・上位合格レベルとの関係でも不要であると思われます。
(司H27採点実感が「答案の中には、『知っている』との上記要件の意義について検討し、解釈指針を示した上で、本件の事情がこれに該当するかどうか論述したものと、その意義について検討することなく、本件の事情が『知っている』に該当するかどうかを平板に論述したものがあり、前者が相対的に優良と評価された」と述べているため、一応この点にフォローをした形になります)。
設問2 小問(1)
本小問は、民再105条1項に辿り着くことができたかがポイントです。
直接的には、Eが現時点で採り得る手段が問われていると読み取るのが素直かと思われます。ですので、民再106条1項の査定の申立てについての裁判に対する異議の訴えはあくまで加点部分になるのかな、と予想しているところです(題趣旨及び採点実感には民再106条1項についても触れることが期待される旨記載されることが予想されますが…)。
設問2 小問(2)
本小問は何とか食らいつける問題であると存じます。
少なくとも、違約金条項の有効性が問題になりそうだ、ということに気付くことができれば、何とか現場思考の道へ進むことができるかと思いました。
私の参考答案例は、問題文の事実を素直にとらえて違約金条項を無効としておりますが、違約金条項を有効と考える見解も十分想定されます。結論はどちらであってもよいものかと考えます。
なお、私の参考答案例では、民再49条1項に基づく解除の場合にも本件違約金条項が適用されるか(判例百選78②事件参照)という点についても検討しておりますが、加点部分になるものと思われます。
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